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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
19 無名の男
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無名の男 2

 カニ、熊、スライムとの戦闘から五日ほど経ったところ、サクラはギルドで、魔獣討伐の適当な依頼を受けて、森の中に入っていく。その目的は魔獣を倒すことではない。魔獣の討伐はついでだ。サクラの目的は、自分を助けてくれたあの男にお礼を言うことだ。そのあとに、リトルコーヒーでも一緒に飲みながら、何か話でもしたいと考えていた。


 サクラは森の中を散策していた。彼女が受けている討伐依頼の魔獣は既に倒している。今回の魔獣は大しててこずることもなく、関単に倒せた。普通の冒険者にとってはそこそこ強いはずだが、彼女にとっては敵ではなかったようだ。それも変身しているため、当然と言えば当然である。彼女がもっと力を使いこなすことが出来れば、カニや熊、スライムとの戦闘も苦戦することはなかっただろう。何より、自身の超能力を理解していないというのはかなり、行動を制限されているのと変わらない。彼女自身はそう感じることはないだろうが。


 彼女は見えにくい森の中をキョロキョロしながら探索していた。その途中で、他の冒険者だと思われる悲鳴が聞こえてきた。彼女に耳にはあまり大きな声には聞こえなかったため、そこそこ離れた場所だと予想できた。サクラはそれでも、急いで声の聞こえた方向に走った。超能力で上昇させた上限で、全力疾走して草をかき分けて進んでいく。何度も気にぶつかりそうになっていたが、それでもトップスピードから速度は落ちていない。やがて、木々の隙間に何名かが見えた。対峙しているのは、毛むくじゃらで四足歩行の魔獣であるということしかわからなかった。そして、その魔獣は一瞬のうちにして、消滅した。それから、少し遅れてサクラが到着する。彼女とほぼ同時に、サクラを助けた男が現れた。


「おや、君がこんなところにいるなんて。森の中は危ないよ」


 男は驚いた様子もなく、落ち着いた言葉でサクラにそういった。元からそこにいた冒険者たちは唖然としている。サクラとギルドで噂になっている男がいるのだ。この状況を理解するというのは無理な話だろう。


「この前は助けてくれてありがとうございました! お礼と言っては何ですが、一緒にお茶でもどうですか」


「はは。お誘いありがとう。女性からのせっかくのお誘いだが、断らせていただくよ。私にはやることがあるからね。では」


 男はそう言うと、森の中に姿を消した。それでも、サクラは彼を追いかけていく。


「待ってください。少しでも駄目ですか。今日じゃなくても、明日とか、明後日とかでは駄目ですか」


「しばらくは無理そうです。私の目的が達成できたときには、私からお誘いしますよ」


 男は余裕の笑みで、彼女の誘いを躱していた。サクラはしつこくして、彼を困らせたいわけではない。彼女はそれ以上は無理に誘うなんてことはせずに引き下がった。


 サクラから離れると男は立ち止まる。自身の近くに誰もいないことを確認して、彼はぼそりと呟いた。


「君と一緒にお茶できる未来はきっと凪いだろうね。私の目的が達成できれば、ここにいる必要はなくなるのだから」


 彼は心の中で、独り言がかなり多くなったなと思った。長く一人で行動しているが、一人で行動するようになって、独り言の数がかなり増えたと思っていた。彼はふっ、と笑いながら再び歩き出した。




「あの男の人は何か気になりますね。いつか一緒に食事でもしたいと思いますけど」


 彼女は先ほど襲われていた冒険者の元に戻ってきた。冒険者たちは助けた位置からそこまで移動していなかった。既に恐怖に負けている表情で、辺りを警戒しているが、これで魔獣に出会っても勝てる見込みはないだろう。だから、サクラは彼らを街まで送ることにした。冒険者たちは、その顔から恐怖が取れて安堵して、息を吐いた。サクラがいれば、自分たちが死ぬことはないと確信しているのだ。彼女の強さはこの町の冒険者であれば、知らない人はいない。


「心強いです。サクラさんがついてきてくれれば、安全に町に帰れますよ」


 冒険者のリーダーと思われる男は、サクラより少しだけ背が高い少年顔の男だった。少し話を聞いている内に、彼らのことを教えてもらった。


 彼らは、リトルプラスと言う冒険者パーティを組んでいるようで、そのリーダーが先ほどサクラに話かけたヴァンという男。彼の後ろを歩ている筋肉質な男がコーチ。ヴァンの隣を歩いている釣り目の女性がフィール。最後尾を後頭部で手を組んで歩いている女性がコンヴィーと言うらしい。ヴァンが安心すると同時に、フィールにも笑顔が浮かんだ。サクラの最初の印象は釣り目で怖い、だったが笑うとかわいいと感じて、彼女は怖い人ではないのだろうと思った。コンヴィーとコーチは会話には入って来ないところを見るとこういうコミュニケーションの類はヴァンとフィールに任せているのだと簡単に理解できた。中でもコーチはサクラも話しかけにくいオーラを放っている。


「助けていただいて、図々しいとは思いますが、町までよろしくお願いしたいのですが」


「そのつもりですよ。一緒に行きましょう!」


 サクラがそう言うと、ヴァンはまた息を吐いて安心したようだった。

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