エリート & マスター 6
「その痛みは罰の一部です。私の信仰を貶した罰はこの程度ではありませんよ。背信者にはさらに苦痛の罰を与えましょう」
足に無数の棘が刺さり、常人では耐えきれないような痛みに中でもカイトは余裕そうな表情をしていた。その顔が、リブラの神経を逆なでする。痛みに屈することもなく、自身の信念こそを信じているというその顔がその目がうざったい。リブラは冷静さを保っているように見えたが、彼女の思考を怒りが埋め尽くそうとしているのは間違いなかった。
「……どうやら、痛みでは罰にはならないようですね」
彼女は彼を棘のある植物で縛ったまま、何かを考えていた。そして、彼女は何かを閃いたようだった。
「そうですね。貴方の罰を誰かに代わりに受けていただきましょう。この空間を作り出している物がいずれ戻ってくるでしょうし、その方に身代わりになっていただきましょうか」
彼女がそういうのと同時に、彼女の上に正方形の人が一人程度通れそうな扉が開く。そこから、三人の女性が落ちてくる。桃色、青色、緑色の衣装に身を包んだ彼女たちが地面に降りてきた。
「ちょうどよかったです。代わりに罰を受けるのは貴方達にしましょうか」
「その子たちは関係ないでしょう。罰を与えたいなら私にしなさい!」
カイトが声を上げて抗議しているが、リブラにその声は届かない。カイトは動けないまま放置だ。植物の棘は、いつの間にか消失しているが、その植物はカイトを逃がさないように、彼の体にその蔦が食い込むような強さで巻き付いている。その拘束から逃げることは出来ない。指くらいならいくらでも動かせるが、それだけではその蔦を破ることは出来ない。火の魔法や風の魔法を使って植物に攻撃したが、ダメージはないようだった。つまりは、その植物が解かれるまで、どんな行動もできないというわけだ。
サクラたちがメイトの仲間が戦っているであろう場所に降りてくると、そこにいたのはシスター服を着た女性だった。その後ろには、植物に縛られた男性。サクラたちはその男性がウェットブルーのマスターだとすぐに気が付いた。なぜ、彼がこんな場所で捕まっているのか疑問に思ったが、メイトの言葉を思い出すとすぐに、彼の仲間がマスターだということを理解した。彼を助けたいが、リブラが正面にいる以上、彼をすぐに助けることは出来ないだろう。そして、さらにその後ろで地面に倒れている女性を見つけた。その女性はヘマタイトだということもすぐに気が付いた。彼女もメイトの仲間だったのかと思うと、彼女の魔法の技術の高さも納得できた。
「一人で三人も相手にするのは大変ですから。そろそろ起きてもらいましょうか」
リブラがそう言って、後ろに視線を送る。すると、倒れていたヘマタイトが立ち上がった。サクラはまるで彼女の言葉に従っているような行動だと思った。そして、ヘマタイトが彼女たちの方を振り向いたとき、その目は彼女たちではなく、どこかここえではない場所を見ているように感じた。そして、ヘマタイトは三人に向けて、人一人分ほどの岩の塊を作り出して、サクラたちの方へと飛ばした。その攻撃に驚いてはいたのだが、三人は危なげもなくその攻撃を避けた。その攻撃でサクラとラピスは、彼女が何らかの理由でリブラの言うことに逆らえない状態であるということを理解した。フローはその攻撃に反撃しようと、鉄球を飛ばそうとしたのをサクラが制した。
「攻撃されたんだ。反撃しないと、殺されるぞ」
「いえ、あのシスターを先に倒さないとダメです。多分ですけど、シスターを倒せば、ヘマタイトも正気に戻ると思います」
「……わかった」
一応、フローも今の状況を理解したようで、三人の標的はリブラとなった。しかし、サクラはリブラに勝てるイメージが無かった。それは、この町に来た直後の出来事のせいだった。彼女が暴漢に襲われそうになった時に、リブラは彼女を助けた。そして、その犯人を必要以上に痛めつけていた。その狂気の印象が残っていて、リブラへのトラウマと化しているのだ。彼女と対峙すると、その光景を思い出してしまい、体が強張る。
「さぁ、二対三なら、大変なこともないでしょう。それでは、この方の罰を貴方達に代わりに受けていただきましょうか」
彼女はそれを開戦の合図として、彼女の手から、先端の尖った木の破片のような植物が飛び出した。三人を狙ったそれを回避するために、それぞれが左右のどちらかに避けた。フローが左。サクラとラピスが右。そして、彼女たちの間に飛んだ木の破片のような速物は地面に落ちると同時に、高く太い蔦の壁を作り出した。攻撃すれば、蔦を破ることは出来るが、すぐに他のところにある蔦が貼って来て、そのダメージを修復してしまった。そして、その分断されたフィールドの右側にはヘマタイト、左側にはリブラがいる。




