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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
21 知性ある魔獣
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熱が走る

 フローがサクラに合流しようとしている頃、リトルプラスはようやく森を抜けてきていた。彼らが通った道には魔獣はいなかった。彼らはそれを不思議に思っていたが、その理由は簡単だ。途中からフローが通った道を通っていたのだ。サクラのところに来る途中、彼女の邪魔をしようと立ちふさがった魔獣は全て残らず、フローに討伐されていた。その道を通ったリトルプラスは安全に町に帰ることが出来たのだ。彼らはそんなことは知らずに、森を抜けると急いで、ギルドに向かって走る。フィールとヴァンは息も絶え絶えと言った様子だが、それでも自身の体に鞭打って、ギルドに向けて走る足を止めることは出来ない。逃げてきた自分たちが出来るのは、限界まで走り、今も戦っているサクラの援軍を送るように頼むことだけである。途中で何度もヴァンとフィールが転びそうになったのだが、それをコーチとコンヴィーが体を引っ張ったり、体を受け止めたりしながら、ここまで来た。


 街中を疾走する冒険者と言うのは珍しい光景ではない。しかし、冒険者が走っているということは、それだけ緊急事態の可能性が高いのだ。町の人たちも、それを見ると警戒心を強める。しかし、それは間違いではない。サクラやフローが負けて、あのスライムが町に侵入すれば、この程度の町など蹂躙されて崩壊して終わりだ。もはや、戦闘能力のない一般人は逃げる以外の選択肢はない。


 ヴァンたちがギルドの扉を思い切り開いて中に入る。扉が壁に当たり、大きな音を立てた。それまで騒がしかったギルド内は、静まりかえり、そこにいた人たちの視線は全て、入り口の方へと向いていた。そこにはボロボロのリトルプラスの面々。誰も口を開かなかった。ヴァンはその静けさも感じないまま、受付にいるナチュレの前に立つ。


「ナチュレさん。援護を、援軍を、お願い、したいんです。はぁ、はぁ、はあ」


 ヴァンはそれ以上言葉を続けたくても声が出ない。体が魔気を求めて、息を吸い込もうとしている。彼の言葉の後はコーチが引き継いだ。


「今、サクラが大きなスライムと戦っている。だが、一人では無理だろう。いくら強いとは言え、あの大きさおスライムを一人では倒せない。だから、援軍を送ってほしい。もし、サクラが負ければ、この町は終わりだろうから」


 ナチュレは彼らの言葉を頭の中で噛み砕いて、状況を理解した。全て理解しているわけではないが、大きいスライムを倒すために援軍を集めないといけないというのは理解できた。


「大きいスライムとは、どれくらいの物でしょうか。スライムの大きい以外の特徴はありますか。情報があれば、こちらでも作戦を立てられますから」


「そ、そんな悠長なことしてられないって! 今、今行かないと、サクラさんが、死んじゃうかもしれないの!」


 ある程度息が整ったフィールが大声で、ナチュレに抗議する。今にも受付台に手を叩きつけそうな勢いだ。しかし、ナチュレからすれば、何の情報も、何の作戦も経てない場合は、単純に冒険者たちに死にに行ってくれと言っているような状態になるだろう。未知であることに対して対策することはほとんどできない。ヴァンが興奮したフィールの前に手を出して、落ち着けと合図した。


「サクラさんが、死ぬって、それは本当ですか」


 受付の前にいたリトルプラスの後ろにはラピスがいた。彼女の手には紙の束がある。町長から届けてほしいと頼まれたものだが、彼女はくるタイミングが悪かったかもしれない。


「あの、本当に、サクラさんが、死んでしまうほどの、ピンチにいるんですか」


 ラピスの言葉は落ち着いていた。サクラがそんな状況にいることが信じられないからだ。彼女が死ぬところを想像できない。だからこそ、落ち着いていた。


 反対に、リトルプラスは冒険者であり、そのスライムをその目で見たのだ。どれだけ強くとも、一人では戦って勝つのは不可能だと簡単に理解していた。だから、ラピスの問いに、ヴァンは頷くことしかできない。ラピスは、それ以上彼らには何も聞かなかった。ナチュレの前に持ってきた書類の束を置いて、ギルドから出ていった。


 ギルドから出て、少し歩いて、ポケットに手を入れて、中にあったものを取り出した。それは鍵だ。鍵の頭には波線が二つ並んだマークが描かれている。サクラが欲しいと言わなかったため、ずっと持っていたその鍵はアクアリウスの力を封印したものだ。しかし、彼女はその力があっても自分に何ができるのかと考えて、またポケットに戻そうとした。しかし、ポケットの中で鍵を手から離すことが出来ない。再び、鍵を取り出して、鍵を見つめる。鍵をぎゅっと握った。


「サクラさん、が死ぬなんて、それだけは嫌ですね……」


 彼女は町の出入り口の方を見た。


「私は……」


 彼女は体に溢れる熱を感じていた。それは体に流れる火の魔気なのかもしれない。だが、その熱は彼女の本心を彼女の心に自覚させた。


「自分で、決めて。自分で……」


 彼女は体に溢れる熱が示すままに、走りだした。

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