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3話




 チュンチュン。

 まどろみの中、鳥のさえずりが遠くから聞こえる。

 泥沼に浸かった意識を段々と覚醒させるように四肢に力を入れてみるが、鈍重な身体は痺れたように上手く動かない。

 …何もかもが気怠い。

 重い瞼を開くと、見知らぬ天井が視界に映し出された。

「ここは………」

 回らない頭をたたき起こして、記憶を掘り出す。

「いてて…」

 体を起こそうとすると、あちこちが痛む。

 なんとか上半身を起こすと、段々と目も覚めてきた。

「そうか、私…」

 意識が覚醒していくと同時に、記憶も鮮明に蘇っていく。

 魔王城に来て、一緒にお茶させられて、その後戦って…。

 ガチャ。

「…!」

「ようやくお目覚めですか、人間」

「あんたは…」

 いけ好かない魔王の侍女。

「もうすぐ昼になります。そろそろ起きてください」

「もうそんな時間なの」

 よっぽど魔力を消費してしまったのだろうか。

 戦いの後の記憶がないのだが、大分長い間眠っていたようだ。

「こちら、魔王様が用意してくださった着替えです」

 彼女の手元には服。それを適当な傍の台に置いた。

 用件を言い終えると、ペコっと頭を下げて部屋を出ていこうとする彼女。

「待って…」

 思わず呼び止めると、彼女はドアノブに伸ばしかけた手を戻し、こちらへと振り向いた。

「何です?」

 自分で聞くのも変かもしれない。

 けれど、どうも腑に落ちない。

「どうして…殺さないの?」

 私は戦いに負けた。

 命を狙うものを、どうして生かしている?

 ましてや拘束具もつけないで。

「…魔王様はあなたを生かすと仰いました。私はそれに従うだけです」

 抑揚のない声で、彼女は淡々とそう述べた。

「………そう」

「…では」

 もう言葉が出てこないと悟ったのか、彼女は静かに部屋を去っていった。

「………」

 考えがまとまらない。

 これからどうすればいいのか。

 そしてどうなるのか。

「…考えててもしょうがないか」

 悩むのは性に合わない。

 きっとどうにかなるだろう。

 何とかしてみせる。

 まだ命はあるのだから。

 必ず、私を生かしたことを後悔させてやる。

 そう心に誓い、私は着替えを手に取った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「………なんなのよこれ」

 魔王が用意したという、侍女が持ってきた着替えはワンピースだった。

 それもただのワンピースではない。

 フワフワでひらひらの、まさに女の子らしさを全面的に押し出したデザイン。

 動きやすさが一番で、生まれてこの方ほとんどオシャレとは無縁で生きてきた私にとっては、いささかハードルが高く辱めを受けている気分だ。

「馬子にも衣裳ですね」

「…っ!!びっくりさせないでよ…」

 例のごとく急に背後に出現するメイド。

「お食事の時間です。魔王様がお待ちですので、付いてきてください」

「はあ………」

 この姿で出歩きたくない。

 けれど、下着姿でうろつくわけにもいかないし…。

「ねえ、他に着替えないの?」

「ありません」

「あんたの給仕服でもいいわよ」

「この一着しかありませんから」

「どうやって生活してるのよ…」

 最後の問いには無言の彼女。

「さあ、行きますよ」

「…ああもう、わかったわよ」

 死ぬわけでもないし、我慢しよう。

 それと、魔王にはあとで違う服を請求しておこう。

 二人で部屋を出ると、道中会話もないまま魔王が待っているらしい部屋へ向かう。

 城内は思ったよりも広く複雑なようだ。

 入り組んだ廊下にいくつかの階層。

 似たような壁やドアが続くので、絶対に一人では出歩けないと思う。

 少しの間歩くと、目的地にどうやら到着したようで一つの扉の前で彼女が立ち止まった。

 コンコン。

「魔王様、失礼いたします」

 ギィ…と軋ませた音を鳴らしながら古びた木製の扉を開けると、見覚えのある人物が本を読んでいた。

 こちらの存在に気づくと、相変わらず血の気のない顔でニコッと笑った。

「やあやあ、おはよう」

「………」

「ああ、よかった。サイズは合ってるみたいだね。うん、すごい似合ってるよ。やっぱり女の子はそういう格好をしなくちゃ」

 満足気の笑みで頷く魔王。

 こんな服、どこで調達してきたのだろう。

 デザインもそうだけど、よくよく着てみると着心地がとても良く肌触りもいい。

 かといってこれを着たいとも思わないけど。

「悪いけど、こういう服嫌いなの。別のを用意してもらえないかしら?」

「そうなのかい?似合ってると思うんだけどなあ…」

 お前の趣味に付き合う義理はない。

「わかった。あとで違うものを用意しておくよ」

「助かるわ」

 残念そうな顔をする魔王。

 逆に敵にこんな服を送ってどうするつもりなのか問うてみたい。

「じゃあ、お昼にしようか?お腹はどう?」

「すいてる………けど」

「よし、みんなで食べよう。アイヴィー、お願いできるかな?」

「承知しました」

 いつものように頭を下げると、どこかへ消えていく彼女。

 部屋には私と魔王の二人が残された。

「ささ、座って」

「………」

 とりあえず、魔王の対面の席へ。

「さて…と」

「…?」

「いくつか話したいことがある」

 魔王はいつになく真剣な表情で話を切り出した。


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