分断 1
分断された三人。リブラと対峙しているのはフロー。ヘマタイトと対峙しているのはサクラとラピスだ。未来が読めないのだから、言っても仕方のないことだが、リブラのいる方に二人、ヘマタイトとは一人で戦うべきだっただろう。彼女たちも実際に、そう思っているが今はどうしようもなかった。
「とにかく、ヘマタイトと戦わないといけないです。ラピス、戦えますか」
「はい。どうして、あの人の味方をしているのか訊きましょう。どんな事情であっても、私たちが彼女の味方をするのです」
ラピスもサクラも戦意は十分にある。しかし、それは相手を倒すための物ではない。ヘマタイトがどうして敵に味方をしているのかを聞くために、疲れさせるという物だった。そして、二人はこの戦闘がどれだけ大変なのか、理解はしていた。単純に相手を倒すだけなら、そこまで難しくはないだろう。ヘマタイトの魔法は確かに脅威だが、彼女はまだ、魔法を完璧には使いこなしていなかったことをラピスは知っている。だからこそ、彼女を殺すという目的なら、二人で対処すれば難しいことではない。
だが、相手を必要以上に傷つけないようにしようとすると、話は変わってくる。彼女たちは強力な魔法も超能力も使えない。当たり前だが、人を一撃で殺してしまうような魔法の使い方もできない。そして、彼女に魔法を使い続けられてはいけないのだ。体内の魔気が無くなると、生物は衰弱して死に至る。通常であれば、その前に魔法の使用が出来なくなるが、今の彼女はどこか様子がおかしい。魔気切れになる前に、彼女を無力化しなくてはいけないのだ。二人はそれぞれに対策を考えているが、いい作戦などはない。そうして、考えている間にヘマタイトが動き出した。
彼女の周りには小さな石がいくつも生成された。それらは、いきなりトップスピードで二人に迫る。土の壁で防ぐことは出来ないと直感して、その場から飛びのいた。二人は反対方向に飛んだ。ヘマタイトは、ラピスを狙い、小石を打ち続けた。ラピスはそれを紙一重で回避している。その間に、サクラがハサミの一方を彼女の方に投げた。それは相手の注意を引き付けるために投げたもので、彼女に当てる気はないものだ。しかし、その狙いは全く達成することはなかった。自分に当たらないとわかっている攻撃を気にすることはない。一瞬だけ、サクラの方に意識が向いたようだが、その攻撃が自分にあたらないとわかると、興味をなくしたようにラピスの方を向いて攻撃を続ける。
当てる気で攻撃しないと、注意を引き付けることもできない。サクラには難しいことだった。彼女にはヘマタイトに向かって、攻撃することは嘘でもできない。殺意をこめられないと攻撃と認識されないのだ。それを込められるほど、ヘマタイトを敵と認識してない。それに、何か事情があるということを理解してしまっている以上、本気で殺そうとなんて思えないだろう。サクラの手も足も止まる。思考しているわけでもない。いや、思考はしている。しかし、堂々巡りで解決策を生むような有意義な思考ではなかった。
ラピスはステップを踏むように攻撃を避けながら、その視界にはヘマタイトとサクラが映っていた。魔法は複雑な動きを見せていないため、サクラを気にできる余裕があった。そして、サクラが動かなくなったのを見て、彼女がすぐに戦闘に参加できる状態でなくなったことを理解していた。相手が、ヘマタイトでなければこうはならなかっただろう。
とにかく、ラピスはサクラがどうにか復帰するまでは自分がどうにかするしかないと考えていた。回避に専念していることは出来ない。ある程度はこちらも魔法を使って反撃するしかない。彼女は土の魔気を体の表面に沿わせた。そして、回避を止めて、ヘマタイトに突撃する。小石が体に当たっているのが衝撃でわかるが、それは大したダメージではない。ヘマタイトの正面に来ると同時に、彼女に風の魔法で衝撃波を作り出して、彼女の体全体にその衝撃がぶつかるように放つ。ほぼ零距離の魔法を回避することは出来るはずはなかったが、ヘマタイトは薄い土の壁を作り出して、その衝撃波から身を守った。その際に、後ろに少しだけ下がっていた。そして、土の壁を作り出した後、続けて土の魔法を使用していた。ラピスの目の前に細い柱が伸びてきた。その柱の先端はラピスを狙っている。かなりの速度で、彼女に向かって伸びていく。少しだけ距離が離れたとはいえ、その距離は歩幅にして三歩ほどしか離れていない。その距離で素早い魔法を使えば、零距離で放たれる魔法と変わらないのだ。




