表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

旅の戦士ドライオ

戦士と少年

 ドライオは、振り返ってまだその少年がついてきているのを見ると、顔を歪めて舌打ちした。

「帰れって言ってんだろ」

 ドライオは言った。

「小鬼どもが出てきたら間に合わねえぞ」

 だが、線が細いのに妙に意固地な顔をした少年は、小剣をしっかりと握りしめて何も言わずドライオの後をついてくる。

「俺は子守りまで引き受けたつもりはねえ」

 ドライオは声を荒げた。

「本当に、帰れ」



 立ち寄ったその村で、邪悪な小鬼の群れが出没しているという話を聞いた旅の戦士ドライオは、その退治を二つ返事で引き受けた。

 逗留した宿で盛大なもてなしを受けて、酒も肉も遠慮なくしこたま腹に入れたドライオは、翌朝元気に小鬼が出るという森に足を向けた。

 森の入り口で待っていたその少年を、ドライオはてっきり村長が用意した案内役だと勘違いした。

 だが、どうも様子がおかしい。

 森をずいぶんと歩いてから、ようやくドライオはそれに気付く。

 少年は案内役にしては無口すぎたし、やけに思いつめた表情をして、小剣を手から離さなかった。

「お前がそんなもんを大事に持ってる必要はねえよ」

 自慢の戦斧を肩に担いだドライオは、そう言って苦笑した。

「小鬼退治は俺の仕事だ。お前は適当なところで村に帰れ」

 だが、少年は硬い表情で曖昧に首を横に振っただけだった。

 やがて、森の深さが増すにつれ、ドライオは一向に帰ろうとしない少年が気になって仕方なくなり始めた。

「ここまでだ」

 ついにドライオはそう言った。

「これ以上はいい。お前は村に帰れ。いいか、ここからもうついてくるんじゃねえぞ」

 有無を言わせぬ口調でそう告げると、ドライオは一人、道を歩き始めた。

 だがじきにドライオの足音にもう一つの足音が重なる。

 少年はドライオから二十歩ほど離れた距離を保ってついてきていた。

 それが分かると、ドライオは振り返り、少年に帰るよう促したが、少年は反抗もしない代わりに帰ろうともしなかった。

 何度も無駄なやり取りが繰り返された。

 いつまでもこんなことで時間を費やしている暇はない。

 何度目かの不毛なやり取りの後、ドライオが前に向き直ったときだった。

 彼の鋭敏な鼻は異臭をかぎ取っていた。

 森の風に混じる、すえたような臭い。

 不潔な小鬼どもの臭いだ。

「おい」

 ドライオは少年を振り返る。

「来たぞ。てめえの身はてめえで守れよ」

 少年がはっと身を固くして剣を構える。

 その様にならない構えにドライオが顔をしかめた時だった。

 ドライオの両脇の茂みが同時にがさがさと鳴った。

 と思った瞬間、小鬼が二匹ずつ飛び出してきた。

 いずれも錆びたちんけな短剣や稚拙な石斧で武装していた。

 耳障りな奇声を上げて飛びかかってくる小鬼目がけて、ドライオが斧を一閃する。

 先頭の小鬼が、湿った衝撃音とともに吹き飛んだ。

 木に叩きつけられた小鬼はすでに身体を両断されて絶命していた。

 その威力に、ほかの三匹が足を止める。

「おい、まさかたった四匹じゃねえだろうな」

 ドライオが舌なめずりして一歩足を踏み出した時だった。

 背後で情けない悲鳴が上がった。

 振り返ると、少年が小鬼二匹に囲まれて危なっかしく小剣を振り回しているところだった。

 恐怖で闇雲に振っているだけのその剣では、二匹の小鬼を斬れるとは到底思えなかった。

「ったく」

 ドライオは斧を一振りして自分を囲む三匹を威嚇すると、身を翻した。

 ドライオが駆け寄ると、二匹の小鬼はたちまち少年から離れて間合いを取る。

「何がしてえんだ、おめえは」

 小剣を握る手を震わせて、はあはあと荒い息をつく少年を睨みつけて、ドライオは言った。

「戦いたくて俺についてきたんじゃねえのか」

「じ、自分を」

 少年は震える声で言った。

「自分を変えるんだ。エリーに似合う男になるために、僕は強くならなきゃいけないんだ」

「エリー?」

 ドライオは眉をひそめる。

 確か昨日、宿の宴会で酌をしてくれた村長の娘が、そんな名前だったか。

 こんな村にいるにしちゃ可愛い娘だと思ったが。

「そうか、お前」

 ドライオは表情を緩めた。

「あの子が好きなのか」

 その言葉に少年が頷く。

「でも、僕じゃあの子に釣り合わない。だから、僕は」

「そうか。それじゃちょっと我慢しろよ」

 ドライオの言葉に少年が怪訝そうな顔をしたとき。ドライオが腕を振った。

 平手で思い切り頬を張られた少年が、吹き飛んで地面に転がる。

「うろちょろされるのが一番邪魔なんだ」

 ドライオは気絶した少年の前に立つと、いつの間にか六匹に増えていた小鬼たちを見て、凄絶な笑顔を浮かべる。

「みやげに小鬼の首ならいくらでも持ち帰らせてやるから、しばらく寝てろ」

 それで女の気が引けるのかどうか、俺は知らねえが。

 まあ、そんなことでモテるんなら、俺は今頃王女様とでも結婚してなきゃおかしいけどな。

 数を頼みにドライオの包囲を狭めていた小鬼たちが、ドライオの表情を見て、自分たちの考えが甘かったことにようやく気付いた顔をする。

 だが、もう遅かった。

 ドライオが跳躍する。

 戦斧が唸りを上げた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  無骨そうなドライオですが、殺される前に少年を気絶させて更に土産話を用意してあげるつもりだったり、そういう大人の気配りがカッコいいと思います。
[良い点] 戦場での無情さ、少しでも甘い夢を見たら一瞬のちに死んでしまうという体験を常にし続けてきた、百戦錬磨のドライオだからこそ、少年を守るでもなく、花を持たせるわけでもなく、ただただ依頼をこなして…
[一言] 首を持ち帰った少年は大人からは実力に合わない戦果で怒られ、エリーには「キモッ」と一言でフラれ、散々な目にあいましたとさ
2021/06/10 10:36 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ