暴走する悪 8
「みんな、楽しそうでよかった」
朝から祭りを始めて、時間が経ち、そろそろ祭りを終える時間に近づいていた。屋台も用意した分を全て売り切り、店を畳んでいる店も多い。終わりに近づいている今でも、町の人たちは楽しそうにしていた。子供は少し疲れているようだが、それでも両親と楽しそうに騒いでいるのが見えた。中には既に父や母に背負ってもらい眠っている子もいた。その寝顔は幸せそうで、安心しきった笑顔をしていた。
それからしばらくして、町長の元で仕事をしている人たちが、祭りの終わりを告げた。全ての屋台は畳み始めた。と言っても、最後まで営業していた屋台はほとんどなかった。それだけ盛況だったということだろう。後はもう片付けだけだ。町を行く人もそろそろ家に帰る頃だろう。そんな中、彼女たちは町の広場に来ていた。そこにいた人の一部が、空を見上げていた。サクラはそれにつられて、空を見た。空には夕日に照らされている何かが飛んでいるのが見えた。その何かは徐々に大きくなっている。その理由は簡単でこの町に近づいてきているからだった。そして、正体不明だった何かの正体を町の人が叫んだ。
「ティバーフィッシュだっ!」
サクラ以外はそれが何か理解した様子で、そこにいた人々は広場から散っていく。その間に、ティバーフィッシュと呼ばれた魔獣が空を泳いで、この広場に近づいてきていた。サクラたちはそれぞれ胸に鍵を胸に差して変身した。さらにサクラはキャンサーの鍵を使い、ハサミを出現させ、二本に分けて構えた。
ティバーフィッシュはサクラとほとんど同じ大きさの魚だ。口には鋭い牙を持ち、鮮やかな青と緑が入り混じった鱗を持って、体と尻尾をくねくねと横に動かして前に進んでいる。赤い目は鋭く、この町の人たちを獲物と見ているようだ。サクラの元の世界で言えば大きなピラニアと言うのが例えとしてぴったりだろう。彼女の元の世界のピラニアは空を泳ぐことはないだろうが。襲ってきているピラニアは大体二重匹くらいだろうか。それでも、その大きさのせいで、その全てを対処することは出来ない。幸いにも、この魔獣は群れで行動するようで、全てが広場に集まっている。町全体に広がると本当に対処しきれなくなるため、それだけは良かったところだろう。広場にいた町民たちは既に広場から出ていっている。ここで一匹も逃がさず対処出来れば、被害はこの広場にある建物だけで納められるだろう。
大量の魚に対して、フローは空中戦を挑む。翼を広げて、五体ほどを引き付けて、少しずつダメージを与えていった。ラピスは水や風の魔法を使い、魔獣との戦闘をこなす。サクラは土の魔法で足場を作り、建物の二階程度の高度で戦闘をこなす。土魔法の足場からさらに魔法を使って足場を広げる。逃げるような軌道を取っている魔獣にも足場を伸ばして接近する。そして、ハサミを使い、体を真ん中から真っ二つにする。そんな傷を負った魚は生きることなどできるはずもなく、地面に落ちた。それぞれが魔獣との戦闘をこなしているが、いかんせん相手は大きく数が多いのだ。それぞれが一体の相手をしている内に、他の魚が攻撃しに来るのだ。そのせいで、うまく立ち回れない。この戦闘に置いては、質より量と言う言葉が支配していた。
空を飛びながら戦闘しているフローは棘の付いた鉄球を使っている。剣を使おうにも一体に構っている間に他のが襲い掛かってくるのだから、剣で相手するのは不利になると考えて、鉄球を使っていた。空を飛び魚たちを引き付けながら、鉄球を相手の胴に思い切りぶつける。肉に鉄球がぶつかり、鈍い音が聞こえ、魚が三体ほどまとめて少しだけ怯んだように横に吹っ飛んだ。しかし、それらはすぐに体勢を立て直して彼女の追跡を再開する。その魚に追撃出来ば留めもさせるかもしれないが、追撃する前に他の魚が彼女に襲い掛かろうとしているのだ。この魚が翼に噛み付けば、彼女は空を飛ぶことは出来ないだろう。彼女は自分の翼を守りながら戦闘していた。
ラピスを狙い魔獣たちが彼女に向けて突撃してくる。彼女は風の壁を作り出して、そこを通る魔獣を斬ろうとしたが、そこまでの威力はなかった。相手がその壁を通り抜けるのを見て、彼女は自分の前に黄緑色の輝く球はを作り出していた。その球からはぱちぱちと何かが弾けるような音がしていた。その球から一閃、何かが飛び出し、相手に直撃した。それは電撃だった。その速さの魔法を回避できるほど俊敏ではなく、その魔法は確実に直撃しているはずだが、相手の鱗が地面にカラカラと音を立てて落ちるだけで、本体にはダメージがないようだった。彼女の前に魔獣は大きな口を開けて彼女を食べようとしていた。




