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ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!  作者: 空原海
番外編 あの人は今
8/9

バンギャ卒、元ホス狂い、現在進行系保育科学生でっす




「ミツルがパパね……。うん、でもいいんじゃね? 幸せそーだし」



 ツインテールを揺らすと、ユミさんはだぼっとした袖から指先だけ覗かせ、マグカップを両手で抱えた。

 キャラメルラテから湯気が立ちのぼる。



「そりゃ幸せだけど。エラソーだな。何目線だよ。あとミツルって呼ぶの、やめろ」


「ミツルはミツルじゃん」



 淡いオレンジベージュのアイカラー。アイラインは主張していないし、まつ毛も瞳の色もナチュラルなブラウン。

 大きな目をキョトンと丸くして、ユミさんが首を傾げる。



「もうホストじゃねぇし。その名前は他にいるから、やめてくれ」


「ふーん。じゃあなんて?」


「『結城』」



 間を置かずに(たかし)さんが応えると、ユミさんは短く切り揃えたツメを口元に当て、首を傾げる。



「ユウキ? そんな名前だったっけ? 聞いたことある気がすんだけど。あっ。違う。ランさんか! それ名字じゃね?」


「そうだよ。べつにいいだろ」


「まーいーけど。それだと君江ちゃんと同じなんじゃん?」


「君江のことは、君江って呼んでるじゃねぇか」


「確かに」



 ユミさんは納得したように頷き、キャラメルラテを一口飲んだ。



「そうそう、そんで何目線って、先生目線だよ? アタシ、復学したんだ。やっぱり保育士になりたい。ミツ――ユウキが結婚するっていうからさぁ、もしかしてアタシもワンチャンあるかも! って思って。あれからめっちゃ頑張って、一瞬エースになったんだけどさ。

「タクミの本カノ――もう元カノかな? まぁ、本命だったのが嬢だって知って。なぁーんだって気が抜けちゃったんだよね」


「だから、前からそう言ってたじゃねぇかよ」


「ユウキの言うことなんか、信用ならない」


「はぁっ?!」



 椅子の背もたれに載せていた、充さんの右手の肘が滑り落ち、ガタリと音を立てた。

 ユミさんが口を尖らせる。



「だってランさん、タクミはアタシを本カノにするつもりだって言ってたし……」


「……あのババァ……!」


「うん。今はわかってるよ。ランさん、アタシを風俗に落としたかったんだよね。いや、ウリかな? どっちでもいーか。

「でもランさんのせいじゃないよ。アタシが自分で、ランさんに聞いたんだもん。一番稼げる店はない? って」



 深くため息をつく充さんに、ユミさんはカラカラと笑った。

 コーヒーチェーン店の中は、隣のテーブルと近く、さっきからチラチラと視線を寄越されている。

 感じ悪いな、と一睨みすると、空咳をして視線を逸らされた。


 あどけない顔つきのユミさんが、寂しそうな顔で小さく笑う。

 酸いも甘いも噛み分けた、大人の女性の表情。



「だけどさ、もういーんじゃんって。アタシ頑張ったよね? って。もうさぁ、ここまで貢いで、売り上げ貢献して。だけどタクミにとっちゃ、アタシなんか太客の一人でさ。タクミはアタシを『育てた』だけなわけじゃん。本カノなんかなれるわけねー」


「……そう言ってたろ。気づくのおせぇよ」



 充さんはすっかりうつむいている。



「うん。だからさ、ユウキが怒ってくれるの、嬉しーよ。やっぱアンタは優しいね。でもいいんだ。もうスッキリ。

「なる早で卒業して保育士なるからさ! 生まれてくる赤ちゃんの先生になれたらいいな!」



 そこで充さんが、がばりと顔を上げた。

 ニコニコと平和な笑顔を振りまくユミさんに、目を細める。

 そして誰が耳にしても、不信感あらわだという調子で言葉を返した。



「俺はユミが先生なんて、すげー不安。オマエが勤める保育園、事前に教えろよ。そこはやめとくから」


「んなことないって! ね? 君江ちゃん!」



 つぶらな瞳をキラキラさせ、こちらを見るユミさんに。

 充さんに同じく、あたしも不安だとは口にだせず、苦笑いした。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ユミちゃんも前向きに、真っ当な道に!! 良かったなあ。人生、どっからでもやり直せる!! 専門学校に復学!! 良かった良かった! [気になる点] えーと、同情とはいえ、寝たことあるってのは、…
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