4話
「な、なによ…」
魔王の真剣な表情のそれは、昨日の闘い前の会話を思い出すようで心が波立つ。
「いや、まあそんなに構えないで」
今度はにっこりと笑う魔王。
二十面相のように顔がコロコロ変わるやつだ。
「まず、これから話すことは嘘偽りないことをこの命にかけて誓おう」
「あ、そう…」
「興味なさそうだなあ…」
「できれば私としては、早急にくたばってもらった方が嬉しいわ」
「あはは!面白いこと言うなあ、君は」
冗談ではないのだが。
「いいから、早く話を続けて」
「うん、そうだね。何から話そうか…」
「……」
「そうだ、まずは僕の生い立ちから話すとしようか」
「一番興味ないわよ!」
「ええ!そんな…重要なところなんだけどなあ…」
知らぬ男(しかも宿敵)の昔話を聞いて誰が喜ぶというのか。
「大事な話なら単刀直入に言って」
「うーん、仕方ないなあ…」
魔王は頭をポリポリとかいて不満げな表情を見せたが、すぐにまた口を開いた。
「えっと…君は、僕を倒しに来たんだよね」
「………ええ、そうよ。本当なら今すぐにでも息の根を止めたいわ」
手元に聖剣があるなら、とっくに脳天をかち割っているところだ。
「残念ながら、それはお勧めしない」
「…?どうしてよ」
「僕を倒しても、また新たな魔王が生まれるからだ」
「…それはわかってるわよ」
魔王を勇者が倒し、また魔王が生まれ、それをまた新たな勇者が倒すループ…。
「それでも、束の間の平和でも、悪と恐怖の象徴であるあなたを、勇者である私は倒さなくちゃいけないの。私達は闘う運命なのよ」
そう。使命を背負って生まれ、全国民の希望がこの体に託されている。
「…そうだね。それも正しい。かつては僕もそう思っていた」
「…かつて?」
「昔は僕も君と同じように産み堕とされた時から運命を背負わされ、それが正しいと信じ、その通りにやり遂げた。…けれど、結末は思っていたものと違っていた」
「………」
「…この城から出られない。家族にも友人にも会うことはできない。ましてや、この前まで味方だった人達はみんな敵。…こんなつらい思いは君にはしてほしくない」
「あんた………まさか」
そんなはずは…。
対面に向かい合う、魔王の顔を見る。
彼は目を細めてニコッと笑った。
「そう、僕は先代の勇者ユリウスだ」
「………」
口を開いても、言葉が出てこなかった。
様々な思考が脳内を駆け巡って、今にもパンクしそうだった。
「なんで…、どうして………」
「色々と事情があるんだ。話は長い。まずはお腹を満たしてからにしよう」
そう言った直後、扉を叩くノックの音が聞こえた。
「失礼いたします」
「ああ」
カラカラと音を鳴らしながらアイヴィーはカートをテーブルのそばへ。
辺りには食欲をそそる香りが広がった。
「お待たせいたしました。昼食でございます」
「うわあ、美味しそうだなあ」
テーブルの上をたちまち埋め尽くす昼食とは思えない豪華な料理の数々。
「さあ冷めないうちに食べよう。アイヴィーも座って」
「私は後で頂きますので…」
頑なに遠慮する侍女を何とか魔王が座らせ、魔王城での昼食が始まった。