No.8
No.8
「はやくはやく! こっちこっち!」
「ちょっ!? 待て! 引っ張るな!」
白南風へに引きずられるように『ふしぎな小袋』に連れてこられた俺は、そのまま東屋を出ると、何処かへと更に連れていかれる。
「ほう、これは見事な庭園だね」
後ろから庭の出来に感心の声が上がる。
バッと引かれながら後ろを振り向くと。そこには鳳先輩が一緒に付いてきていた。
「ちょっ!? 鳳先輩!? 何で一緒についてきてるんですか!?」
「ん? なんでって、私だけ仲間外れは寂しいではないか」
うおおおおっ!? どうすんだよ!? 外で誰か見張ってなくて大丈夫なのか!?
「辰巳くんあそこ! あそこの家だよ!」
「ええい落ち着け! 何で人が居るかわ知らんが、今それより大変なことが起き掛けてーーー」
俺が「いるんだ」と、言い掛けた時になんか土で出来たような家があり。そこの玄関? 先で蛇神後輩が小さな女の子と問答しているようであった。
「ええっと、あなたのお名前はなんと言うのでしょうか?」
「教えんだがや」
「何でここにいらっしゃったんですか?」
「ぐぐぅ……ウチのせいじゃないだがや! ウチは悪く無いだがや!」
「少なくともあなたがこの小袋内に居ると言うことは、神様に関係している方であると言うのはわかるのですが」
「知らんだがや。困れば良いだがや。ウチはメチャクチャ困ってるだがや」
「ハァ、困りました。きっと辰巳先輩なら分かると思って、白南風先輩に呼びに行ってもらいましたけど、まだでしょうか…」
……なんだろう。つい最近聞いたような口調が聞こえるんだが。いや、本人のわけないよな。見た目違うし。なにより縁切れるって言ってたし。
俺達が側にやって来るとその人物の姿がはっきりとわかった。
マリンブルー色の長い髪を後ろ襟で縛り。一本の束で垂らし。
服装は巫女さんのような服であるんだが、下の袴がミニスカートに改造されている。
見た目はこっちに来る時に会った蒼竜を小さな子供にしたような感じだが、蒼竜の時の様な魂が震えるような威厳は感じられない。
また蒼竜にあった角や爬虫類的な瞳もなく。日本人が髪染めてコスプレしているような感覚がモロに出ていた。
「あ、先輩達お待ちしてました」
「くっ! 離すだがや!」
蛇神後輩が俺達の近づく気配に気が付く。子供の方も俺達に気がつくと逃げ出そうとするので、それを蛇神後輩が逃がさないような手を握る。
「その子かね。この空間内にいた子供と言うのは?」
「はい。この家に置いてあった宝箱、でいいんでしょうか? その中に入って居ました」
「何で宝箱に入ってるんだよ?」
「さあ? そこまでは」
蛇神後輩が子供との出会いの経緯を話す最中も「離すだがや! 離すだがや!」と、わめき散らしながら蛇神後輩から逃げようとしていた。
しかし蛇神後輩の力から逃げられないってどんだけ力弱いんだ?
「病弱でしたが、それなりに動けるように体は動かしているんですよ」
「ナチュラルに心読んでくるなよ。で、お前さん誰だ?」
俺が逃げようとする子供に問いかけると、子供は苦虫を潰したような表情をして、黙秘した。
「先輩も知らない方でしたか」
「知らないと言えば知らないが、知ってると言えば知ってる奴に似てるか。でも会った時はこんな子供じゃなかったからな」
「むっ。まさか葵君の隠しgーーー痛い痛い痛い……」
「鳳先輩が絡むと話しが進まないから、黙ってましょうね」
「それで先輩。知ってる方に似てると言うことですが」
「ん? ああ、ほら、こっちへ来る時に会った蒼竜。その人に似てるんだよ」
俺がそう言うと、ふて腐れている子供以外全員。不思議そうな顔をした。
「葵君。想像上の四神が居たと言うことにも驚きはあるが、彼の神々の姿は動物の姿であって人の姿ではない筈だよ。それとも何かい? 君は人の姿の蒼帝様とお会いしたと言うのかい?」
俺の言葉に代表して鳳先輩が口にする。
俺は蒼竜と出会った時の事を話す。
ただしキスをもらった時の事は省いて。
「……むむ、にわかに信じられん」
「神々の力に恐怖して、在りもしない妄想に浸ってしまったんですね。可哀想な先輩……」
「僕の時は大きな真っ白な虎たったよ。もしかしたら白帝様も人の姿になれたのかな?」
「白南風! お前だけだよ! 俺の話を信じてくれるのは!」
二人に信じられなかったせいか。白南風が信じてくれた時、思わずハグをしてしまった。
ああ、なんだろう。物凄く良い香りが白南風からする。なんかこう、ムクムクって言うか。ムラムラって言うか。そんな気分になってくる……。
「離れたまえ! そのままだと理性が蒸発して野獣と化してしまうぞ。虎徹君にするのであれば、先ずは私に一番にするのが筋であろう」
「なんの筋だ!? くッ! あぶねぇ! 危うくどうでも良くなるところだった!」
鳳先輩のお陰で(?)自分の中の越えちゃならねぇ一線を守ることが出来た。しかしーーー
「えへへ……初めて男友達に抱き締められちゃった」
等と、頬を染め照れ笑いをする白南風を見た時に再び自分の中に沸き上がってくる衝動が。
「ーーーくぅ! き、禁断奥義!!」
俺は自分の欲望を押さえ込むため。手を出してはいけない奥義を使う。
「ーーー自主〇制拳!」
振り上げた拳を自らの下腹部へと打ち下ろした。
「アガッ!?」
「葵君!? そんな我慢をせずとも私に! 私にその欲望をぶつけてくれて構わないのだよ!」
「黙れ!」と突っ込みを入れたかったが、あまりの痛さに、呻き声以外の声が出てこなかった。
~~~しばらくお待ちください~~~
「……で、お、お前は、蒼竜の知り合いで良いのか?」
自主〇制拳からなんとか復活した俺は、腰をトントンしながらやり直しと言わんばかりに蒼竜に似た子供に問いかける。
「お前、バカだったたがや……。なに自分の金《ピー》をぶん殴ってるんだがや。ドMってやつだがや」
しかしながら返ってきたは蔑んだ顔での言葉だった。
「ちげぇよ!?」
「………」
しかしいくら俺が否定しようにも信じる様子はなかった。
「変態だがや。変態だがや」と言ってくるこのお子さまに、制裁を加えても良いんじゃないだろうかと思っていたのだが。後ろから蛇神後輩が「相手は子供とは言え神様です。押さえてください」と、言ってきたので我慢をした。
「スゥ…………ハァ…………取り合えず何も言いたくないならこっちでこっちで適当に判断する。この袋の中に居たってことは神様関連だよな?」
「知らんだがや~」
俺が問いかけると、こちらをバかにしたように知らんぷりを始めた。
頭にくる行為だが、我慢して続ける。だが返ってくる答は人を小馬鹿にしたような答えのみ。いい加減本気でキレそうになってくる。
「ああ―駄目だ! 埒が明かない。もうこうしましょう。この子供は、ここに住んでいた妖精とか。座敷童子とかにしておきましょう。俺達が気にすることじゃないですよ」
「しかしだね葵君。神様とは言え幼子。彼女の親御さんが心配するのではないかと思うのだよ。どうにかして連絡がつけられれば良いのだが」
「無理じゃないですか。こっちに来る時に蒼竜が向こうとの縁が切れるから二度と会えないみたいなこと言ってましたし。
それとこの子のしゃべり方。俺が出会った蒼竜と同じおかしなしゃべり方なんですよ。だから関係者であることは間違いないですよ。
どうせあれじゃないですか? 俺を人違いでこの世界に送るようなポンコツな性格そうでしたから。きっとこの袋の中にこの子が居たことも知らずに寄越したとか、そう言うことじゃないですかね」
あはははと、困った奴でしたよと言うように言うと。件の問題視している子供がプルプルと震え。
「誰がポンコツな性格だがや! ちょっと人違いしただけじゃねぇだがや! あとお前! 名古屋弁バカにするねぇだがや!」
爆発するように捲し立ててきた。
「え? もしかして本人?」
「だがや!」
「え? 名古屋弁? え? あそこの言葉って「みゃー」とか言うんじゃないのか?」
「まあ、多少おかしな言い方になっているが、名古屋弁の中には「だがや」と言うのもあるぞ。ニ〇ちゃん大王がそうだからね。勿論葵君が言った「みゃー」と言った言葉もある」
鳳先輩は目の前の子供、本人はあの時会った蒼竜だと言う人物に恭しく頭を下げ。
「蒼帝様ご自身とはつゆ知らず。先程までのご無礼のほど、ご容赦して戴きたく存じあげます」
「……ふん。許すだがや」
ふて腐れた顔をしながらも神として扱われていることに気を良くしたのか。腕を組。ふんぞり返るように立つ。
「ありがとうございます。つきましては、なぜ。蒼帝様ご自身がこの場所に居られるのでしょうか? 葵君の話では神々ですら地球との縁が切れた私達を認識できなくなり。忘れ去られると聞いておりましたが」
「ーーーだがや」
鳳先輩の質問に苦悶の表情を浮かべ。吐き出すように答えるも、その言葉が小さすぎて聞こえてこなかった。
「……申し訳ございません。私の耳が悪く。蒼帝様のお声が聞き取ることが出来ませんでした。もう一度お願いできませんでしょうか」
「……ぐぐぐ」
二度も言いたくないと言うように口を紡ぐ。
しかしみんなからのお願いしますに屈するように。
「だ、か、らぁ! 加護だがや! 消える筈だった縁が、ウチが与えた加護で縁が結ばれ直しただがや! そうしたらウチはメチャクチャ怒られただがや!」
そこから先は溜まった鬱憤を吐き出すように怒濤のごとく話し出した。ただやたらと話が長いので、ここでは要約して言うと。
俺達をこの世界に送った後。神々が住む世界『神界』と言う場所に帰った蒼竜達。
その帰りの途中で、俺達の事はきれいサッパリ忘れる筈であったが、神界に到着しても俺達の事を忘れずにいたと言う。
その時は忘れるまでの時間が延びているだけだろうと、普段の生活に戻る蒼竜達であったが、いつまで経っても俺達の事を忘れずにいたと言う。
さしもの蒼竜もこれはおかしいと感じ。調べようとした矢先に。神界の神兵(警察官のような人達らしい)が、蒼竜の屋敷に乗り込んできた。
『なに事だがや!?』
と、慌て騒いだ蒼竜。
彼らは蒼竜が神界の法に触れたとかで連行すると言い。法廷場(のような場所)に連れて行かれた。
そこで蒼竜がやらかしたヘマが明かされた。
本来終わる筈だった命の流れを変えての救いは、神界の法では違法とされている。
しかし、別世界からの神の要請であれば、別の世界へと送る。異世界転移や転生での救いは暗黙の了解で認められていた。
ただしその際、送った者の本来の世界との縁を切ることが義務付けられている。
この辺の理由としては別世界へと渡る時に、その行く世界の理に適応するためとか言っていたが、俺はよくわからなかった。
鳳先輩一人だけが『なるほど。そんな理由が……』と、なんか納得していたけどな。
さてここで蒼竜の第一のヘマ。
命が終わるわけでもない人間。つまり俺を送った事。
神界のお偉いさんに。
『お前はなにをしてんだ!』
と怒られる。
次に、別世界へと送る時に餞別として何かを送ることは認められている。
鳳先輩や蛇神後輩のような神具とか。白南風の武器の扱いの知識とか。
で、俺だが、『ふしぎな小袋』はまだ良い。問題になったのは『加護』らしい。
加護は読んで字のごとく。与えた者が、与えた側の者を見守り助ける力だ。
あの時咄嗟とは言え。俺には今いるこの世界の神から授かった力とかはなんにもなかったのだから。
『何か力となるものを与えるのは神としての責務だがや』
と、蒼竜は言う。
でだ。何を与えて良いのか分からなかった蒼竜が渡したのは、自らの力の一部。こうする事により、与えた者に何かあれば即座に対応できると言う、緊急連絡手段、のような力を与えたのが加護だ。
それ以外にも効果は神によってまちまちらしい。
それでまあ兎も角。俺は別の世界に行き。蒼竜は地球での守護者的存在だ。
その守護する世界の危機的状況でもないのに、おいそれと別世界の神が、のこのこと他の世界に干渉するのは、どんな世界の神であれ禁忌となるらしい。
はい。ここで蒼竜がやらかした第二のヘマ。
加護はその世界に住む人間に対して特に贔屓にするよ、的な証で。それを与えたのにも関わらず。干渉すらできない別世界に送る。
『お前はいったい何がしたかったんだ!? 育児放棄をする親になりたかったのか!?』
と、懇懇と道理を他の神様に問われたそうだ。
今回の加護を与えたことで俺との縁が出来。忘れることが無かった為に発覚した騒動。その後始末をするため走り回った神々。
元々来る筈だった奴は、そんな神々が特例として命を助けたそうだ。どう助けたのかは知らんけどな。
そして暗黙の了解とは言え記憶に残ってしまった蒼竜の罪は、いくら神であろうとも罪は罪。償えと蒼竜に通達される。
その償いの仕方だがひとつは『降神』。神のランクを落とす処罰。
蒼竜はこれを拒否る。理由を聞くと。
「お前バカだがや! 七帝役職は最上位の役職者だがや! それに就くのに、ど・れ・だ・け! ウチが苦労したと思ってるだがや!?」
と、言われた。
しかし俺にはなにそれ? としか返せなかった。
後で鳳先輩が軽く教えてくれたが。
七帝とは、東西南北中央の五方と天と地を治め管理する役職員の事で、蒼竜はその中でも東方全域を治め役職に就く神らしい。
そして東方に住まう神々の中でも偉い神の一柱なんだそうだ。
まあ、それを聞いても『へぇー』と言う感想しか出てこなかったけど。
んで、降神を嫌がった蒼竜。ならば、己の持つ財産の一部を徴収すると言いかけたところで。
『ふざけんじゃないだがや!! あれはウチのお宝だがや!! 誰にもやらんだがや!!』
と、他の神々に駄々をこねたらしい。
お前罰金と言う事で払えよと、言ったのだが、すごい剣幕で嫌だと言う。
何でそこまで嫌がるんだと首を捻っていると。
「東洋西洋問わず竜と言う存在は『財』を貯める性質を持っているからね。それを与えたと言うのはあまり耳にしない。貸し与えたと言うのなら在るのだが……」
つまりだ。蒼竜は今いる地位から降りることもしたくない。迷惑料としての罰金を払うこともしたくないと、神々に宣ったのだ。
それを聞いててワガママすぎるだろうと、皆口に出さずに思っていた。
「元来神は傍若無人な性格のものが多いと聞くからね。蒼帝様もその類に漏れなかったと言うことだ」
で、あれもしたくないこれもしたくないと言う蒼竜に神様は激怒。
『蒼帝よ。汝の東方守護の任を一時別の任へと変える。汝の加護を与えし者の元へと行き。その者の生終えるその時まで守護せよ』
『はあ!? ぶざけんじゃねえだがや! 何でウチがそこまでしないといけないんだがや!』
『これすら拒否するならば降神の上、一部の財産を強制的に徴uーーー』
『行くだがや! 行けば良いんだがや!』
『うむ。汝の快い快諾。天晴れ。まさに守護者の鏡よ』
『……それしか選択し寄越さん癖になに言ってるだがや。このハゲ。いいだがや。そんな人間さっさと殺してこっちに戻ってくるだがや』
と、物騒なことを呟いていた蒼竜に。
『別の体系の神が管理する世界に行くのならば、汝の神としての力は封じなければならない。
そして、その加護者を天命以外での命を失った場合。汝を下神(一番したの神)へと降格させ。財産全て徴収致す』
『はあああああああ!? なんでウチの力を封印しないといけないだがや! それになに言ってるだがや!? そんなことしたらウチが早く帰ってこれんじゃないだがや!』
『力を封ずるのは他の世界を管理する神に配慮と。その世界に悪影響を及ばさないようにするためだ。
なに。人の子の人生は高々百余年。……まあもしかしたら向かった世界で数百年くらい長くいきる方法でも見つけてしまうかもしれないが、加護を与えた者を見守る大役があるのだ。しっかりと果たせよ。
それと、テメェ誰がハゲだ! ついでだ! その未成熟な精神を他の世界で鍛え直してこい!』
パチッンと、指を鳴らすと。モデル体型だった蒼竜の体が、十歳位の女の子の背丈へと変わっていった。
『ーーーなッ!?』
『加護者が天寿を全うしたらこちらに戻れるように、今お前に術を施した。体の方は精神に合わせたんだが、そこまで子供とはな』
『戻すだがや!』
『それだと罰にならんだろうが……。ハァ、転送先はお前が与えたあの疑似世界の中で良いな』
再び指を鳴らすと蒼竜は不可思議な球体に囚われる。
『ああそうそう。言い忘れたが、今のお前は神力が使えなくなった事により。見た目とほぼ変わらん力しか持ってないからな。加護者が天寿全うする前に、お前が死ぬような事になるなよ。じゃあ生きてまた会おうな。蒼帝よ』
『このハゲぇええええええ!! 帰ってきたら覚えてるだがやぁああああああ!!』
と、蒼竜は神界からこの『ふしぎな小袋』の中に転移させられた。
こちらの世界に来た蒼竜はしばらく呆然としていたが、どうしたら元の世界に早く帰れ、尚且つ役目をきちんと全うしたと言える状態になるのかを考えた。
そこで考え付いた答えが。
「加護者の危機とか始めっから知らなければいいだがや。知らなければそこで死んでもウチのせいじゃないだがや」
「……だからここに隠れて俺が死ぬまで知らんぷりを突き通すつもりだったな」
「当たり前だがや。ここに来てからずっーと、お前が早く死なないかと祈ってたがや。神力があれば確実に呪い殺していたところだがや」
胸張って言う蒼竜のこめかみに拳を当て、グリグリと捻る。
「いたたたたた!? 痛いだがや!? なにするだがや!?」
「自分のせいなのに! 人のせいにしてんじゃねえよ! この・ポ・ン・コ・ツ・神がッ!」
次回の更新は11月11日となります。