リトルプラスと3
リトルプラスとサクラは森の中に入り、討伐対象の魔獣を探していた。しばらく森の中を探索していると、目的の魔獣を見つけることができた。魔獣は大した多さではなく、魔獣にしては怖さもない。その魔獣の大きさは人間の膝より低いくらいで、顔はつ大きくつぶらな瞳で、ふさふさの茶色の体毛。耳は三角形で尻尾はふわふわで丸い。見た目だけで言えば、討伐する必要がないような可愛らしさを持っている。だが、その見た目でも、弱くはない。今の森で生存しているというのが、何よりの証拠だ。弱い魔獣は森の中では淘汰されているはずだからだ。
「よし、あの魔獣が討伐対象です。早速、戦闘に入りましょう。依頼書通り、見た目は可愛いですが、遠慮してはいけません。躊躇せずに倒してください」
ヴァンは真剣な顔でそう言った。その注意を皆が真剣に聞いていた。コーチが前に出て、コンヴィーは茂みの中を音もなくは知って移動している。サクラはコーチの後ろ、ヴァンの隣で魔法で戦う役を担う。フィールも魔法で援護する役だ。
「戦闘を開始してくださいっ」
ヴァンのその声と共に、目の前の魔獣にコンヴィーの持つ短剣で二連撃の斬撃を与えた。魔獣は攻撃に気が付き、攻撃してきた彼女の方を向いていたが、すぐにコーチが大剣で大ぶりな攻撃を繰り出して、相手の注意を引いた。魔獣の視線がコーチに向いた時点で、既にコンヴィーはその場から素早く移動していた。魔獣が動かないコーチを前にして、いきなり生えたように見えた鋭い爪でひっかこうとするもその攻撃は彼には届かない。彼の前に魔獣の攻撃に合わせて岩の壁が出現していた。魔獣の攻撃が土の壁にぶつかったと同時に、魔獣は真横から強い衝撃を受けて吹っ飛んだ。その衝撃はコーチが振るった大剣が土の壁が解除されるのと同じ速度で振るったものだ。土の壁が彼の振るう大剣んを先導するかのように消えていく光景が綺麗だった。そして、魔獣が吹っ飛んでいった先にはコンヴィーがいて、魔獣の勢いを利用して短剣を相手の胴に突き刺して、短剣から手を離して離脱。魔獣が反撃しようとしたころには既に近くにコンヴィーはいなかった。
サクラは魔獣を翻弄している連携が凄いものだと思った。彼女は自分は必要ないほどに強いパーティだと感じていた。サクラが手を出す隙間など無い。魔法が前衛の行動を助けて、それを信頼している前衛は攻撃を迷いなく繰り返している。サクラの大雑把な魔法など必要ないのだ。短剣を突き刺されたまま、魔獣はコーチの方へと近づいていく。しかし、コーチに攻撃は届かず、また土の壁でその攻撃を防ぎ、次は魔獣の後ろにコンヴィーが出てきて、突き刺さった短剣を握り、下へ力を掛ける。魔獣の背に深い傷が縦に二つ出来た。魔獣は既に虫の息で、その弱ったところにコーチが大剣を叩きつけた。魔獣は地面にぶつかり跳ねて、地面に落ちた。魔獣は動かなくなり絶命したのを確認した。
「凄い連携ですね。とても綺麗でした!」
サクラは目を輝かせてそう言っていたが、ヴァンは苦笑いをしていた。当たり前の話だが、この程度の魔獣一匹に四人でかかれば勝てないということはまずない。パーティの強さの基準としては、今のレベルの魔獣をパーティメンバーの数の二倍程度の数を倒せると強いパーティと言われる。つまりは、リトルプラスは四人のパーティーで八匹相手にできると強いというわけだ。だから、四対一の今の状況は勝てて当たり前だとヴァンもわかっているのだ。
「次が来る」
サクラと会話する暇もなく、今の戦闘の音を聞いて、魔獣が集まってきているようだった。それでも、次に相手する魔獣は先ほどと同じ見た目の魔獣が二匹だ。サクラは一匹増えただけではきっと戦いにならないだろうと気楽に考えていた。
魔獣の一匹がコーチに飛び掛かる。ヴァンが土の壁を作り、魔獣の攻撃を防ぐ。そうしている間に、二匹目とコンヴィーが戦闘を始める。このまま連携するのかと思いきや、ヴァンが指示を始めた。
「フィールはコンヴィーの援護、コーチは僕が援護します。それぞれに一匹ずつ仕留めましょう。サクラさんは次にくる魔獣の対処をお願いします!」
サクラはそれを了承したものの、次の魔獣はまだ来ていない。辺りを警戒しつつ、それぞれの動きをみていた。
コーチの方は単純な戦法で、土の壁を作り相手の攻撃を弾いては土の壁の消失に会わせて大剣が振るわれる。大剣にふっとばされた魔獣が気にぶつかり停止して、地面に落ちると、すぐに跳びかかってくる。それを土の壁で防ぎ、と言うワンパターンな戦法で戦っていた。頭の悪い魔獣にしか効かない戦法だろう。それに威力の高い攻撃は防ぎきれないはずだ。そして、コンヴィーとフィールの方は、フィールが風の魔法を使いコンヴィーを三次元で飛び回れるようにサポートしていた。魔獣をコンヴィーの攻撃範囲から出さないように、水と風の魔法で支援しながら、短剣で連撃が繰り出されている。こちらもワンパターンだ。この魔獣の頭が悪いため、彼女たちが作り出した風の檻から抜け出せないだけだ。それに大型の魔獣であれば、その攻撃はそもそも通じない。しかし、サクラにはその連携すらも素晴らしいものに見えていた。




