第1話 毒舌令嬢、断罪される?
前からこういうの書いてみたかったんです。
「エリス!貴様をこの場で断罪する!!覚悟しろ!」
はあ?何言ってるのですか?この人は?私を断罪?アインドーク公爵家長女のこのエリストア・アインドークを?
「殿下……」
笑いそうになったので、ふっと下を向きポツリと言葉を発すると、このアホ殿下の横にいるバカ女、ノーラ・コリンクがフフンと不敵に笑う。
「エリス様がいけないんですわよ、私に意地悪するから」
この2人の周りには貴族の息子たちがズラリと並んでいる。このアホ共もあのバカ女に騙された口か…本当馬鹿馬鹿しい。こんなことで私の貴重な時間を割かないで欲しいわ。
そもそも、成り上がり貴族のコリンク家に私が陰でコソコソ嫌がらせを行うわけありませんわ。公爵家の力で叩き潰した方が早いに決まってますのに、このアホ共はそんな事にも気づかないのかしら。
「殿下!無礼を承知で申し上げます!エリストア様がそんなことをするはずありませんわ!」
私の後ろにいた貴族の娘が言い放った。
この子はアンナ・ストラクス。私の大切な親友。
「アンナ様は騙されてるのですわ!私アンナ様の悪口をエリストア様から聞きましたもの!」
このバカ女は嘘をこうもベラベラと喋れるのか?私がアンナの悪口を言うですって?!舐めるのも大概にして欲しいわ、この腐れ○○○!!
「ノーラ様。私が貴女をいじめていた証拠などはあるのですか?」
私が顔を上げてノーラとかいうバカ女に言うと、アホ殿下がずいっと前に出てきた。
「くどいぞ!そんなものノーラの言葉だけで十分だ!」
「証拠は無いんですね?」
アホ殿下こと、ガイア・ジュエリアはバカ女の戯言だけで私を断罪するらしいですのね。
はあ、婚約者だからアホだアホだと思っても口にして来なかったですが、こんなにもアホだとは思いませんでしたわ。だから貴方は王位継承権第四位なのですのに…嘆かわしい。仮にも王家の次男坊が四位って…
「証拠も無いのに公爵家の娘を断罪するとは、どういうことかわかっておりますわよね、殿下?これが濡れ衣であれば、まずコリンク家は公爵家にありもしない罪を被せようとした事でお家断絶は確実ですわ。そして、殿下。貴方は廃嫡の可能性がありますわ」
「証拠などあるに決まっているだろう!なあ、ノーラ!」
「え?ええ、あ、ありますわ!」
「それならば、早く見せて頂いてもよろしいですか?」
「い、今は部屋に置いてきてしまいましたわ!エリストア様に奪われないように用心していたんですわ!」
「公爵家の娘を泥棒扱いですか?」
少し冷めた目で2人を見てやると、ノーラなんたらさんは少し怯んだようですわ。
「そんなもの王家の力でどうとでもなる!」
はぁー、このアホ殿下は真性のアホですわね。王家の力って貴方ごときにどれほどの力を分け与えられてるのでしょうね?国王が知れば、お怒りになられるのは目に見えていますのに…
「殿下…」
ノーラなんたらさんはウットリとアホ殿下を見てらっしゃいますわ。
そもそも私、アホ殿下のお父様、つまりこの国の国王が私のお父様に無理言って婚約者にした事をお忘れなのかしら?先見の明がおありの国王陛下はこのアホ殿下が少しでもまともになる様にと、当時、神童はまあ言い過ぎですが、普通の方よりは勉学や教養に秀でていた私を婚約者にと私のお父様、ガード・アインドークに頼み込みましたのに、確か執事のボッソン曰く非公式の場とはいえ、国王が家臣であるお父様にに頭を下げたとかなんとか…今殿下がしている行動は全て国王の顔に泥を塗る行為なんですけど。こいつらわかってんのかな?
「話になりませんわ、私失礼します。王家とコリンク家にはアインドーク家から正式に抗議の手紙をお送りさせて頂きますわ」
「ふん!そんなもの怖くもなんともないわ!」
はあー、アホ殿下の相手は疲れますわ。いっそのこと誰か私を攫ってくれませんかね。
私がこの場を去ろうとした時、奥の扉からひとりの男性が入ってきた。
「少し面白いことになっているね」
この方は、王位継承権第一位のアルガイト・ジュエリア様。確かまだ婚約はされていなかったはずですわ。
「あ、兄上…」
「え?殿下のお兄様?」
アホ女がキランと目を輝かせたのを私は見逃さなかった。
「アルガイト殿下、お久しぶりでございます。ガイン・アインドークが娘、エリストア・アインドークでございます」
スカートの裾を持ちお辞儀をする。
なんせ、王位継承権第1位、つまり次期国王。
変なことやらかして処刑されないようにしなくては。曲がりなりにも義兄になるかも知れない方ですし。
「ああ、エリストア、久しぶりだね。調子はどうだい?」
「ご冗談を、最悪ですわ」
つい本音がポロリ。
「エ、エリス!貴様!」
「ははははは!エリストアは面白いね」
「おほほほほほ」
まさか、これがきっかけで私が王位継承権第1位王子の婚約者になるなんて誰が思うのでしょう…