リトルプラスと4
リトルプラスは二匹いた魔獣を倒した。その間、魔獣がこの戦闘に参加するということにはならず、未だサクラの出番はない。そして、まだ三匹倒しただけだというのに、フィールは少し息が上がっているようだった。息を整えるように深呼吸すると、正常な呼吸に戻ったが、それでも冒険者としては体力がない方だと言えるだろう。魔法使いでも冒険者であれば、探索は必須なのだから、体力がないということはほとんどない。
「もう次が来てますね。そろそろ離れたいところでしたが」
ヴァンがそう言うと、リトルプラスは戦闘準備をしていた。先ほどと同じ魔獣がッ三匹、その後ろにその群れのリーダーなのだろうか、今まで戦っていた魔獣の二回りほど大きい魔獣が出てきた。見た目は今まで戦っていた魔獣を大きくしただけだが、体が大きくなったということはそれだけ威力のある攻撃を持っていることになるだろう。もし、群れのリーダーだった場合は、多少知恵のある魔獣の可能性もある。しかし、この状態で背を向けて逃げることは出来ない。背中から攻撃を受ける可能性が高いというのもあるが、このまま逃げても魔獣を町に連れていくことになるからだ。
「さすがに、僕らだけでは対処できないかもしれません。サクラさん、手伝ってくれますか」
「当たり前です。そのために付いてきたんですからっ」
サクラはようやく自分の出番だと思い、彼女は胸に鍵を差して変身した。その様子をリトルプラスのメンバーはじっと見ていた。光輝き、その光が無くなると、既にミラクルガールの服になっていた。そして、ヴァンやフィーネの中で強さの象徴でもある。可愛い見た目とは反して、強い戦闘力を持っている。それがヴァンとフィーネの心に響くものがあるのだ。そして、その憧れの姿が目の前にあるのだから、テンションが上がるのも仕方ない。今はピンチになる寸前だというのにも関わらず、ヴァンもフィールも危機感がないほどテンションが上がっている。しかし、恐怖に負けるよりは断然いいことである。こんな場所で動けなくなった方が危険だ。
「よしっ! これで、百人力ですよ!」
ヴァンが最高潮のテンションで声を上げた。魔獣はすぐそこにいるのにも、関わらず、彼には負けるビジョンなど見えていない。それどころか、サクラがいることで、ヴァンとフィールの士気が上がっていた。
彼らのテンションなど気にせず、小さい方の魔獣がリトルプラスに襲い掛かる。コールが二体の魔獣を止めることは出来たが、一匹はフィールの方へと飛び掛かっていた。しかし、フィールは水の壁を作り、魔獣をその中に閉じ込めた。魔獣は手足を動かしながらもがいている。しかし、サクラのように魔法を持続させられるほどの魔気を操れるものは珍しい。フィールはその珍しいほどの魔気量を持っている魔法使いではない。この世界の魔法使いでは一般的な量の魔気。つまりは、水の中に魔獣を閉じ込めておくことは出来ず、魔獣に纏わりついていた水はすぐに消失した。魔獣は動けるようになり、地面の方に足を向けて着地しようとしていた。しかし、そう簡単には出来なかった。フィールが薄緑色の三日月を相手にぶつけた。それは風の魔法だった。サクラが使う見えない刃の下位互換の魔法だ。その刃が魔獣の体に切り傷を付けた。サクラの魔法のように切断するほどの威力はないものの、確実にダメージを負わせている。しかし、魔獣はどれだけ傷を与えても、怯むことはほとんどない。傷を負わせた魔獣は地面に着地すると今度はヴァンの方へと飛び掛かる。ヴァンは土の壁を作り出し相手の攻撃を受け止めた。壁が消失するのと同時に三角形に斬り出された石をいくつも生成した。それはその魔獣を取り囲むようにして移動して、高速で魔獣に叩き込まれる。一粒あったところで大したダメージではないだろう。しかし、それがいくつも、それも体の全方向から来るとなると話は変わる。ダメージはかなり蓄積されている。ヴァンはそれを理解して、先端の尖った大きな石を生成して、それを魔獣の胴を貫くような位置に飛ばした。魔獣はその魔法に反応して少し体を逸らしたものの岩に直撃する。銅の真ん中でなくとも、胴は完全に貫かれて、穴が開いている。いくら魔獣とはいえ、体が小さい魔獣にとっては耐えられる傷ではない。魔獣は地面に落ちて動かなくなった。
フィールとヴァンが魔獣一匹と戦っている間、コールとコンヴィーは二匹の魔獣を相手にしていた。二対二の状況だ。一匹ずつ倒すならば、簡単な話だろうが、魔獣はそれぞれがどちらを攻撃するかわからない。そして、コーチとコンヴィーはヴァンがいないとうまく連携出来ないのだ。連携するにもヴァンの魔法が間に入って、攻撃を繰り出している二人は、二人だけではうまく攻撃のタイミングを合わせられない。それでも戦えているのは、互いが相手の攻撃に当たらないように、後手に回り戦闘しているからだ。コーチがヴァンの方を見たが、彼は彼で戦闘中だ。コーチは口には出さないが、二人でやるしかないと思っていた。そして、それはコンヴィーも同じことを思っている。




