No.6
No.6
「出身地。名前。年齢。性別。犯罪歴の有無。金が無ければ売れるものでも提示しろ!」
ダンッ! と、教卓の様な四角い机を叩きつける先程の兵士。その顔は鬼の形相と言っても間違いはなかった。
しかしそんな形相をする兵士よりも叩かれた机が青白く光。面の部分に光輝く文字と、幾何学紋様の魔方陣の様なものが現れた方が驚いた。
「ほう、これは魔道具か。しかも旧式の」
鳳先輩が叩かれた机を見て物珍しい骨董品を見るようしたように呟く。
「くっ! そうだ。これはお前達の言葉の真偽を判断する為の魔道具だ。いいからさっさと答えろ!」
なにやら悔しそうに顔を歪め再度質問に答えろと催促する兵士。
俺が何を怒っているのか疑問に思っていると。後ろから蛇神後輩がこそっと教えてくれた。
「この世界には魔道具と言う私達の世界で言うところの電化製品みたいなものがあります。鳳先輩が旧式と言ったあれは嘘発見器で、物としては真空管テレビレベルのものです。今ではもっと8Kテレビレベルの物があるんですよ」
言いたいことはなんとなく分かるが、もっと別の例えはないのか?
あと兵士さんが悔しそうにしている理由は、こんな骨董品しか置いていないのかと、侮辱されたと思っているところか。鳳先輩なら物持ちが良いと感心してるんだろうが。先程のからかいがあるせいで、そんな風には捉えられないだろうなあ。
「鳳先輩やお前が持ってるやつも魔道具なのか?」
「私達のは神具と呼ばれる人の手では作れない道具になります。分類的には魔道具でも問題ありませんが、その効果や能力が桁外れに違います」
「よく知ってんな」
「……私も言った方がいいですか?」
「いや振って無いし。言わんでよろしい」
だからネタは振って無いんだよ。感心してんだよ。異世界の知識を何で知ってんだってことで。
「事前にこの世界の神様から一般常識を教えられました。先輩はこの世界の人と会話が出来ていたので、てっきりそうした知識もあると思いましたが、急遽だった為に、そうした知識がないのでしょう」
そういやぁここ異世界だったな。会話できるんですっかり映画村とかその辺の感覚になってたわ。
しかし一般常識与えるんだったら金銭的なものも寄越してくれればいいのに、サービス悪い神様だな。
「誰がお前の人生設計まで聞いた!?」
「むぅ、これから私が葵君の子供を孕み。産むまでの間に他の女に寝取られ。捨てられてからの、結局私ではなくては駄目だと言う壮絶な返り咲きをーーーあいった!?」
「人を勝手に人生に組み込んで、なに人聞きの悪いこと言ってるんです!? 俺は好きになった人は、一途に大事にするタイプですよ!」
「くっくっくっ……私の策謀を持ってすれはその様に持っていくことすら意図も容易くーーーあふぅん!」
ちょっと目を話すとすぐこの人は……。
再び叩かれた鳳先輩はちょっと涙目になりながらも、どこか嬉しそうな表情をしていた。
「いいから何か売れそうなものはないんですか?」
「残念ながら無いぞ。我々は着の身着のままだからな。裸になっても良いと言うのなら、この服を売る覚悟もあるが」
どうする? と言う顔をする。それは色んな方面の方に迷惑をかけるから止めましょう。ほら、兵士さんも仕事を増やすなって顔してますからね。
そうだ。売れるものと言ったら。
「鳳先輩の持ってるあれ、売りましょう」
「私の持っている? 替えのパンツかね?」
「誰がパンツの話をした!? 違います! 鳳先輩が持っていても無用の長物にしかなりかねない。『術式陣装填砲』って言ってた、あの危険極まりない拳銃です」
極大レベルでしか撃たんのだったら使い道が限られる。売って金にした方が、なんぼかマシだろう。
しかし鳳先輩は俺の提案にふるふると体を震わせ。信じられないと言った表情を見せ。
「あ、あれを私から取るのかね……? そんな事をしたら私はか弱い乙女に早変わりしてしまうでないか! そうして『術式陣装填砲』を失った私はビキニアーマを着て、冒険者となり。冒険途中でオークの群れに捕まり。「くっ、殺せ! この身は葵君のみに捧げたものだ!」と言うが、無慈悲にオーク達に蹂躙される。そして体は徐々にその快楽に抵抗できずに、いつしか堕ちて「黙れ!」ぎゃふん!」
まったく長々と喋り出したら、妙なストーリを創りおってからに。
見ろ。兵士さんが呆れた顔でこちらを見てるじゃないか。
「……彼女はいつもこんななのか?」
「……いえ、まだこれはマシな方です」
下ネタ発言やセクハラ紛いなことをしてこないだけマシと言うだけですが……。
「……そうか。苦労してるんだな」
頑張れよって言う感じに肩に手を置かれ、なんか励まされた!?
「言っときますけど知り合いと言うだけで、この人とは彼女でも何でもない赤の他人ですからね!?」
「赤の他人は酷いんじゃないかな? 私と葵君の仲ではないか」
「先輩後輩の間から以外は存在しねえ!!」
「あははは! こいつぅ~照れちゃって~♪」
つんつんとつついてくる鳳先輩が、マジムカつきます。
……その後は鳳先輩を無視して俺達の真偽が問われた。
後ろで「かまってぇ~」と言った感じに騒いでいる鳳先輩が要るが、みんな無視した。頑として無視した。
「……結局売れるものは皆持っていないと」
ハンカチ一枚くらいじゃ入門税には届かんらしい。こうなれば本格的にこの制服売るか? それともこの町じゃなくどこか別の、それこそ入門税がないところにーーー
「先輩。一応言っておきますが、どこの町も入門税は存在します。無いところと言えば村ぐらいでしょうが、近場の村でもここから歩いて一週間は掛かると考えてください」
「口に出してないのに人の考え読まないでくれる。でもまあそうか。ここで町には入れないと後がないってところか。こうなるんだったらあの時鳳先輩が犬っコロ相手に爆裂魔法みたいなのを打ち込まなかったら、毛皮ぐらい買い取ってくれたんじゃないか?」
ファンタジーのお約束にそう言う買い取り有るだろうと、言葉を繋ごうとしたら。兵士の人が驚きの声を上げ。
「東であった大きな爆発音はお前たちが関係しているのか!?」
「東? ああ確かに、向こうの方から来ましたよ。ここへ来る途中、でいいのかな? 犬のような狼のような奴らの群れが襲ってきたんですけど。あそこにいる鳳先輩が、周りの被害考えずに魔法? をぶっ放つして、大きな穴を作ったんてすよ。もちろん襲ってきた奴らも粉微塵に吹き飛びましたけどね」
助かったけど、あの大穴の始末はあと誰がするんだろうなと思うよ。ゲームやアニメじゃないんだ。一日経てば元通りに戻るわけじゃないんだから……。
と、そんなことを話していたら兵士の人が俺の方に顔を近付け。
「どんな奴だった!? 姿は!? 数は!? それ以外には見なかったのか!?」
「ええぇ!? どんな姿だったって言われても、こっちも気が動転してたからな……。犬っぽい。狼っぽいってことしか覚えてーーー」
「四足歩行の獣。色合いは少しくすんだ灰色。姿の形状からしてイヌ科の動物であったことは確かだ。数は31匹いて。内先頭を走っていた個体は、他の個体よりも一回り大きな体躯。そして頭に角らしきものを生やしていた。その個体郡を倒したあとは現れなかったので、群れはそれだけと言うことだろう」
俺がどんな姿をしていたかを思い出そうとしていたら、後ろから鳳先輩がスラスラと、襲ってきた奴らの特徴を述べた。
その様子に俺や兵士の人はポカンとした表情を見せ、そして怪訝そうな顔をすると。
「あ、鳳先輩の証言で間違いないです。僕が記憶していたのも、そうした姿をしてました」
白南風が慌ててフォローするように言うと。
「そ、そうですか!? あ、貴女が仰るのなら間違いはないですね。それはきっとアーミードックの群れですね。先頭にいたのは群れを率いるコマンドドックでしょう。奴らは連携の取れた魔物で、出会えば無傷ではすまない相手でしたよ。貴女にお怪我がなくてよかった」
兵士の人は少し顔を上気させ。少々どもりながらも、白南風の言葉は全て正しいと言うように受け入れた。
「待ちたまえ! どうして虎徹君の言葉には無条件で納得する。ああいや、理由は理解できるが、私が証言したのだから、私に対してもなにか言うべきことはないのか!」
腑に落ちないと不満の声を上げると。俺と兵士の人二人はしゃくれた顔をして、鳳先輩に対して無言で。
「「お前の態度がそんなのだから信用されないんだよ」」
と、目で訴えてやった。
そうするとその意味を理解できる鳳先輩は怯んだように一歩下がり。
「うわあぁぁああんんん! みんなして私をいじめるよぉおおお。コテツモンんんん!」
どこぞの未来型青タヌキに泣きつく小学生のように、白南風の胸へと飛び付く鳳先輩。
そしてその大きな胸に顔を埋め。グリグリと顔を左右振ると、胸もまたぐにゅんぐにゅんとその形を縦横無尽に変えた。
そしてこちらをチラリと見て。
「どうだ羨ましかろうお前ら。お前達にこんなことは出来まい? うっはっはっはっ!」
と、逆に目で訴えられた。
くっ……なんとウラヤマ、あ、違った。まったく子供のようなやり返しをしやがって。白南風も「あ、あの鳳先輩…。く、くすぐったいんでグリグリとするのはやめてください……」と、訴えてるじゃないか。しかもその羞恥に満ちた表情を見ていると、か、体が勝手に前屈みになっていくじゃないか!
「こ、こら! 人の嫌がる事をするんじゃない! その人が困ってるじゃないか!」
人として正しい意見を言うように言葉を述べる兵士の人。
だが魔道具にうつ伏すようにして、鳳先輩を見上げる姿は、同じ男として何が起きてるいるのか理解が出来る分だけに、なんとも言えないものであった。
「先輩も人のことが言えないと思いますよ。何ですかそのへっぴり腰は? きちんと背筋を伸ばしたらどうです?」
「や、やめろこらッ!? いまそんなことをしたら、どっちをとっても大変なことになるだろうがッ!?」
持っていた杖で俺の尻をつつく蛇神後輩。
ま、まずい。前も後ろも危機的状況になった!?
その後はまあ、ぐだぐたと言った感じになり。からかいだした鳳先輩に兵士の人がまたキレ。売れるものを早く出せといい言い始めた。
もちろん売れるものなど制服以外持ち合わせていなかった。有ることはあるんだが、鳳先輩は嫌がるし。蛇神後輩のは命にか変わるものだからなぁ。
それで無ければ国へ変えれと言う兵士の人。
この売り言葉に安値で買ったのが、我らがトラブルメーカー鳳先輩。
「よかろう! 売れるものがなければ、売れるものにすれば良いだけだ!」
「はあ!? 何を言ってーーー」
「来たまえ虎徹君! 友としての君の力が必要だ!」
「え? あ、はい!」
鳳先輩が白南風に『友達』と言う言葉を使う。白南風もその言葉だけで、鳳先輩に何の警戒心を抱かず。付いていく。
鳳先輩は詰め所の扉を勢いよく開け放ち。
「皆のもの! ちゅうもーーーく!!」
外で入門手続きに待っていた人達に大きな声を出し呼び掛ける。
彼らは突然大きな声を出して注目を集めた鳳先輩に、何だ何だとざわめきを上げる。
自分に注目が集まったところで白南風を前面に出すと。今度は大きなざわめきとなる。
それは白南風の美少女っぷりに対しての驚きの声であった。
白南風を前に出したことで、鳳先輩は白南風の後ろに立ち。何かよく分からん緩やかな構えを行った後。
「ーーーーッ!!」
高速に腕を振るった。
何がしたかったんだ? と、皆が疑問の表情をするなか。白南風が腰を抜かすように突然ペタンと座り込んだ。
座り込んだ白南風に大丈夫か? と声を掛けようとしたその瞬間。
「「「「ウオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」
天を裂く程の男達の熱き魂の叫び声がその場に木霊した。
俺は何事が起きたと、どうせ騒ぎの原因は鳳先輩だろうと、そちらを見た。
「うおおおおおおおっ!!」
男達がなんで叫び声を上げたのかと理解すると、俺も叫んでいた。
「汝らに問うーーー」
鳳先輩は何処かの英霊が主人公に問いかけるように。
「このーーー」
人差し指を天へと突きつけるように見せつける。
その指に絡み付くようにあるものは。
白く。穢れを知らぬ。純白の布地が、はためく旗のように靡いている、そのものは。
そう、その布地の名はーーー
「パンツ。おいくら?」
男達は目の色を変えた。
しかし。そこから先の言葉を口にしない。
言いたい。言ってしまいたい。
そうすれば、パンツが手に入ると。
だが本当にパンツが白南風の物なのかと言う疑問があり。彼らはなんとか踏み留まっていた。
だがしかし!
鳳先輩はそんな男達の葛藤をあっさりと崩す。
「私の百八つ有る特技のひとつに、【無音脱がし術】と言うものがある」
この世界はレベルやスキルがある世界。そんな言葉を言おうものなら。
「100だ!」
「500!」
「1000!」
「バカ言うな! あれの価値は10万に決まってるだろうが!」
「なにをぉおお! ならこっちは50万だああああ!!」
男達は競りの如く金額を口にする。
圧倒される程の熱気と欲望。
そしてそれを氷河の様な冷めた目で見つめる女性達と、やれやれ男ってバカねっと言うようにしか反応しなかった一部の男性達。
「あっはっはっはっ! そんなものか! なんならオマケで、脱ぎたてにしても良いのだぞ!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」
「100万!」
「120万!」
「150万!」
上がる。まだ上がる。男達の欲望は留まることを知らずにまだ上がっていく。
そして女達の目線はどんどんと冷たくなっていく。絶対零度にもう到達してるのではないだろうか。
勝手に始まったパンツの競り。最早誰も止められるものがいない。いや、止められる筈がない。今この熱気に水を差そうものなら、水蒸気爆破のように破裂することだろう。
「ええーい! 止めないか!」
しかしここに勇者がいた。
己の職務を思い出した一人の兵士。
他の同僚は一緒になって競りに参加しているなか、よくぞ正気に戻ったと言いたい。
女性担当の女性兵士の人達も感心したような声を漏らす。
その正気に戻った男は、先程まで俺達の相手をしていた兵士の人だった。
雄々しく立ち。鳳先輩の側まで行く兵士の人。
「ここでの競りは禁止だ!」
「むっ。ならばどうせよと?」
お前が金を作れと言ったんじゃないかと言うように鳳先輩が言うと。兵士の人はニヒルな笑みを浮かべ。
「こんな競りをしなくてもなあ。このパンツは俺が買ったぁああああああ!!」
うん。まあ、予想はできたよね。
兵士の人はこれなら自分の物に出来ると豪語する。
もちろんそんな言えば、ふざけんなと異議を唱える者達が出てくる。
競りに参加していた男達が邪魔をするなと、兵士の人を取り押さえようとするが、これに抵抗する兵士の人。
この兵士の人。並みの力量者ではないらしく。取り押さえようと来る男達を投げ飛ばしていた。
「名も無き兵士たがらってなめんなよ。こらああああ!!」
「クソッ! このモブやたらと強えぞ!」
「やっちまえ! 奴を倒せばパンツは目の前だ!」
終いには兵士の人VS他の男達とのバトルが始まった。
「……どうすんだ、これ……」
一人無双状態の兵士。その兵士に群がるように襲いかかる男達。そんな男達を煽りに煽っている鳳先輩。彼らの行いに嫌気が差したのか、彼らと組んでいた女性メンバーが他のところの女性メンバーとチームを組始めていた。
もうぐだぐたのレベルがおかしくなってる。
「先輩。そろそろ止めないと『白南風争奪戦』が激化しますよ」
「止めろって言ったってどう止めろって言うんだよ!?」
無茶言う奴だ。俺にあの中へ突っ込んでいけるだけの力はないんだぞ。
「先輩。お金があればいいのです。だから何かお金になるものを」
「だから金になるものなんて……」
そんなもんあったら俺も参加してーーー違う! さっさと入門していた!
俺は変な思いに囚われない内に自分の体を探り、何かないものかと探す。すると、普段使わない左の尻ポケットに、何か薄っぺらい袋のようなものが入っていたのに気がついた。
「なんでこんな小袋が……あっ!?」
何でこんなものを持っているんだと思ったところで、この小袋を持っている理由に気が付く。
「だからと言ってこんな小袋で……」
「何ですかその巾着は? 先輩の趣味としてはなかなかの物ですが」
「こんなおばあちゃんが持ってそうな物、俺の趣味じゃねえよ。ここへ送られる直前に蒼竜が選別だって言ってくれたやつだよ」
「蒼帝様が? ではそれは何かの魔道具なのですか?」
「さあ? これの説明もなんもされなかったしな。大体何の魔道具だよ。こんな何も入ってなさそうな薄っぺらい小袋ーーー!?」
俺はその瞬間脳裏にある存在が思い出された。
そしてすかさず小袋の開け口を開き。その中に手を入れる。
「ーーービンゴ!」
「先輩?」