第一章 ブラウンシュガー / 3 ミッション
パシフィックオーシャンを左へ仰いで南下するデメニギス
麗香を含む作戦のオペレータは今回の任務を知らされた。
それは2021年以降舞台を深海へと移しては
未だ邪悪な手法で世界の覇権をあきらめぬ「C」国への工作だった。
ハーフアンドハーフ
桜刃直樹 著
第一章 ブラウンシュガー
3.ミッション
その映像にはベンガル湾へそそぐメグナリバーの河口と
船の墓場と称された
バングラデシュのチッタゴンの画像が浮かび上がる。
「またあの泥へ潜るの?」
「いや、今度は違う」
以前も私たちは同じこのチッタゴンヘ出向いた。
その時の任務といったら
泥に埋まった某EU国様の機密情報の回収。
それは2021年から続く全世界的な左翼思想の台頭に絡んで
叩いてもモグラタタキのように出てくる「ディープステート」の
諸外国へ対する内政干渉にまつわる記録が残されたサーバーを
搬送する軍の専用機が黙テンでベンガル湾上空を飛んだ。
それが内部工作かまたは敵対国の衛星兵器による攻撃か、
このチッタゴン沖へ墜落して・・・
であろうが何だろうが
まぁ、私たちにとってはとんだ泥沼の宝探しだった。
本城が画面をタッチすると
ベンガル湾沖、著しく海底の深度が増す
いわゆる大陸棚から
緑色に着色された浅瀬、つまり泥沼まで続く
1本の線が現れる。
次にその緑の中に
少し小さなアイランドクラスの広さの
四角がシャドーの斜線表記で浮かんだ。
その四角を指すと本郷は
「これが某国の建造施設で、この線が湾へ抜ける水路
まあ、バージンロードだ」
「何を?・・まさか、サブマリン・・」
「そうだ、」
「どうやら俺たちが保安庁時代に建設が始まり、つい先月1発目の卵がかえって泳ぎ出したたらしい」
「いやぁね、お国元の港から涌いて出てくるだけでもぞっとする数なのにまだ出すつもり?」
「まあ、近頃ようやく旧共産臭のする形式が引退しきって入れ替わったからな、その時期を目指して
経済成長に喘ぐバングラさんの足元を見て資金援助しながら隠れ蓑にしたというわけ。
何しろ平成の終わりころからさSNSですーぐ飛ぶだろ、デマでも事実でも。
それと一説には80艇越えとか"フカされ“た数も暗黙で減ってるらしい。不具合での座礁や・・」
「調子コイた他の領海バトルで?」
雄介が口をはさんだ。
「ああそうだ」
本城が返す。
「アタシたちは生きてても死んでても表には出ないものね」
「そうですね、真実はいつも深海の底へ葬られる」
瞬がつぶやいた。
「どれだけ泳がしたら気が済んむんだ?」
呆れたという様子で腕を頭の後ろへ組むと
反り返った雄介。
「あの時あれほど叩かれてもなお、また振り出しへ戻る
"戦狼なんと“かはさすがにダサいから今度は隠れて海の底でね」
そう言うと、少し遠くを見つめた本城がつぶやく。
2022年、人類悪ともいえる非人道的かつ国際倫理に著しく反した暴挙を繰り返し
世界中から疎外された「C国」の共産党。
その結果対外的にも内部抗争的にも解体のモーションを取ったものの
長い間洗脳教育を受けた人民の中からは依然として劣悪思想の分子が再度沸いては出て
今なお混沌と混乱を極めているため、各国はその扱いに手を焼いていた。
「それにしてもどうやってこんな場所へこの短期間にこんな規模のものを?」
「まあ、一つは奴らの異様なガッツ、それと前回の宝探しの時に見なかったか?レイカ?」
「え、?」
過ぎ去りし平成の時代にふと思いをはせていた私へ
本城がそう振った。
「何を?かしら、」
「某国さんのプラント、」
「あれ?もしかして?」
「そうだ、某国さん政府の民間プロジェクトっぽく見せかけた泥田の中に
いくつもある石油採掘設備」
「こんなところに出るのかしらって、物好きねって思ってたらあれ?やられたわぁ」
「そうだ、建造所はスタッフがチッタゴンから出入りするための利便性でこの場所へ、そして」
赤いラインから大陸棚を指して本城が追言する。
「南シナや強いては大西洋へ、しれっと泳ぎ出るのにここへ出口を、」
「よくまあ、こんな岩盤をぶち抜いて」
「ウチの国のレトロなあのフナ虫の技術、またパクったんですよ、きっと」
雄介の疑問へ
瞬が我が国の地下鉄網建設の際の切削技術を称して応える。
「で、これ、どうしてくれるのかしら?この度は?」
「この水路を潰す、それが今回の任務だ、復旧には3年から4年かかるだろう」
「発注者は?ハンバーガーとポテト国の大将か?」
雄介のいう比喩は
このプロジェクトに関わる者のルールで、
会話中には具体国名、機関名、実名は一切使わないというのがあるからだ。
「ああ、それと我が国のお殿さんだ」
今は西暦2028年。
ここでいうハンバーガー大将とは、いわずとわかる
あの合衆国から共和国へ移行した我が国最大の同盟国だ。
2021年大統領選挙を生物兵器COVID-19を武器に起こした国家転覆のクーデター。
その逆手を取って闇の勢力「ディープステート」を一掃したドナルドトランプ大統領は
共和国としては第19代大統領に返り咲いた。
そのトランプ政権の次にその座へ付いたのは
2021年のその戦いで善戦したテキサス州出身の当時上院議員だったテッドクルーズ氏
そのテッド氏が今はプレジデントとなっていた。
我が国はというと当時「C国」に骨の髄まで吸い尽くされた自民党の中で、愛国者を惹きつけ先陣を切って戦った青山繁晴が内閣総理大臣ととなっている。
この「デメニギス」の所属は文部科学省 研究開発局 海洋地球課。
但し文部科学省は、2001年まで存在した科学技術庁の後継で内閣総理府の組織。
つまりは総理大臣直下の自衛隊とある意味並列する。
その意味合いを含んだ組織系列上、
科学技術庁時代には防衛のために暗黙で労を割いてきたその組織が、
夏目漱石の千円札のように急に文化人主義な趣きをしたからといって
その根底にある気質が消えるわけではない。
文部科学省化を期に裏に隠れた、機密のミッション。
まさに潜行したその任務を兼ねてこの世のまさに裏側に存在するチームが
このデメギニスだ。
デメギニスの名は機能上、性能上で設計した結果、
出来上がったデザインが、
まるで深海魚のでデメギニスそれにそっくりであったため当時の長官が命名した。
与那国島沖に潜行から半浮上したデメニギスの頭部ともいえるドームが空くと
美しいサンゴ礁の海がチームの目に映った。
「綺麗ね、アタシはやっぱりここの海が好き」
麗香がつぶやくと、一同もそれに見惚れた。
そして航海パネルは方向を一路
南シナを指していた。