No.9
No.9
「ぐずっ、ウチわるくないだがや」
「はいそうですね。蒼帝様は悪くないですね」
「ここの神とあの間の悪い辰巳とハゲがわるいだがや」
「そうですね。(でも辰巳くんの場合は勘違いした蒼帝様が悪い気がするけど)」
「なんか言っただがや?」
「いいえ、なんにも。蒼帝様は悪くないですもんね」
「そうだがや! ウチは悪くないだがや!」
自業自得な蒼竜に俺が被った分のこめかみグリグリをしたのだが、自分は悪くないと泣きついた先が白南風へのところであった。
白南風も白南風で幼子を甘やかす母親のように宥めていた。
「真っ先に白南風のところに行ったな。はじめてこのメンバーに会ったにも関わらず。誰が自分を甘やかしてくれるか本能的に分かるのか?」
きちんと礼を取っていた鳳先輩ではなく。白南風にと言うところがまた凄い。だって蛇神後輩だっているのにだぞ。
「私の場合は本当に無理なら甘やかしもしますが、そうでない場合は甘やかしたりもしません。自分で立ちなさいと言います」
「ドライに言うな」
「病気をしている子供は甘えたくても我慢する子が居ますから」
「……だからそう言う重い話はいいから」
「うむ。私の場合もなぜ失敗したのか、物事を順序立て。そこから次回に失敗しない為の傾向と対策を練るよう指示するね」
「鳳先輩の場合はどこ会社役員ですか?」
この二人はこの二人で甘やかすと言う感じがまたまったくしない。
「まあ、それ以上に蒼帝様は人の本質を見抜く力を持っているのかもしれないがね」
「どう言うことです?」
「先程蒼帝様は『権力』を司ると言う話をしたのを覚えているかね?」
「ああ、はい。出世とか財を司るとかなんとか」
「うむ。そうした権能を司っていると意味が、ご本人の性格からも良く分かる」
「話を聞いてただけで『権力』とか『金』とか好きそうでしたからね」
「だからこそ、そうしたものを司っているのかもしれないがね。……うむ。葵君に付与された蒼帝様の加護の力。おぼろ気ながら見えてきた気がするな」
ホントこの人はアホな方向に言動や行動が行かなければ優秀な人だな。
「与えた者を見守ると言うのは基本同じだと言っていましたが、それでもそれぞれの加護の力が違うと言うのに、良くわかりますね」
|蒼竜《本人)からもまだどんな影響があるのかすら聞いてないのに。
「ご本人から直接聞いた方がいいと思うのだがーーー」
チラリと蒼竜の方を見るが、いまだに白南風に甘えていて、こちらの話を聞いてくれるような精神状況ではない。
「まあ落ち着かれたら、答え合わせをすれば良かろう」
「いや考えがまとまったんなら教えてくださいよ」
じゃないと実は時限式の加護で、ある日突然怪物のような姿になっていた、何て事になっていたら洒落にならん。
「葵君が心配するような力ではないよ。そうだね。蒼帝様が司る『権力』と言った物事に当て嵌めれば、意外と分かるものだと思うのだが」
「権力? 王の力でも目覚めるんですか? 孤独になりますよ」
「そう言った超常的な力ではないと思うよ。『権力』。所謂出世が関係する加護だと私は思うね」
「出世ですか?」
「そう。蒼帝様は『出世』『財産』『男子』と、先程話していたこれらを司るものだ。そこから導き出すと、蒼帝様の加護の力は与えた者の『才能』を引き出すのではないかと私は思うのだよ」
「才能、ですか……」
「うむ。『出世』するにもその者に才能が無ければ始まらない。『財産』を得ることや蓄えようにするにも右に同じだ。今ではそうでもないが、昔であれば『武』と言った武術等の才能があれば、腕ひとつで一角の地位に就くことも出来たからね」
なるほど。言われてみればそれっぽい。身体的に劇的な変化があるのではなく。自分の中にある眠っていた才能を引き出す。と言われれば何だかしっくりくる。
「まてよ。そうすると俺の隠れた才能ってなんだ?」
「「ツッコミじゃないか(ないですか)」」
「うおい!?」
鳳先輩&蛇神後輩から容赦なく。間髪いれずにそんな答えが返ってきた。
泣くぞ! なんだ俺は、そんなにツッコミ芸人の才能でもあるのか!? はっきり言うが主に鳳先輩のせいでツッコミをしてるんですからね。
何て、そんなことを口に出して言おうものなら「ほらやっはり」などと言いかねられないから黙っておく。
最も鳳先輩はニヤニヤとこちらを見て、「ほら体に悪いから溜まっているものをドピュッと出さばいい。さあ、ここに」など言って雛鳥のように口を開けてくる。取り合えず口に出さずに殴っておいた。
これがいけないのかも知れない。でもやっとかないとこの人はどこまでも増長してくしな。
「あたたたっ……ま、まあその辺は本当にあとで聞けば良いだろう」
それから鳳先輩は頭の痛みに耐えながら、今のがなかったかのように取り繕い、咳払いをひとつする。
「万亀子君。ここの土のう家の中を確認しているのかね?」
「はい。中は6LDKの作りになってます。キッチンはガスとかではなく竈になっています。トイレなどは和風ですが、キレイに設備されています。お風呂もキレイでした」
「ほうほう。6LDKか、かなり広さだ。食料などは?」
「保存食が備蓄されています。白南風先輩の調べですが、四人で半年は優に持つと言っていました」
「……あ、あの、鳳先輩?」
「何かね? 葵君。もしかしてこの土のう家が何かと言うことかな? ならば雪ではなく。土を盛って作ったかまくらと認識するのが良いだろう。勿論中は聞く限り別物になっているようだが」
「そうてすか。それはありがとうございます、じゃなくて! ここに住むんですか!?」
見てくれは確かに土を盛って、そこになんとか家の形をしたような物に!? それに6LDK!? どう見てもお一人用テントの大きさにしか見えないが?
そうじゃない。そうじゃない。ここは『ふしぎな小袋』の中だぞ! 常に誰かしら一人外に出てないと不味いんじゃないのか!?
「うむ。葵君が心配するようなことは多分起きないと私は思うぞ」
「なぜですか?」
「先ずひとつに、これは神具であろう。であるならば通常の見た目とは違い。燃える。切り裂かれる。壊れる、と言ったことは不可能だと聞いている。また盗難についても問題ないそうだ。所有者が存命な場合、そう言った心根の者には触れることすら出来ないとも聞いている」
「はあ、まあ、とりあえずは心配ないってことですか」
あれか? 破壊不可能のアイテムと考えればいいのか?
「あの小袋も人目に付き難いところへ置いておいたから、誰かが善意で持っていくと言うこともないだろう。蒼帝様が落ち着かれるまでは待とうじゃないか」
そう鳳先輩言うので、俺達は蒼竜が落ち着くまでもう暫く待つことにした。
鳳先輩は土のう家が気になるのか中を見てくると言い入っていき。
蛇神後輩は疲れたのか。体力温存なのか。丁度良い高さの石に腰を掛け休んでいる。
相も変わらずグチグチと文句垂れてる蒼竜。ハゲがどうしたとか。ハゲがどうたらとか言っている。
そんな蒼竜の相手を嫌な顔せずに相手をしてるのが白南風だ。よく相手をしている。さすがに俺でもあんなにグチグチと同じことを聞かされているのはうんざりする。
さてそんな俺だが、みんなからあまり離れないようにして周りを散策している。
「タンポポ。アケビ。アサガオ。シャクヤク。ヒマワリ。オケラ。キク。リンドウ。キキョウ。カキ。 スイセン。ビワ。ツバキ。ミカン。すげぇな……季節関係なしに生ってるのかよ」
春夏秋冬あらゆる草木が生っていた。
そんなごちゃ混ぜに実っている木の内から、手頃の物をもぎ取り、食べてみる。
「……うん。うまいな」
人が食する為に作られた果物でも無さそうなのに、かなり旨かった。
みんなにも食べさせようと。両手で持てる程の量を抱えて戻ることにした。
戻ってみると蒼竜の機嫌は直っているようで、何やらみんなで集まって談笑していた。
三人よれば姦しいと言うが……いや一人元男だよな? 何であの中に違和感無く溶け込めるんだ?
「おお、葵君何処に行っていたのかね? 居ないから心配していたぞ」
「すみません。辺りの散策を。それと食べれそうなのがあったので持ってきました」
「おお! でかしただかや人間! 早くよこすだがや」
白南風の膝の上に座っている蒼竜が寄越せと言うように手を広げている。
俺はなにか言うのもバカらしいので黙って渡してやる。
蒼竜は受けとると白南風に渡し。「剥くだがや」と言って、食べさせてもらっている。
まるっきり子供だな、こいつは……。
「俺が居ない間に何かありましたか?」
少しの間とは言え蒼竜の機嫌が直り談笑しているくらいだ。何かあったろうと思い聞く。
「うむ。まあ、大して進展はないのだが、ここの世界が『迷い家』を模して創られた世界だと言うことくらいかね」
「まよいが? どっかで聞いたことありますね」
「知らないかね? 東北、関東地方に伝わる、訪れた者に富をもたらすと言われている幻の家のことだよ」
「ああ、槍の少年がおにぎりもらった家でしたっけ」
「まあ確かにあれも迷い家だったね」
「あの話でも春夏秋冬色とりどりの草木が咲き乱れていたな」
「何の話し?」
「いやな、ここにも色々な花や木が季節関係なしに生っていたって話さ」
「へえ、そうなんだ。あとで見に行っても良いですか? 蒼帝様」
「良いだがや。好きにするだがや」
白南風から果物を手付かずでもらって食べている蒼竜がそう答える。
ここで俺が「これは俺がもらったのだから、もう俺のものじゃないのか?」等と言おうものなら途端に機嫌が悪くなるのは目に見える。
きっとーーー。
『やったけど、これはウチのモノだがや! だからウチのモノだがや!』
とか、言いそうな気がする。
「しかし先輩はよく食べられる食べ物がわかりましたね。モモやカキ。ブドウでしょうかこれは? それぐらいしか私にはわかりません」
「ああそれヤマブドウな。甘酸っぱくて旨かったろ…………」
「どうかされましたか?」
「……いや、ちょっと自分でも気がつかなかったんだが、今言われて初めて気がついた。何で俺はこんな詳しく、草木の名前や食べられる果物がわかったんだ?」
「え? 先輩の数少ない取り柄の知識じゃないんですか?」
「どれだけ俺は取り柄がないんだよ!?」
バカにするなよ! 他にも取り柄くらいたくさん有るさ。ええっとほら、いまはちょっと出てこないけど。あとでたくさん言ってやるから!
「モグモグ。ゴックン。なるほど。それが葵君に与えられた加護の力、か。確かに蒼帝様は『春』と『木』も司っておられましたね」
「ん? そうだがや。そっちは七帝に就いてから付随してきたものだがや」
また訳知り顔で鳳先輩が頷いている。あと『ゴックン』って口で言うなよ。
「ええっと鳳先輩……もしかして俺が一般的な草花の名前くらいしか知らないのに、こうも知り得ていると言うのは……」
「間違いなく蒼帝様の加護の力だろうね。いやぁ私としたことが失念していたよ。そちらの方面も在るのをすっかり忘れていた」
テヘペロと言った感じにあざとい顔をする。
敢えてそうしたんじゃないのかと、突っ込んでやろうかとも思ったが、今は加護の力のことを聞いた方が良いだろう。
「植物の知識が加護ですか?」
「何処までかは分からないが、植物に関する知識を持っていると言うことだろう。その辺は如何なのでしょうか?」
「ウチは確かにその辰巳に加護を渡したがや。でもどんな形の加護になったかは知らんだがや。もっとよこすだがや」
あーんと、雛鳥のように口を開けて食べ物を貰う蒼竜。いい加減自分で食べさせろよ。
「ご確認は?」
「(今の状態だと)無理だがや。本人の得てきた知識と経験。そしてウチの力。そこから才能が伸びていくのがウチの加護だがや。自覚していけばもっと伸びるだがや」
「俺、植物の知識とかそんなに知らないんだけど」
「そこはそれだがや。ウチの力の方が大きく。お前の梅干しサイズの脳みそからでは形作るのが無理だがや、だからウチの力の方が補完したんじゃないだがや?」
「梅干しサイズってなんだ!? 俺の頭は九割以上が骨なのかよ!?」
次回は11月18日の更新となります。