リトルプラスと6
魔獣がいると迂回していたリトルプラスだが、いくら進んでも魔獣がいて進めないという状況が続いていた。結局、森の奥に進まないと、先へは進めなさそうな状況に五人は置かれていた。森の奥に進むのは明らかに悪手ではあるが、そうしないと森から無事に出られる保証がない。サクラだけであれば、その魔獣の相手をして森を抜けられただろう。しかし、四人も守りながら戦うのは難しい。サクラも誰かを守りながら戦闘することに慣れていない。ただ、サクラはそう言うことを考える前に、リトルプラスの手伝いをしているという感覚であるため、ヴァンの支持を聞こうと考えているだけだった。
「これ以上、森の奥に進みたくはないのですが、ここから森を抜けようとすると、必ず強力な魔獣との戦闘になってしまいます。このまま森を抜けるために無茶をして、大怪我でもすれば目も当てられません。しかし、森の奥に行けばリスクが高まってしまいます」
自分だけでは判断できないと考えた彼は、現状を改めて全員に説明した。それは他のメンバーに判断を仰いでいると考えるべきだろう。サクラ以外は言外に含まれた意味を理解していた。
「私は強くても森の入り口に近い方に行くべきだと思うけど。勝てなくても逃げるだけならできるはずよ」
「町に魔獣を連れていく可能性がありますね。賛成できませんが、最終手段として考えておくべきでしょうか」
そうして、彼らが話し合っているのは、森の奥と言ってもいい場所だ。魔獣の生息域が前の状態ならそれ以上森の奥に入ると強力な魔獣が出てくると言ったラインだ。だが、今は既にそこは森の奥から出てきている魔獣が生息している場所だった。そして、接近するその魔獣に一番に気が付いたいのはサクラだった。
「危ないっ!」
ヴァンの背後から半透明の青色の触手が近づいて生きていた。サクラはそれを魔法で弾き飛ばした。風の魔気を使った衝撃波をぶつけたのだ。触手はその衝撃波によって消滅した。サクラのその行動で、リトルプラスの全員が戦闘態勢に入った。辺りを見回して次の攻撃を警戒しているが、次の攻撃が来ない。
サクラは今の触手を見たことがあった。色は違えど、あんな触手を持った生物が沢山いるとは想像したくない。その触手を持つ生物はスライムだ。彼女がこの森の中で戦ったのは緑色の物だったが、今度は青色のようだ。彼女にとっては緑より青の方が見覚えがある。それこそ、彼女が前にいた世界の物語の中では一番弱いモンスターで登場するのだ。しかし、この世界ではそれが通用しない。そもそも、その世界のスライムはあんなに形を自在に変えることはない。せいぜい集まって大きくなるだけだ。この世界のスライムは自身の形を自在に変えられるし、液状なのだから呼吸できないように口を塞がれたら負けだ。魔法も効果が薄く、外から見てもスライムの弱点である核が見えない。この世界でもかなり強い魔獣と言えるかもしれない。その強力な魔獣が近くにいる。サクラは既に、リトルプラスをどうやって逃がすかだけを考えていた。スライム相手に、四人を守り切るというのはまず無理だと、サクラは理解していた。どれだけ強くとも、四人も守りながら戦えるはずがないのだ。そんな力のある冒険者なら、国一つを一人で守ることが出来るよな人だろう。サクラにはそこまでの力は無い。だからこそ、リトルプラスの四人を早く、安全に逃がしたかった。そのためにはスライムの本体がどこに居るのかを知る必要がある。本体がどこにあるかもわからない状態で、移動してその先に本体がいれば、それだけで守るのは無理だ。
五人は辺りを警戒して辺りを見回していた。
「冒険者の人たち。僕と遊んでくれるの?」
森の中にこだまするように子供の声が聞こえた。少年のような声だ。サクラは近くに子供がいるのかと考えていたが、リトルプラスのメンバーはそんなことは考えていない。冒険者の間では常識だが、言葉を扱う魔獣は少なくない。人や他の魔獣をおびき寄せるために言葉を話すのだ。おびき寄せるため、と言うだけならそこまで脅威ではない。もう一つは滅多に遭遇することはないが、言葉を理解するほどの知性がある魔獣だ。この場合は逃げるのが鉄則だ。知性があるということは、魔獣には効果のある単純で効果のある罠や戦術は見抜かれる可能性が高い。小細工をしても、効果がないこともある。だから、逃げてギルドや町に報告してかなり冒険者と兵士の合同チームで対処に当たるのだ。いくら魔獣でも数で押せば討伐できる。
つまりは、五人程度で対処できるレベルの魔獣ではない可能性があるということである。




