知性ある魔獣 5
数えきれないほどのスライムが彼女たちに飛び掛かる。数は多いが一度に襲い掛かれる数には限りがある。その上限があるため、二人は戦えていた。しかし、終わりの見えない戦闘は疲れが出やすい。あの雨がどれだけのスライムを生んだのか、予想もしたくない程の量だということしかわからない。それでも、今は戦うことしかできない。フローはサクラの近くに降りて、背中合わせで並んだ。
「サクラ。大丈夫か」
「はい。フローこそ、大丈夫ですか」
「大丈夫だ。ミラクルガールの力がどれだけ強くとも、こうも連戦だと疲れも出てきそうだな。その前に倒したいところだが」
「そうですね。アリエスを封印しなくてはいけませんし」
二人はこれだけのピンチだというのにも関わらず、サクラは元気な笑顔であり、フローは余裕を感じさせる笑みを浮かべていた。それはこの先に勝利があることを人事ているからだろう。二人ならできると、そう信じて疑わない。サクラに関しては、勝つまで戦えば勝てると思っているほどだ。
しかし、信じているだけで勝てるほどの戦力さではないのだ。圧倒的に、戦力が足りない。手が足りない。二人にスライムたちが襲い掛かる。サクラは魔法でまとめて、風の魔法でバラバラにして消失させる。フローは鉄球を作り出し、それを振り回して、周りにいるスライムを弾け飛ばしていた。倒している数は多いはずなのに、スライムが減っている様子はない。
「結構やるね。ミラクルガールさん。見てるのも飽きてきたし……そうだな、どうしようかな」
スライムの喋っているが、その声は二人には届いていない。巨大スライムから見れば、明らかに作り出したスライムは数を減らしていた。全滅することは明らかで、スライムは次の手を考えていた。
「いい加減、倒しておこうかな。もう眠たいし、遊ぶのはもうおしまいにしよ」
その声が森にこだました瞬間、二人の足元から青い液体が二人を捕らえるほどの大きさで噴出した。それは二人を取り囲むような円を描き、徐々に球形になっていく。その中心にはサクラとフロー。小さなスライムたちはその青い急に飛び込んでいく。球は徐々に大きくなり、全てのすらいむが入ると、二人は球の中に閉じ込めた形になる。中は空洞だが、外と繋がっている部分はない。全てが水で覆われた球だ。そして、その球の中は徐々に狭まっている。それはスライムの余裕だった。足元を掬うなんて言われたため、いたぶって殺してやろうとしているのだ。
「これは、水の中、か」
「逃げないと、窒息しますね。どうにかしないと」
「ふむ。では」
フローは鉄球を水の球にぶつけたが、水が震えるだけで穴が開くことはなかった。彼女はそれを予想していたため、あまり焦ってはいない。フローは顎に手を当てて、何か策がないかと考えた。水のない場所でいきなり水が出現するというのは魔法でしかできないことだ。この水の球がスライムの魔法だとすれば、あの魔法は効果があるかもしれない。彼女は両の掌を向き合わせた。その間に緑色の球体が出現した。それは徐々に大きくなり、フローとサクラを包み込む。それは更に大きくなり、二人を囲む水の球に触れる。緑の球は水の球を確実に削っていた。しかし、それ以上、緑の球は広がることが出来なかった。ミラクルガールになったフローの魔法は強力になっているはずだが、それでも水の球を突破することは出来なかった。水を風で揺らし、魔法を維持できないようにすることで、水の球の内側を削っても、それを補填するだけの水をスライムは生み出せるというわけだ。しかし、その緑の球を維持し続けることで、水の球が狭まるのを抑えることが出来ていた。
「これで、しばらくは持つが、この魔法は他の魔法も使えなくなる。それに、この魔法を維持し続けるというのも難しいな。何か、突破する方法を見つけないといけない」
その後、サクラはダメもとで水を挟みで斬ったり、零距離で魔法を使ったりした。拳も魔法も一瞬だけなら、ある程度の大きさの傷を作ることは出来たが、すぐにそれは修復されてしまった。修復より早く掘ることができれば、抜けることもできるだろう。しかし、その途中で水の中に飲み込まれてしまえば、窒息しする可能性が高い。
「いい加減、諦めなよ。そこからは出られない。抵抗するだけ、怖いだけだよ、きっと」
スライムの声は水の中にいても森の中にいたときと同じようにこだまして聞こえてきた。フローも魔法を維持し続けるのも限界だ。魔気が無くなるというより、魔法を使うための想像が維持できない。変化のないものを想像し続けるというのは難しい。
「サクラ。すまない」
フローはその言葉が終わるのとほぼ同時に緑の球の魔法が消失した。二人の視界は良好になったが、再び水の壁が迫ってくる。水を突破できる方法を思いつかない以上、そこから抜け出るのは不可能だ。
「サクラっ! フローっ!」
辺りに響く声。それは聞き覚えのある声だ。サクラはその姿を見る前に、顔を青くしていた。フローは焦りを表情に出すほどだ。
「今の、今の私にできることをっ!」
そこにいたのはラピスだった。冒険者でもない彼女が戦えるはずがない。だからこそ、二人は焦り、冷や汗を流していた。しかし、水の中から、彼女が何かを掲げたのをみた。それは鍵だ。見覚えのある鍵。ラピスはそれを自らの胸に突き刺して、叫んだ。
「ミラクルガール! コール! アクアリウスッ!」




