渋谷充の盗み聞き
「あえて怪しませるてどういうことなの?ヒロ君」
時は戻り、秋葉原先輩から恋愛相談を持ち掛けられた日の夜の作戦会議中、秋葉原先輩は僕の作戦に首を傾げた。
「僕たちは別に渋谷先輩にサプライズパーティーをするわけではないです。だから告白をすることが渋谷先輩にバレたっていいです。いや、むしろ渋谷先輩にはそういう攻め方が有効的です」
「どうしてかしら?」
「渋谷先輩はプライド塊だけのクソ童貞野郎です」
「……凄い言い方ね」
さすがの秋葉原先輩も苦笑する。
「そういうタイプの思考回路はとても単純で、まず自分は女子にはまったくモテないと考えています。まして告白なんて、空想上のものだと思っています」
「ヒロ君もそうなの?」
「失礼なことを言いますね。僕が渋谷先輩みたいなプライド塊だけのクソ童貞やろだというつもりですか?それは最大の侮辱と言うものですよ」
「よくわからにけど、なんかごめんなさい」
秋葉原先輩は真面目な顔で謝る。
冗談で言ったつもりなのだが真に受けてしまったらしい。
そして秋葉原先輩は続けて言うのだった。
「つまりヒロ君は童貞じゃないのね。少し意外だったわ」
「言葉足らずですいません!僕は純真無垢な童貞です!」
純真無垢な童貞とプライド塊のクソ童貞野郎。
他者から見たらどっちも同じ童貞じゃんと思われるかもしれないが、僕からしてみればストッキングとタイツぐらい違う。
ちなみに前者が僕で後者が渋谷先輩である。
「ともかく、そういう人はいきなり告白されても現実を素直に受け入れないものなんですよ。だからこそ自分はもしかしたら告白されるかもしれない、そうやって予感させることによって告白をより受け入れてもらえるようにさせます。話したこともない奴に告白されても困るでしょ?」
僕は実体験を混ぜ入れながら話す。
懐かしいなー、中学校の頃、話したこともない女子に告白したら困った顔で「誰ですか?」て言われてフラれたこと。
傷ついたなー、同じクラスなのに覚えてもらってなかったなんて。
目から涙がこぼれそうになったが我慢して話を続ける。
「だから予感させることは必要なんです。特に渋谷先輩の場合は」
「なるほど。わかったわ」
秋葉原先輩はそう頷いた。
別の理由に秋葉原先輩が渋谷先輩に告白しやすくするためという理由があるのだが、それは言わなくってもいいだろう。変なプレッシャーをかけてしまうかもしれないし。
「でもずいぶん、綿密な作戦を立てるのね。ヒロ君はいつもそうやって女の子を手玉に取ってきたのかしら」
「こんな作戦で女子と付き合うことができたら僕は今頃童貞なんか卒業してますよ。これはプライドの塊だけのクソ童貞野郎である渋谷先輩だからこそ通用する作戦なんですよ」
そして僕たちは次の作戦の話に入るのだった。
1
【七月一五日】
──昼休み、作戦の続きをするために僕は文芸部の部室に行くと、文芸部のドアの前に秋葉原先輩が立っていた。今度はちゃんと部室に行ってくれたのはいいが、秋葉原先輩、緊張して部室の中に入れないみたいだった。
部室の前を何度も行ったり来たりしいる。
僕はそんな秋葉原先輩をこっそり影から見守る。
多少ストーカーをしているような罪悪感はあったがその反面、子供の成長を見守るような親子心みたいなものが僕にはあった。
なんてことはもちろん嘘。
百パーセント、イタズラ心だった。
だって部室の前でソワソワしている秋葉原先輩、めっちゃ可愛いだもん。できることならずっと見ていたい。
そう思っていると秋葉原先輩はようやく渋谷先輩がいるかもしれない部室に入る決心がついたのか、目を瞑り深く息を吐いた後、ドアにゆっくり手をかけようとする。
おっ入るのか?どうなんだ?
しかし、ドアに手をかけたところで手が止まる。
どうしてそこで止まるだ?あとは開けるだけだ。頑張れ!
「よし!」
そんな風に気合を入れたあと、秋葉原先輩はドアから手を離した。
て、開けないんかい!
そしてその場から去ろうとする秋葉原先輩。
慌てて僕は引き止める。
「いやいや、ちょっと待ってください秋葉原先輩」
「あらヒロ君、アナタも今きたところなの?実は私も来たところよ」
「平然な顔で嘘つかないでくださいよ。今、明らかに部室に入れずにいたじゃないですか」
「違うわよ。鍵が閉まってたから、職員室に取りに行こうとしただけよ」
「本当ですか?」
「ほ、ほほ本当よ」
明らかに同様していた。
僕は試しに部室のドアを少しだけ開けてみる。すると普通に開いた。
「あーの、開きましたが?」
「……」
あっ黙ってそっぽを向いた。この人、本当可愛いな。
しかし見惚れている場合ではない。
「もたもたしてたら昼休みが終わってしいます。早く入りましょう」
「えっちょっと待って、まだ心の準備が……」
「待ちません」
それに今回は心の準備なんてものはいらない。
僕はドアを開けて部室の中に入る。しかし、そこにはいつもいるはずの渋谷先輩はいなかった。秋葉原先輩も僕の後ろをついてくるように入り、誰もいない部室を見て言う。
「渋谷君いないじゃないの」
「何で少しホッとしているですか?」
まぁでも予想通り渋谷先輩はいなかった。
昨日のお昼休みで、僕たちが何か企んでいると知った渋谷先輩が昨日みたいにお昼休みを一緒に食べてくれるはずがない。僕たちを警戒して、別の場所で昼飯を食べるに決まっていた。
だからと言ってそれで話を終わられてはいけないだろう。
部室が空いていたと言うことは確実に渋谷先輩は一度この部屋に来ているのだ。そして鍵を閉めずに出て行った。
それが一体何を意味するのか。
僕は部室を見渡す。
部室の真ん中には折り畳みテーブルが二つくっつけて置かれていて一つの大きなテーブルになっていてその上には部室の鍵しか置かれていない。その周りにはパイプ椅子が四つ置かれている。部屋の隅にはあまり使われていない掃除用具が入っているロッカー、壁側には辞書や六法全書などの本が入っている大きな本棚がある。と言ってもかなり乱雑に置かれているため、本棚としてまったく機能しておらずどこになにがあるのかわかりづらい。部室の窓は開いており、風が入り込んでくる。
大体の確認が終わり、なるほどと僕は頷く。
おもむろに掃除用具が入ってあるロッカーを開けてみた。でもそこにはほうきや塵取りなどの掃除用具しかなかった。
「さすがにそこまで間抜けじゃないか」
「どうしたの?」
「いえ、渋谷先輩が隠れているかと思ったですけどね」
他に隠れそうな場所なんてない。
だとすると残る可能性は一つしかなかった。
「マジかよ……あの人そこまでやるのかよ……」
だけどあの人は徹底的にやる人だと言うことを知っている。
僕はズボンのポケットからスマホを取り出し、メモ帳機能を起動し文字を打つ。そしてスマホの画面を秋葉原先輩に見せるのだった。
『盗聴されています。気づかれないように話を合わせてください』
秋葉原先輩は驚きの表情をしたが、盗聴をしているかもしれない渋谷先輩に悟られないように声には出さずに僕の指示に黙って頷く。
「どうやら渋谷先輩、この窓から逃げたみたいですね」
「でもここ四階よ?」
「いや、渋谷先輩ならスパイダーマンのように壁伝いで降りることだって可能でしょう」
「アナタ、渋谷君のことをなんだと思っているの?」
「クモみたいな気持ち悪さを兼ね備えた人だと思ってますよ。ちなみにさっきスパイダーマンて言いましたが、実はスパイダーマンよりもアイアンマンのほうが好きなんです。ちなみに秋葉原先輩は何が好きなんですか?」
「見たことないから知らないわよ。あっでも、友達に誘われてジョーカーなら見たことがあるわ」
「……」
意外なものを見ていた。てか、それマーベルじゃないし。
まぁ、そんな細かいことはどうでもいいだろう。
「仕方ないですし二人で昼飯、食べましょう」
「ええそうね」
僕たちは椅子に座る。
でも本当に昼飯を食べるわけではない。あくまでもそういうフリをする。この会話を盗み聞きしている渋谷先輩を騙すために。
僕は再び文字を打ち、秋葉原先輩に見せる。
『どこかに渋谷先輩のスマホが隠されているはずです』
すると秋葉原先輩は制服のポケットから自分のスマホを取り出し、僕と同じように文字を打ちスマホの画面を見せてくる。
『どうしてそう思うの?』
『それは渋谷先輩のパソコンがないからですよ
きっと渋谷先輩は通話アプリを使って自分のスマホはこの部室のどこかに隠し、パソコンを使って僕たちの会話を盗聴しようとしているのでしょう。
もちろんパソコンの方を隠した可能性もありますが、パソコンはスマホよりも大きですし隠しにくいのでその可能性は切り捨てていいでしょう』
窓が開いてたのはもしかしたら本当にそこから逃げたのかもしれないし、僕たちを油断させるためにわざと開けっ放しにらしたのかもしれない。どちらにしても渋谷先輩がスマホを隠し、パソコンを持ち出してこの部屋から出たのは事実である。
『ヒロ君、とても鋭いのね』
秋葉原先輩ほどじゃありませんよ。
と僕は心の中で呟く。秋葉原だって僕たちみたいに毎日のようにこの部室に来ていたら、すぐにすぐにわかっていたはずである。
褒められるほどのことでもない。
『とにかく渋谷先輩のスマホ探してみましょう』
『わかったわ。なんだかスパイ映画みたいでワクワクするわね』
そして僕たちは探し始める。
まず最初に確認するべき場所は僕たちが昼飯を食べるためにテーブルやパイプ椅子の裏側だろう。しかしさすが渋谷先輩と言うべきか、僕たちが簡単に予想できる場所にスマホを仕掛けたりしなかった。
本当、憎たらしい人である。
今度は本棚かロッカーの上を調べてみる。成長期がまだ来ていない僕は身長が低いし、秋葉原先輩だってそこまで身長があるわけではない。だからこそ本棚やロッカーの上は一番見つかりにくい場所である。
僕はパイプ椅子を使って本棚の上を探そうとするが、パイプ椅子を使ってもまだ高さが足りなかった。
いや、僕どんだけ身長が低いんだよ。
背伸びをしてなんとか本棚を上を確認しようとするがそれでも全然見えない。
そんな僕の姿を見兼ねた秋葉原先輩はスマホの画面を僕に見せてくる。
『変わるわよヒロ君』
『すいませんお願いします』
秋葉原先輩は僕よりもほんの少しだけ身長が高いので、任せるべきだろう。
『揺れると怖いから、椅子押さえくれないかしら』
『わかりました』
僕がパイプ椅子を押さえると、秋葉原先輩は学生靴を脱いでゆっくり登る。
そして本棚を上を確認しようとするがやはり先輩でも見えないようで先程の僕と同じように背伸びをする。
おお!あと少しで見えそう。
僕は背伸びをする先輩を見てそう思う。
あと少しなのにどうして見えないだろうか。
スカートの丈が短い豊島さんだったら絶対見えてたのに、でも秋葉原先輩のスカートの丈はちょうど膝にところにある。さすがは十色高校の生徒会長、他の生徒のお手本となるようにちゃんとしている。
しかしこれでは見えるはずがなかった。
えっ?なんの話をしているかって?
いや、それはもちろん秋葉原先輩のスカートを中が見えそうで見えないことについて話しているのだが?
うん?渋谷先輩のスマホ?はて?一体なんのことだ?
そんなことよりも、見えそうで見えないというのはムズムズする。こうなってしまうと男として意地でもスカートの中を覗いでみたい。
僕は顔を出来るだけスカートの真下に近づけてみる。
脹脛から太もも、視線をどんど上げていき、そしてついに──
おっ!スカート中が見えた!でも真っ暗でよく何も見えねぇ!チクショー!
スマホで照らしてみる手もあるが、そんなことをしたら確実にバレる。
秋葉原先輩の太ももが少し見れただけでも良しとしよとスカートの中を覗くことを諦めて椅子を押さえることに専念しようとしたその時、秋葉原先輩とバッチリ目があった、
「……」
「……」
数秒間、見つめ合ったあと秋葉原はパイプ椅子から降り、文字を打つ。
『何か言うことはないかしら?』
『ごちそさまでした。
↑打ち間違いました。
ごめんなさい』
『よろしい』
……良かった許してもらって。またエロゲーがバレた時みたいに、正座させられるかと思った。まぁあれは生徒会長として役目もあったのだろうけど、しかし秋葉原先輩て意外にそういうの平気なのだろうか?
エロゲーにもなぜか興味深々だったし。
てかエロゲーのセリフを読まされたし。
秋葉原先輩はパンツを見られそうになったというのに平然と結果を僕に報告する。
『残念だけど私も本棚の上を見ることが出来なかったわ』
やはり、秋葉原先輩でも無理だった。
こうなると残る手段は一つしかない。
『こうなったら肩車しましょう。肩車をすればさすがに本棚の上だって簡単に見られるはずです。それじゃあ僕が下になりますね』
『今のアナタを信用することはできないわ』
うん、確かにその通りだった。
でもだとしたらどうやってこの本棚の上を確認しようか。
『私に一つだけ考えるわ。
もう一度椅子を押さえてくれないかしら。
もちろんスカートの中は覗かないように』
『わかりました』
僕は言われた通り再び椅子を押さえると秋葉原先輩は椅子に登り、スマホのカメラを起動すると手を伸ばして本棚の上の写真を撮った。
確かにこうすれば肩車しないで済む。
さすが秋葉原先輩、頭がいいと思うの同時に肩車出来ずに残念だと思う。
椅子から降りると秋葉原先輩は撮った写真を僕に見せる。
でもそこには渋谷先輩のスマホらしきものはなかった。
僕たちは今度はロッカーの上も同様に確認してみるが、やはりない。
そう一筋縄ではいかないらしい。
こうなると再び考え直さなければならない。
渋谷先輩のスマホは一体どこにあるのか?いや、そもそも本当に、盗聴なんてされているのだろうか。
この部室からパソコンがなくなっていたのは静かな場所で執筆をしたかったからじゃないだろうか?渋谷先輩のことだからそういうこともあり得る。
自分の考えに自信がなくなっていると秋葉原は奇妙なことを聞いてくる。
『ねぇ一つ聞きたいのだけれど、この本棚って何冊入っているか覚えてる?』
『いや、覚えてません。多分百冊以上はあると思いますが』
ただでさえこの本棚は、誰も整理しないため本が乱雑に置かれているのでそんなのわかるはずがない。
そんな僕に秋葉原先輩はスマホの画面見せてくる。
そこにはこう書かれてあった。
『それらならスマホを隠してる場所はこの本棚の中よ』
2
あの渋谷先輩が本棚の中に堂々と隠しているはずがない。そんなことをしていれば普通に気づくはずであるし、実際に見ても本棚の中にスマホらしきものない。
『正確にいうと隠しているのは本棚の中じゃなくて本の中よ』
本の中?もしかして渋谷先輩は本の中のページをくり抜いてスマホを入れたというのだろうか。
そんな馬鹿な。いくら渋谷先輩でもさすがにそんなことは……いや、するか。あの人なら自分の目的のためならなんでもする人である。
百冊以上もある本から渋谷先輩のスマホを見つけ出すのはなかなか苦労しそうだったが、でもやるしかないだろう。
僕は手始めに分厚い六法全書を取り出して調べてみることにした。
てかただの私立高校になんで六法全書なんてものが置かれてあるのだろうか、しかも六冊も。一体、誰が読むだよこんなもん。まぁだからこそ死角になると思い僕は最初にこの六法全書を選んだわけだし、それに六法全書は鈍器になりそうなぐらい重くそして分厚い。ページをくり抜いてスマホを隠してもバレにくいだろう。
六法全書のページをくり抜くなんてかなり重罪なことのように思えるのだが、そういうことを平然とやってのけるのが渋谷先輩という人である。
まったくし痺れないし、まったく憧れない。
僕は六法全書の最初から最後のページをペラペラと巡るがくり抜かれている形跡なんてなかった。まぁでも六法全書はあと五冊もある。
根気強くしらべていけばそのうち見つかるはずだ。
そう思っていると秋葉原はスマホを見せて聞いてくる。
『ヒロ君は何をしてるのかしたら?
そんな所を探してもスマホなんて出てこないわよ』
『いやでも、本の中に隠してあるて言ってたじゃないですか』
『ごめんなさい。それは言葉の綾よ
ヒロ君はわざわざ本のページを切り抜くなんて面倒臭いことをすると思うの?』
そう指摘され僕は考える。
その方法しかないのだったら渋谷先輩は本のページを切り抜くと思うが、しかしもっと簡単なスマホの隠し方があるとすれば、きっと渋谷先輩はその方法を取るだろう。
でもそんな方法あるのか?
そんな僕に秋葉原先輩はスマホの画面を見せる。
『スマホは本の中に隠してあるわけではなく、
辞書が入っているケースの中に入っているはずよ』
そう指摘されてハッとさせられる僕。
それは盲点だった。
辞書というものは、基本ケースというものに入ってある物が多い。まぁそれは六法全書も例外ではないのだが、この本棚にある六法全書はケースには入っていない。多分、紛失してしまったのか、元々とそういうものなのかもしれないがそんなこと今はどうだっていいだろう。
スマホを辞書が入ってあるケースに入れ、そのまま問題に閉まっとけば側からみたらそれは中身がなくっても普通の辞書に見える。
そしてケースから取り出した辞書は本棚に入れとけばなんの問題もない。
なぜなら、この本棚は乱雑に置かれているため本が一冊増えたところで誰も気づかないからだ。
確かにこの方法すればわざわざ本を切り抜く作業しなくってもする。
僕たちはケースに入ってある辞書を探す。辞書は学校でよく使われるため、数十冊以上もある。まぁでも百冊以上もある本を一つずつ調べるよりかはマシだと言える。
一冊、二冊目と手当たりしだい辞書を調べてみる。そしてその次に手に取った辞書は、明らかに重さが違っていて、中に小物が入っているようだった。
僕は慎重に取り出し、中身を確認するとそこには渋谷先輩のスマホが入っていた。
『先輩、スマホありました』
本当にあったことに少し動揺したが、とりあえず秋葉原先輩に報告する。
スマホの電源ボタンを入れてみると案の定、通話アプリが作動中になっていてこちらの声が聞こえるようになっていた。スマホはロックがかっているため詳しくは調べらないが、渋谷先輩のことだから、自分の声は入らないようにミュートになっていることは想像ができた。
さてどうやって渋谷先輩を引き摺り出すか。
最初の一言目がとても重要である。
僕は二、三秒考えたあと、スマホに向かって話しかける、
「渋谷先輩、十秒以内に部室に戻ってこないとスマホを窓から落とします」
「馬鹿!やめろ!」
するとすぐに渋谷先輩が通話に出た。
まぁでもまだ部室に戻ってきてないのでカウントはする。
「十、九……」
「おい、なんだその不穏なカウントは?まさか本当にスマホを壊すつもりなのか?」
「八、七……」
「わかった。今を戻るからそのカウントをやめろ」
「六、五、四、三、二」
「急にカウントが早くなりやがった!おい、マジでやめろ!スマホ壊そうとするじゃね!そのスマホ中にはお宝の画像があるだ!」.
「一、ゼロ」
よ〜し!スマホを窓から投げるぞ〜。
ワクワクしながら開いてる窓の所に近づく。この高さならスマホを落としたら間違いなく壊れるだろう。とりあえず下に人がいないことを確認した後、一切の躊躇もなくスマホを落とそうとしたその時──手に持っていたスマホを背後から秋葉原先輩に取り上げられる。
「ダメよ、そんなことしたら。スマホがもったいないじゃない」
「いや、そういう問題じゃねーだろ」
通話の向こう側で渋谷先輩が秋葉原先輩に突っ込んだ。
確かにそういう問題じゃなかった。
でもおそらく秋葉原先輩はそれが狙いだったのだろう。
秋葉原先輩は自分の言葉に渋谷先輩が反応してくれたことに安心すると言う。
「渋谷君、そんなに私とお昼を食べることが嫌なら、私はもう二度とこの部室には来ないわ。本当は渋谷君と仲良くなりたかっただけなのだけれど……ごめんなさい。スマホは部室に置いとくわね」
それじゃあ、と言って秋葉原先輩はスマホの電源を切った。
これでもうこちらの声が渋谷先輩に聞こえることはない。
そしてスマホを静かにテーブルに置く。
「いいんですか?」
「ええ、これでいいのよ。嫌がることを無理やして、渋谷君に嫌われたくないわ……」
「そうですか……」
秋葉原先輩は今でも十分に渋谷先輩から嫌われていると思うが、そんなことを言ったらダメだろうし、それに好きな人に嫌われたくない気持ちはわからないわけでもない。
だから僕は余計なことは何も言わない。
その代わりに訪ねてみる。
「でもまだ諦めたわけじゃないですよね」
すると秋葉原先輩は真剣な表情で答える。
「もちろんよ」
ブレないその台詞を聞いて僕はいつも通り秋葉原先輩で安心したが、残念な気持ちにもなった。何故だかわからないけど。
そんな僕に「あっそうだ」と思い出したかのように秋葉原は言ってくる。
「例のものはもう少し待ってて、終業式が始まるまでにはかならず完成させるから」
例のものと聞いてなんのことだろうかと思ったがすぐになんのことか思い出す。
例のもの──それはラブレターのことである。
秋葉原先輩がどうして例のもなんて周りくどい言い方をしたのか、もしかしたら渋谷先輩にまた盗聴されているのを警戒している可能性もあるし、まだスパイ映画の余韻に浸っている可能性もあるし、純粋にラブレターと言うのが恥ずかしいのかもしれない。
まぁどちらにしてもラブレターがどこまでかけているのか僕も知りたいところだった。
しかし終業式までに完成させるということはまだ書けてないと言うことだった。
「随分と時間を欠けてるですね。秋葉原先輩のことだから感想文を書く感覚でスラスラ書いてると思いました」
「やっぱり、自分の気持ちを伝えるなんてとても難しいわね。何を書いていいのかわからないからどうしても筆が止まっちゃうわ」
「まぁそういうものですよ」
そういえば僕も中学の頃、好きな女子にラブレターことがあったけ。書いても納得がいかずに何度やり直したなー。まぁそのラブレターは好きな女の子の下駄箱に入れたその次の日、教室のゴミ箱に破り捨てられてたけど。
あの時は泣きそうになったな……。
「どうしたのヒロ君?飼ってた犬が死んだような表情をしてるけど」
「いえ黒歴史を思い出してただけですよ。ともかく焦らずにいきましょう」
「そうね」
秋葉原先輩は僕の言葉に頷くと、
「それじゃあ私は教室に戻るわね」
言って教室から出ていった。
それからしばらく部室で渋谷先輩が来るのを待っていたのだが、渋谷先輩が来る気配がなかったので僕はお昼を食べ終わった後、閉めたあと教室に戻った。
3
放課後、僕は部室へは行かなかった。
ただのサボりだった。