暴走する悪 3
祭りを催すという案を検討して、町の役員たちはそれに賛同した。そして、サクラもその役員会議に呼ばれることになる。彼女は緊張していたが、町長に見せたようなオブジェクトを魔法で作り出して役員たちに見せた。彼らはその魔法を使った時点で驚いていた。そのお陰もあってか、実際にハナビを見るのを楽しみだと言っていた。そして、サクラ一人では大人に混じるのが怖いだろうという理由でラピスが彼女の少し後ろに立っていた。ラピスはその魔法を見ても、彼女ならそれくらいはできるだろうなと思うだけだった。少しの間、一緒に共闘しただけで彼女の魔法の実力の一部はわかったのだ。しかし、ラピスから見れば、彼女はまだ実力を隠しているように見えるのだ。サクラが魔法を使いこなしていないことと、超能力を無意識にしか使えないことと言うことを、ラピスは実力を隠していると考えているのだ。それでも、ラピスはサクラと一緒にいたいと思っている。彼女が危ない目に遭うのなら彼女を守るのだ。きっと、誰が傷ついても彼女は悲しんでしまう。だから、ラピスは自分自身も守る対象にすることにしている。彼女は気が付いていないが、誰が見ても彼女には心があった。それを意識する必要がないほど、彼女には心が溶け込んでいるのである。人だって、自分に常に自分に心があることを意識していない。それと同じくらい、心の存在が当たり前になっているのだ。ちなみにフローはこの場にはいない。彼女は空を飛びながら、この町の治安を維持しているのだ。つまりは空から皆を監視している言い換えてもいいかもしれない。ミラクルガールである彼女の目があるとわかれば、犯罪も減るだろう。しかし、このままでいいわけではないのだ。
「わかりました。サクラさん発案だと公表してもよろしいでしょうか」
役員の一人が彼女に尊い掛けた。彼女は首を傾げて、そのわけを問うた。
「サクラさんは英雄ですから、その英雄の発案だといえば、ほとんどの人が賛成してくれると思ったのです」
「……私は、その無理やりみたいなのは、嫌です。私だからやる、私じゃないからやらないってことなら、それは私のためにやってるみたいじゃないですか? だからその、皆に楽しんでほしいんです。準備も本番も後片付けもです。楽しみだね、楽しいね、楽しかったねって言いあえるような祭りにしたいんです。だから、私がやりたいからとは言わないでほしいです」
サクラの真剣な話をそこにいる人たちはしっかり聞いていた。そして、見た目は子供だが、自分たちが考えていた以上に自分の考えをしっかり持っていることに驚いていた。役員の中には彼女の見た目を考えて子供だからと下に見ていた人もいた。しかし、彼女の考えに賛同するかどうかは別として彼女がしっかり自分の考えを持っているということを認識して、対等に接するべきだと考えを改めた。
「わかりました。貴女の想いはわかりました。しかし、賛同者があまりに少ないと、祭りを開催することもできません。町全体を使うわけですから、様々な人の許可と茶道が必要です。ですから、そのための最終手段として貴女の名前を出させていただきたいのです」
「……それは、仕方ないことなんでしょうか。私の名前じゃないと、賛同してもらえないのでしょうか」
サクラはどうしてもそこは譲りたくなかった。いうことを聞かせるみたいな真似をしたくないのだ。
「今、この町は祭りに対してやる気になってくれる人の方が少ないでしょう。中には、今は祭りで楽しんでいる場合じゃないという意見の人もいるかもしれません。しかし、そう言う人でも、いざ祭りを始めれば明るくなると思うのです。だから、本当の本当に最終手段です」
サクラは引き下がりたくなくても、相手の理論に太刀打ちできる理論は持っていない。この言葉に反論しようとしても、同じような言葉が出てくるだけだろう。相手も自分の想いを理解している。だからこそ、最終手段だと言っているのだ。彼女もそれは理解している。彼らからすれば、これが保険であり、譲れるラインのギリギリなのかもしれない。サクラはそこまで考えて、自分も少しは譲らないといけないだろうなと思った。
「わ、わかりました。最後の最後で、私の名前を出してください」
祭りの許可も取れなければ、祭りは出来ない。誰もが祭りが始まれば、愉しんでくれる人がいることを願って、彼女は許可を出した。
それからはその企画は瞬く間に進められていた。許可が必要な人たちはほとんどの人が簡単に許可をくれたと報告を受けていた。彼女の名前を使ってしまったのは一人だけ。ギルドの賛同の時だけである。彼らからすれば、この町の状況で、祭りに賛同するのは憚られたのである。自分たちのせいで、この状況になっているのにも関わらず、楽しんでいる場合ではないのだと、ギルド長がそう言ったのである。しかし、冒険者であるサクラの名前を出すと、ギルド長は苦い表情で許可を出したのである。祭りの内容は一応、森のスライムを倒し、森が正常になったことを祝うということになっているが、町の人とも狙いは簡単に予想がついていた。それでも、祭りの準備に入ればその狙いのことなんて忘れて、屋台を出す人たちは楽しそうに準備していたし、町に住む子供ははしゃいでいた。それを見て、大人たちも心なしか楽しみにしているように見えた。




