森の中の異変 3
体に付いた液体のほとんどを体から引き離し、何とか窮地から逃げ切ったサクラだったが、目の前のスライムを巻き込んでいた竜巻も失くなっていた。スライムは大したダメージがあるようには見えない。体を揺らして、彼女を挑発しているようにすら見える。結局、竜巻の魔法も大した効果は無いようにみえた。
スライムはサクラを窒息させることが出来ないとわかると、体を分離させて水の球を再び作り出した。しかし、その球はサクラの方に移動しているようだった。サクラは自分のところに到達する前に、何度も見えない刃を作り出して、何度も斬り裂いた。水の球を何度も切って、かなり小さくなると宙に溶けるように消えた。もしかすると、スライムの体から分離しているように見えて、魔法で出しているのかもしれないと予想した。相手の出す水の球が消え方が魔法が消える時と同じように消えているのだ。この世界の魔法に詳しい人であれば、その魔法の対処法などをすぐに思いついたかもしれないが、彼女はこの世界にきて初めて、魔法という物を使ったのだ。この世界にきて、半年も経っていない彼女がその対処法を思いつくはずもない。サクラは相手の攻撃が魔法かもしれないと息が付いたからと言って何が出来るんだと心の中で呟いた。
彼女が近づいてくる水の球全てを壊した後、スライムは少しの間、次の攻撃をするような様子がなかった。プルプルとも揺れていない。じっと、何かを待っているかのようだ。サクラは相手が動かないなら自分が動こうと思い、走り出そうとしたのだが、足に何かが引っかかった。そして、かのじょが立ち上がろうと、地面に手を付いたその瞬間に、足に何かが絡まっているのが見えた。緑色の何か。彼女はすぐにそれがスライムの攻撃だと理解した。風の魔法を使い、それを切り落とす。それから、そのゼリー状のそれを風の魔法で引っ張り体から引き離した。
この戦闘の前に感じていたスライムの印象が百八十度逆転していた。スライムは生半可な強さでは敵わない。誰もが逃げるのも当然の強力な敵だ。一人でなければ、ここまで苦戦しなかったかもしれない。フローかメイトがいれば、この程度なら簡単に勝てたかもしれない。全ての魔法はこのスライムに対したダメージを与えられない。物理攻撃は効きそうにない。試していないのは、手に持ったハサミで使える必殺技のようなものだ。その技を使うには近づかなければいけない。取り込まれれば、先ほどのように中に取り込まれて窒息させられるだろう。スライムの中に取り込まれてしまえば、足掻くこともできないだろう。彼女は如何するべきか悩んでいる間にスライムが動き始めた。フルフルと全身を揺らしたかと思うと、その体から触手がいくつも伸びてくる。アクアリウスと戦った時のようだが、少し触れる程度ならば死にはしないが、体を掴まれたり、口元を包まれてしまえば、死ぬ可能性は高くなるだろう。つまりは、アクアリウス戦の時と同じで、触れても触れられてもいけないというわけだ。
彼女は近づいてくる触手つをバラバラのハサミで切って地面に落とす。アクアリウスの時と違うのは切り落とした触手が地面に落ちた後も動いているというところだ。堕ちたスライムは地面に染み込むこともなく、スライム本体の方へ地面を這って移動していた。中々気持ち悪い移動方法だが、それに構うことは出来ない。向かってくる触手を切り落とすのが精いっぱいで、切り落とした触手を細切れにする余裕はない。細切れにして消すことが出来れば、相手の体を小さくすることは出来ただろう。彼女は触手を捌きながら、攻撃方法を考える。
サクラの頭の中には魔法でどうにかする作戦しか考えることが出来なかった。彼女は自身の超能力のお陰で、能力の上限が上昇していることに気が付いていない。彼女は自陣の超能力に気づくことが出来れば、この程度のスライムは大した敵ではないのだが、気が付けないのだから仕方がない。そもそも、彼女はこの世界の一人一人に例外なく超能力が備わっているということを忘れているのだ。使わない物は打開策の中には入らない。故に、彼女は魔法を使ってこの状況を抜け出そうとしているのだ。
触手を捌きながら土の魔法を混ぜていく。触手程度の威力であれば、防ぐことを確認できた。風魔法で切断できるのは先ほど転んだときに確認できている。水の魔法は使わないとして、火の魔法は攻めの中に組み込めば、何かうまく機能するかもしれない。相手の銅に当てても効果がないという情報は思ったより使える。サクラは触手を引き付けるように地面に柱を生えさせて、自身を宙へと飛ばした。触手は地面からそのまま彼女のいる空に延びて、サクラを狙う。サクラは正面に大きな火の玉を作り出した。そこから、触手と正面から激突するように、燃えている触手を伸ばしていた。スライムの触手と燃えた触手がぶつかり小規模な爆発を残して消滅した。それが四、五回ほど起こった後、触手はそれ以上彼女を追ってこなかった。火の魔法は本体には効かないだけで、触手を消滅させることは出来るというのがわかった。やはり、本体は魔法でないだけで、スライムから生成されている物は魔法なのかもしれないと思った。
「これなら、倒せるかもしれない」




