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1話


「やっと着いたわ…」

 仁王立ちする彼女の前に聳え立つは魔王城。

 荒れ地に囲まれ、切り立った断崖の端に建った悪趣味な造りのそれは禍々しい空気に包まれており、目の前にいるだけでもかなりの威圧感を放っている。

「この中に魔王が…」

 ごくりと生唾を飲み込む。

 とうにできていたはずの覚悟が揺らぐ。

 逃げちゃダメ…。

 そう自分に言い聞かせて一歩ずつ足を踏み出す。

 大層な造りの門扉を手にかけ引いてみると、ギギギ…と音を鳴らしながら案外簡単に開いてしまった。

 中は石造りになっており、壁に掛けられた松明がゆらゆらと揺れている。

 床には絨毯が敷かれ、それがずっと廊下の先まで続いていた。

 ギギギ…バタンっ!!!

「ひぃっ!」

 扉の締まる音か…。

 念のため扉を押してみると、いとも簡単に扉は開いた。閉じ込められることはないようだ。

 問題はこの廊下。

 魔王のことだ。

 何か仕掛けがあるに違いない。

 もしくは魔物が潜んでいるかもしれない。

 先代勇者が魔王を討伐してから魔物は見たことがないのだが、きっと手先や配下の魔物は従えているだろう。

 腰に差した聖剣で床や壁を入念に調べながら、石橋を渡るように廊下を進む。

 床を剣で叩いてみたり、壁の隙間に剣を刺してみたり、蜘蛛の巣を払うかのように宙を斬ってみたり。

 それを1時間ぐらい続けながらじりじりと進んでいたら、いつしか一つの扉に辿り着いていた。

 扉の上には鉄製のプレートが打ちつけてあり、【魔王の部屋 ※入室するときはノックすること!】と書いてある。

「何もなかった…っ!!!」

 着いちゃったよ魔王の部屋…!

 仕掛けなんもないのかよ…!

 しかもなんなのよその緊張感のないプレート。

 ツッコミどころ満載だよ…!

 考えたらイライラしてきたので、蹴り飛ばして扉を強引に開けた。

 ドカッバタンッ!!!

「ぶぐぇっ」

「魔王!覚悟!!!」

 剣を抜いて部屋の反対側、玉座に目を向ける。

 ………いない?

「…こ、ここ…」

「え?」

 声のする方へ目を向けると、早くも死にかけの魔王のような姿をした人物がいた。

 もしかして、さっき開けた時に扉が当たってしまったのだろうか。

「え…、あ、魔王?」

「そうだよ…」

 彼はうつ伏せからよろよろと立ち上がる。

 彼が魔王?

 顔色が悪くて線が細い…。

 見るからに弱そうだ。

「はあ………痛かった」

「…あ、あんたが扉の前にいるのがわるいのよ」

「ノックをしてくれって書いてなかったかい?」

「そんなの敵陣で素直に従うわけないでしょ!」

「ははは、そうだよね。うん、まあ別にいいんだけど」

 彼は気負いを感じさせることなくにっこりと微笑んだ。

「町からは遠かったろう。ひとり?何で来たんだい?」

「え、まあ汽車を乗り継いでだけど…」

「そうかあ。私は乗ったことがないんだが、どういう乗り物なんだい?動力は何で動いてるのかな」

「ちょ、ちょっと待って」

「うん?」

「あの…、私達、これから戦うのよね?」

「ああ、そうか…。そうだよね。その為に君はここに来たんだもの。どうだろう、立ち話もなんだからお茶でもどうかな?」

「なんでそうなるのよ!あんたバカなの?!」

 ヒュッ。

「人間、言葉を慎みなさい」

 いつの間にか、喉元には細長のレイピアが突き立てられていた。

 その剣の主は侍女の格好をした女性。その紫紺色の瞳の奥には、静かな怒りを湛えていた。

「アイヴィー、剣を収めなさい」

「………失礼いたしました」

 彼女は剣を収めて会釈し下がっていった。

「………」

 微塵も気配を感じなかった…。

「申し訳ない。うちの使用人なんだが、僕に過保護なんだ。どうか、僕の顔に免じて許してやってくれないかな?」

「あんたの顔はどうでもいいし、別に気にしてないわよ…」

「ありがとう。寛大な心に感謝するよ」

 相変わらずにんまりと微笑む魔王。

「で、どうなの。戦うの、戦わないの?」

「ははは、まあそう焦らずに。おや、お茶の用意ができたようだ。部屋を移動しようか」

「………」

 いつの間にかあいつのペースに乗せられている気がする。

 警戒する素振りなく、不用心にも敵に背中を見せて移動しようとする魔王。

 さっきのメイドはいない…。

「…悪く思わないでよね」

 魔王を倒す。それが私の目的。

 卑怯だろうが何だろうが構わない。

「すぅ………やぁあああ!」

 渾身の一突き。が、しかし

「………あれ?」

 手応えがない。

「おや、素振りかい?精が出るね~。僕は先に行って待ってるからね」

「………」

 確かに、そこにいたはずなのに…。

「殺意がダダ洩れですよ、人間」

「ひぃっ」

 背後から使用人の声。

「いつからそこに…」

「本来ならばとっくに串刺しにして焼いているところですが、魔王様の目もありますし、今回は見逃してあげましょう。魔王様がお待ちです。付いてきてください」

「…もう、なんなのよ…」


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