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ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!  作者: 空原海
本編 ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!
1/9

00 未来より




「ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!」



 もしあなたが、初めて会った人に、こう言われたら。あなたはなんて答える?


 相手は、美形の外国人男性。金髪碧眼。

 目がつぶれるんじゃないかっていう、とんでもなくキラキラ眩しいスターオーラを、あたり一面に撒き散らす。


 外国人の、しかも男性の年齢なんて、見た目じゃわからない。

 だから、パッと見た感じ。うーん。

 ハリウッドスターが一番映画で活躍しているくらいの年齢って感じかな。

 その曖昧な答えはなに、と突つかれたら言葉に詰まるけど。


 だって本当に年齢がわからない。()()()()の彼は、いったい何歳だったんだろ?

 まぁ、スマホで調べたら、すぐにわかるはず。

 WikipediaやIMDbにでも、きっと載っているはずだから。

 彼の名前――普段は使わないミドルネームまで載っているんじゃないかな――と、生年月日と。経歴だとか色々。


 ほとんど稼働していないインスタやフェイスブック、ツイッターの公式アカウントもある。

 ファンによるアカウントは、彼の写真が大量に貼り付けられて、頻繁に更新されている。


 とにかくカッコいいことは確か。

 なんというか、別世界の人。同じ人間なのかな? って思うような。

 外国人だから、とかじゃなく。顔貌(かおかたち)が整っているから、というだけでもなくて。


 立ち姿。その醸し出す、圧倒されるような空気。

 ゆったりと堂々として鷹揚で。だけど古めかしい感じではなく、大人の男性の色香がちゃんとあって、自信に満ち溢れている。

 それでいて無邪気な少年のような。


 彼はきっと、胸を温め、思わず笑ってしまうような、嫌らしい感じじゃないやり方でくすぐってくるような、なにか特別な香りを漂わせているに違いない。

 だってこんなに派手なムキムキ男、全然タイプじゃないはずだし、もっと現実的で地に足のついた、自分だけの特別な人は、他にちゃんといる。

 だからこれは浮気心でもなんでもなく、彼がそういう香りの持ち主のせい。

 そんな風に、心の内で言い訳をする女性は多いはず。


 屈託のない笑顔は、海沿いの陽気な太陽の光を、たっぷりと注がれ続けているような気分にさせる。

 それに仕草。

 耳や頬、眉や鼻、口に触れたり。まるで見せびらかすかのような、太くて逞しい腕を組んだり。だって腕を組まなくても、肩から肘にかけての二の腕が、その彫刻のような顔より太そう。

 それから会話の中で、指揮者よろしく左右に振られる手だとか。

 知らないうちに、目が惹き寄せられている。そんなふう。


 つまりは、スター。正真正銘のロックスターだ。


 日本での知名度はそこまで高くないけど、洋楽好き、映画好きなら誰もが、彼の作った楽曲を一度は聞いたことがあると思う。


 そんな人に「ゥオットゥォウスゥワァーン、ドワヨッ!」って、満面の笑みで話しかけられたら。

 しかもなんだか、後光まで差して見える。そんな状況。

 あなたはどうする?


 オドオド戸惑って、「誰か助けてくれる人はいない?」って、あたりを見渡す?

 「え? なに? なんて言った?」って聞き返す?

 「ヤベェ。関わりたくない」って無視を決め込む?

 「人違いです」そう言って、きっぱり断る?

 それとも「はいはい! よくわかんないけど、カッコいいですね! 写真一緒に撮ってください、あとサインもください」ってミーハーにはしゃぐ?


 あたしだったら、どうするかな。

 最初は、キョロキョロと「あたしに話しかけてる? 第二のスターが後ろから登場するなんてことはない?」って周囲を確認するかも。

 それで、誰もいなかったら、戸惑いながら聞き返す。「もう一度おねがいします」って。

 だってなんて言ったのかわからないんじゃ、どうしようもない。 


 最初、なんて言ったのかわからなかった。

 同じ台詞を繰り返されて、ようやく聞き取れた。意味がわかった。

 いや。聞き取れなくても、本当はわかっていた。

 わかっていたけど。


 なんて返すのが、正解なんだろう?

 どう返してもらいたかったのかな?


 ――あたしに言われた言葉では、なかったけどね。




 あたしは誰か?

 あたしの名前は、結城(ゆうき) 未来(みく)。生後8ヶ月の女児。

 まさか8ヶ月の赤ん坊が、こんなことを考えているわけじゃない。それはない。


 もし()()あたしが、父さんの代わりにその場にいたら、こう考えたかなって、それだけ。


 そしてあたしの一人語りは、ここでオシマイ。

 次の話からは、バブバブ言うだけの乳幼児に戻る。

 バブバブの他に、そろそろ、「まんま」ってあたしが発声して、「ママって言った!」「いや違う。ママって言葉は、うちでは使ってねぇだろ。今のは『マンマ』。メシのことだ」って、母さんと父さんが言い争う頃かも。


 そういえば、このとき。父さんと母さん、けっこう本気でケンカしていた気がする。

 母さんが顔を真っ赤にして泣きそうになって、父さんが慌てて。

 結局涙をこらえきれなかった母さんが、あたしを抱きしめながら、ぽろぽろと涙をこぼすもんだから、父さん、必死になってなだめていた。

 父さんは母さんの肩を抱こうとしたけど、「やだ……やだ、やめて。(たかし)さんの……ばかっ」って言われちゃって。今度は父さんまで泣きそうになって。


 何やってんだかって呆れちゃった。 


 赤ん坊のあたしが言った意味?

 そんなの忘れた。

 でもまぁ、父さんの言う通り、『ママ』って単語は、それほど耳にすることはなかったかも、ね。


 うん。まぁ、こんな感じの家。


 それから、あたしがこういう女のコだって、どうか覚えておいて。

 話を聞いてくれてありがとう。


 父さんと母さんをよろしく。

 いろいろ欠点もあるけど、彼らはとてもいい人間。娘のあたしが保証する。

 それじゃ。






 ――もうしゃべらないよ!


 いい? ここから先は、あたしは赤ちゃん。

 こんな風に戻ってはこない。どんなに待っていてくれても。

 次の話からは、母さんが主人公だよって伝え忘れていたから、大慌てで戻ってきただけ。

 了解した?

 それじゃあ、本当にサヨナラ。


 ちょっと待った。やっぱり最後に、もう一つお願い。


 赤ちゃんのあたしにも、優しくしてね。ときどきは遊んであげて。きっと喜ぶ。

 大人達の会話が熱中しすぎて、放っておかれているときがあるはず。

 そのときは「みくちゃんを忘れないで!」って、父さんと母さんに教えてくれる? よろしくね。


 あれ。お願いが二つになっちゃった。

 父さんと母さんのことをよろしく頼んだことも入れたら、三つだ。


 たくさん頼みすぎた? そんなことないでしょ?

 まぁ、いいよね。




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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルの意味を理解するのに、数瞬の時間が必要でした。 わかったら爆笑しましたwww最高www そして未来ちゃんかわいいんですけど! 絶妙に君ちゃんと、充さんと、ランさんが混ざったよう…
[一言] わ~い!!!(^O^)/ やった!! ずっとずっと 読みたいと思っていた物語が 始まるのかな? さっそくブクマしま~す!!(*^。^*)
[良い点] うぎゃーー! ここみ様に感想の先を越されたーー笑! うわぁぁぁ!! ついに来たわ!ついに!! ロックスター!ジョンですよね!? ジョンが! ジョンが!タカシに会いに!? 孫のプリティ未…
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