分断 8
フローが戦っている後ろで、彼女の戦闘を見ていた人がいた。その人物はメイトだ。そもそもこの空間に干渉できるのは彼以外にいない。彼はある程度、傷が癒えたため、戦闘の様子を見に来たのだ。ミラクルガール三人を連れてきた位置とあまり変わらない位置に扉を作り出し、中の様子を覗いている。扉を全開にするわけではなく、少しだけ開いて隙間から覗くように見ていた。彼が見ているのはフローとリブラの戦闘だ。彼女たちに放置されているかのように倒れているカイトも確認できた。カイトは倒れているが、死んではいない。瀕死と言うわけでもないのを核にすると、彼はカイトの後ろに扉を作り、彼を回収した。
「メイト。壁の向こうにサクラさんとラピスさんがいます。早く、こちら側に連れてきてください」
カイトが必死に訴えてくる。メイトは扉から覗いた範囲にサクラがいなかったのを見て不思議に思っていたが、カイトの言葉でその問題も解消された。彼の言う壁が、視界の端にずっと映っていた緑色の壁のことだろう。彼は壁の向こうに扉を作り、その向こうの様子を覗いてみた。その先では戦闘は行われていないようだった。彼は気拳がなさそうなことを確認すると、壁の向こう側に降り立った。サクラとラピスに近づいていくと、そこにはサクラとラピスの前に、カイトとメイトと戦ったあの女性がいるのが見て取れた。しかし、倒れているところを見ると、二人が倒したと理解するのは難しいことではないだろう。彼はそのまま、二人に近づいていく。彼に先に気が付いたのはサクラだ。
「メイトさん。もう大丈夫なんですか」
「ああ、だから来たんだ。壁の向こうでフローが戦ってる。二人を壁の向こう側に送りたいんだ。三人いても、リブラに勝てるかはわからないんだが、それでも行くか」
彼の問いにサクラとラピスは視線を合わせて、頷いた。二人に迷いなど無いらしい。
「行きましょう!」
サクラの言葉はメイトにとっては予想通りだった。彼女がここで引き下がるような人ではないことは、少ない付き合いでもわかることだろう。だが、それゆえに、頑張りすぎないかと言う心配はあるのだが、無茶をするなと言っても聞かないということも理解しているつもりだった。だから、彼は自分にできるのは、彼女たちが倒れそうになった時に無理やりにでも回収することだと考えていた。
メイトは、二人を連れてコピー空間を移動する。そして、再び空間内に扉を開いた。今度は隙間からではなく、がばっと大きく開いた。扉を開いたのはメイトではなく、サクラだ。こっそり入れば、不意打ちも出来たかもしれないが、彼女の頭にはきっと、フローを助けることしかないのだろうと、メイトは勝手に思った。
リブラはフローの背後に二人のミラクルガールが何もない空間から突然出てきたように見えた。しかし、そのからくりは理解している。メイトの超能力の仕業だ。彼の超能力のせいで、この空間から出ることも簡単ではない。さらにリブラには今、退治している敵もいる。邪魔さえなければ、この空間を壊すのは難しいことではなかった。つまりは、ミラクルガールを倒すことさえできれば、この空間から脱出できるということだ。外からの干渉は不可能であるから、カプリコーンに援護してもらうこともできない。だが、リブラには負けるという思いは一つもなかった。それも当然である。彼女が持っているは己が信仰する主の力の一端なのだ。
「……倒されましたか。所詮は、植物と言うことですね」
リブラは攻撃を止めて、二人が合流するのを待っているかのようだった。フローはその間に攻撃するなんてことはしない。いや、そもそも大した攻撃なんてできていない。相手が攻撃をやめた時点で、次の攻撃の準備かもしれないと警戒して、攻撃することが出来なかったのだ。
「フロー! 大丈夫ですか」
後ろからサクラの声が聞こえて、ようやく相手が攻撃を止めた理由を理解した。合流の前に、自分だけを殺すことより、一度に三人を潰すことにしたのだろうと解釈した。
「大丈夫ってわけではないな。あのシスターは半分ゾンビらしい。強力な再生能力のせいで殺すことは出来ないみたいだ。本音を言えば、逃げるべきだと思うんだが」
サクラはフローが逃げるという選択肢を提示したことに驚いていた。彼女は逃げるとは言いそうになかったからだ。しかし、彼女が逃げるという選択肢を取ろうとするほどに強いともとれる。逃げるなら、メイトの助けがいるだろう。だが――。
「簡単に逃げられる相手じゃないようです」
ラピスがサクラの心の中を言葉にした。




