暴走する悪 2
ギルドでの騒動は町の中で、かなりの話題になっていた。もちろん、悪い方向にだ。ギルドでの仕事は誰かからの依頼だ。依頼者がいなくなれば、冒険者は無色とほとんど変わらない。魔獣の討伐が出来ない冒険者はより、無能に見えるだろう。そして、その騒動のせいで町の人からの依頼が少なくなっていた。依頼する人も信頼できる冒険者を指定して仕事を依頼している。そのため、仕事をしても態度の悪い冒険者など、町の人から良い印象を持たれていない冒険者は魔獣を討伐する仕事をするしかなかった。魔獣の生息域がほとんど元に戻ったと言えど、森に入れば強力な魔獣は未だにうろついている。奥に入らなくてもそういった魔獣がいる以上、そこまで戦闘能力の高くない冒険者は稼ぐことが出来なくなっていた。今や、その弱い冒険者たちは、依頼数の少ない弱い魔獣の討伐の仕事を奪い合っている。
落ちた信用を取り戻すというのは難しい。そして、この町の治安は冒険者ギルドの冒険者がいるから悪いことをするのが難しいという点にあったが、冒険者ギルド自体の印象が悪くなったせいで、商品の窃盗や脅して奪い取ると言ったような人も目立つようになっていた。町の雰囲気は暗くなっていく。サクラはその町の現状をどうにかしたいとは思っていたが、何もできなかった。いつものように誰にでも分け隔てなく、挨拶など話かけている。その時は皆、明るく会話しているのだが、彼女と別れると暗い雰囲気に戻っていく。そんな状態が十日以上続いていた。町の人の心も徐々に参っているのが関単に見て取れた。
「サクラさん。申し訳ないのだが、この町の現状をどうにかするのに力を貸してはくれないだろうか」
町の雰囲気に関して悩んでいると、彼女の部屋の戸を叩く人物がいた。それは町長だ。彼も現状を把握して、どうにかできないかと頭を悩ませていたのだ。
「町長である私が対策をするべきなのだが、私一人ではどうすることもできない。だから、君の力を知恵を貸してくれないか」
サクラは迷いながらも、彼女ははい、とその相談を受けた。
「何か、気分の晴れるようなものがあればいいんですけど。お祭りみたいな」
「祭り、ですか。良いですね。どんな祭りにしますか」
「屋台を出して、いくらでも騒げるようにしたいですね。そして、最後には花火を打ち上げましょうっ!」
最後の花火は彼女自身が見たいだけだたが、町長は首を傾げて彼女を見つめていた。
「屋台はわかりますが、ハナビとは一体どういう物なのでしょうか」
サクラはこの町には花火はないのだと、理解して花火の説明をした。空に花火球を撃ちあげて、空に大きな火の花を咲かせるのだと。しかし、彼女の説明はあまりに雑で、町長は頭の上にクエスチョンマークを出していた。彼女はより詳しく説明しようとしたが、そもそも空に花を咲かせるという時点で理解できていないようだった。そこで、サクラはピンと閃いた。この世界には魔法があるじゃないかと思ったのだ。彼女は手元で火の魔法を器用に使い、宙に絵を描くように水の魔気を操る。二次元的な絵ではなく、空間そのものにオブジェクトを置いて、わかりやすく描く。配置されている町は適当だが、町の広場を作った。噴水があることでそこがどこかわかるだろうが、彼女はそこが広場だと町長に説明する。彼は目の前の魔法で作られたオブジェクトに驚いているようだが、彼女はそれに気が付いていない。集中しないと、そのオブジェクトを維持できないのだ。彼女は町の広場から球体を打ち上げる。それはある程度の高度になると、バラバラになり、花を描いて消えた。花火を魔法で再現しながら、彼女は町長にたどたどしく説明する。町長は彼女の作り出したオブジェクトのお陰で理解したようだった。
「いいですね。花火というものは。私も見てみたいですね」
町長は口角を上げながらそう言った。そして、サクラは自分の作ったオブジェクトを見て、魔法技術の向上にはこの方法がかなりいいのではないかと思っていた。繊細に魔法を動かさないとこれを作ることが出来ないだろう。そして、花火を打ち上げるのも魔法で代用できるだろうということに今、気が付いた。町長の中には魔法で作るというイメージしかない。
「あの――」
「すまないが――」
町長と話すタイミングが被り、二人とも言葉を止めた。町長は再び口角を緩く上げると、先にどうぞと手の平を彼女に向けていた。
「すみません。……その、この花火作ってもいいですか」
「ああ、もちろん! 私もサクラさんに頼みたかったんだ。ハナビを見たことがあるのはサクラさんだけのようですから」
考えていることが一致しているということで、彼女は祭りの中で花火を作り出す役割を請け負った。その後、町長と祭りの打ち合わせをする日程を決めた。町長もこの場所で祭りをやりましょうという言葉にすぐに頷くことは出来ない。町全体でやるのだから、町の役員皆で話しあい決めなくてはいけないのだろう。サクラはそれを大して気にしている様子はなかった。元の世界でも、そう言ったことは当たり前のようにあったからだ。




