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No.5




 No.5




 「ハァ……町に入るだけでも一苦労するのかよ……」

 「あっはっはっはっ! もうちょっとで小金持ちになれていたな」

 「笑い事じゃないでしょう! 下手すれあの場所で凄惨な殺人事件が起きてましたよ!」

 「ええっと、あの人達は放っておいて良いのかな?」

 「構わないと思いますよ。あの場にいた男性は皆変態でしたから」

 「うむ。皆欲望に正直だった!」


 そうさせたのはあなたでしょうと突っ込みたかったが、そんな元気はなかった。

 まあ一応、何があっただけは伝えとく……あんまり話したくないんだがな。

 俺達はこの町、ヴァンガードと言う名前だそうだが、に入るために、正門で入門審査を受けるため順番待ちをしていた。


 「人数はいるけど、スムーズに動いてるから待たされることはないか。あと…」

 「人数的に五、六番目位だと思うよ」

 「サンキュー。しっかし異世界って言うだけあって、日本じゃ一部の場所でしかお目にかかれないような格好ばかりだな」


 周りを見ると皮の鎧や剣を携えた人物がそこかしこにいた。

 俺達が着ているのはブレザータイプの学生服だ。良いところの坊っちゃん嬢ちゃん達が、一般人に紛れて入門しようとしていると言った雰囲気で、周りからそんな風に見られて……ん? 俺達は俺達はなんだが、視線が一ヶ所に集中している気が? その殆どが男? 

 つつつい~っと男達の目線を追っていくと、一人の人物に当たる。


 「そうだね。僕らの方が逆に浮く服装だよね」


 その視線に集中しついたのは、俺の隣で喋っていた白南風だった。

 男達の視線が白南風に向けていることに気がつくと。「ああ、いつもの嫉妬の視線か」と、納得しかけたのだが、どうもそう言った類いのものではなかった。

 殺伐とした目ではなく。こう、熱ぽい視線。恋する者の目と言うか。


 「先輩も気がつきましたか。ここにいる男性達で、白南風先輩に気がついた人達は皆、白南風先輩に魅了されかかってます。白南風先輩は極力目立たないような立ち居振舞いを心掛けて生活してますので、今は離れて見ているだけですが。誰かがひとつ、動き出せば、暴動のようになることでしょう」

 「おいおい……そんなこと在るわけーーー」

 「それが前例があるのだよ」


 後ろからこそっと呟くように教えてきた蛇神後輩。

 そんな言葉に信じられないと言うとすると、更に後ろから鳳先輩が言ってきた。

 その話は噂で聞いたことであった話である。

 かつて白南風が通っていた中学での卒業式での事。

 白南風が卒業していくと言うので思いを秘めていた女子生徒達が、白南風に告白しようとするも中々出来なかった。

 何故なら白南風に告白しようとしていた女子生徒達が、互いに牽制し合い。その機会を潰していたからだそうだが、ここで一歩先んじた女子生徒がいた。

 そうしたらあとは大変だったそうだ。あれよあれよと言うまに、女子生徒達が白南風に押し寄せていった。

 ただし。順番待ちして告白なんてしていたら白南風と恋人になれないと思った彼女らの取った行動は、白南風に近付く女を殴り蹴り引っ掻き噛みつきと、大乱闘を起こして。

 しかも終いには機動隊が出てきて、鎮圧しなければならなかった程の規模だと言うのだから、まこと馬鹿げた噂話であったモノだと、その話を聞いたときは笑っていたのだが。どうやらそれは誇張でもなんでもなく。実在した話だと鳳先輩達は言う。


 「虎徹君のかつての学校でそんなことがあってね。入学してきた我が校でも、そんなことは起こしたくない。しかし今さら虎徹君の入学を拒否する事も出来ない。それで当時生徒会に入ったばかりの私にお鉢が回ってきたのだ。どうにかしてくれとな」

 「うちの学校じゃよく起きませんでしたね」


 そんな状況になったら俺なら人との接し方すら分からなくなって、人間不振になりそうだが。


 「一時期はなりかけていたみたいだがね。虎徹君の武の師が、その辺の心構えみたいなものを教え。導いてくれたらしい」

 「そういやあ、あいつ剣道か何かやってるって聞いたことが」

 「正確には剣術だね。学生がやる武道とはほど遠い技を習得しているために、その師からインターハイ等には出場しては駄目だと言われているそうだが。以前剣道の顧問と立ち合いを見たことがあるのだが。全国大会にすら出場経験の在る顧問が、一方的に打たれていたのを目にしたよ」


 へぇーそこまでの腕前……ん?


 「あいつ確か、白帝から貰ったのって、武器が達人級に扱えるとか言ってませんでしたか?」

 「うむ。確かそうだね」

 「意味あるんですかそれ?」

 「虎徹君は剣以外はずぶの素人。そこに武器の扱い方だけも知識が入った。あとは自分で高めよ、と言うお達しなのだろう」


 どう言うことだ?


 「白帝様。白虎は多種多様の神力を持つ神様でもあるが、特に知られているのが邪を払い。魔を滅すると言う戦神としての一面を持っているのだよ」

 「なるほど。武の神様と言うことだからですか」

 「いや武の神様と言うなら玄帝様。玄武の方だな」


 え? あの亀の蛇が合わさったような方? 長寿とかのイメージがあるけど?


 「ふふふ。いま葵君が考えているように健康長寿を司っている神様であるが。玄武の『武』と言う文字が入っているように、武神としての力は四神の中で一と言われている。だからもし万亀子君が玄帝様からそちらの力を授かっていたら、どうなっていただろうね?」


 俺はボディービルダーも真っ青な肉体を持った、蛇神後輩を想像した。


 『HAHAHAHA! どうですか先輩。この私の筋肉。物凄くキレてませんか?』


 「……キモいな。あたぁ!?」

 「変な想像をしないでください」


 持っていた杖でまた叩かれた。何で後ろに要るのに分かるんだ?


 「白帝様。玄帝様が出たことなので、蒼帝様。炎帝様も触れておこうか」


 蛇神後輩とのやり取りを微笑ましそうに見る鳳先輩は、そのまま話の続きを語った。


 「蒼帝様。青龍は立身出世を司り権力の象徴とも言われているね。こどもの日に鯉のぼりを掲げる謂れは、黄河の中程にある竜門と呼ばれる場所を登りきった鯉が竜へと化ける。等と言われているくらいに、竜とはそちらの方面に強い存在だね」

 「武力とかじゃないんてすね」

 「それもまあ『力』ではあるだろうが。『権力者』、と言われると一歩引いてしまうだろう。こう言ったものもひとつの『力』であると言うことだ」

 「青じゃなく蒼なんですね。何でですか?」

 「その場合は季語として使われることがあるからだろう。そう言った意味では炎帝様もそうだな。『赤』の方ではなく『炎』の方が用いられる」

 「炎帝は何を司ってるんですか?」


 朱雀だったよな。火の鳥。フェニックス。不死鳥。これらから予想すると不死か?

 しかし鳳先輩は少し難しい表情をしてからこう言った。


 「私が軽く調べた限りだと、炎帝様。朱雀には南方を守護しているのと、火を司っていると言うの以外はあまり見なかったね。鳳凰とも同一されるが、ものによっては別物と区別されるものもあったな」

 「え? 別なんですか?」

 「とも言われているだね。これは私の考えだが。『不死』の象徴と言われている存在だが、どちらかと言うと『転生』の面が強い神様だと思うのだよ。『死して新たな肉体に生まれ変わる』。これ故に生まれ変わった姿を見た者には、別の生物として認識してしまっているのではないかとね。火を纏った姿を晒すから同一の存在と見なされているのか。その辺はご本人に聞かないとなんとも言えないね」

 「伝説上の生物に対して聞くと言う発想が出てくるのが凄いです」

 「あっはっはっはっ。偶像や信仰の対象でなく。魂から敬服してしまった存在だからね。私も存在する(要る)と言うのに吃驚だよ」


 頭のいい人だとは知っていたが、よくまあこれだけ出てくるものだ。


 「鳳先輩はよく知ってますね」

 「それは振りかね? ならば私はこう答えよう。『何でもは知らない。知ってることだけ』と」


 ネタを振ったつもりはないんだけどな。


 「私はこの姿だよ。そんな振りをされたら返さないのは寧ろ失礼だろう」

 「黒縁メガネに三つ編み。それと女性。これ以外の共通点が見当たりませんが?」

 「何を言うだい!? 声! 声だって似てるだろう!?」


 必死に似てると豪語する鳳先輩の肩に手を置き。


 「鳳先輩。あなたの声が誰に似ているかと言うことに対して、敢えて言及はいたしません。ですが! そんなことを言うのはこれっきりにしときましょう。そんなことを言うのは、その相手に対して失礼です!」

 「えええええ~~~~!?」


 まったく! 真面目に語っているかと思えばこれか。

 あの美声と鳳先輩の声が似ている? 冗談は言っちゃいけません。

 「あっはっはっはっ!」と豪語に笑ったり。「くっくっくっ……」と人をおちょくった笑いなのでなく。


 『うふふ。葵くーん』


 などと言った、花咲くような声で笑いでもしてこようものなら、俺の警戒心はMAXとなり。即座にその場から離れることだろう。

 うん。想像してみたが、例えその人の声だとしてもだ。中身が鳳先輩じゃあ、何を企んでいるのか分かったもんじゃないな。

 と、そんな俺の思いとは別に、鳳先輩がガックリと肩を落とし。「私……声が似てると言われたことがあるんだがな…」と、まだ呟いていた。


 「次の者。来なさい」

 「あ、みんな僕達の番だよ」


 こちらの話に加わらず、律儀に前を向き、順番待ちしていた白南風から声が掛かった。

 話も一段落付いていた俺達は前へと進み。軽装鎧に身を包んだ兵士達の側へと行く。


 「四人か。身分証の提示。来た目的。入門税一人頭300リーンだ」

 「身分証ね。はいはい……(って、そんなのねぇぞ!? 学生証じゃ不味いよな!?)」


 ぶっきら棒に話す男性兵士の言葉に従い。身分証を提示しようとしたが、この世界で通じる身分証など持っていないことに気がついた。ついで言えば金もだ! どうすんだ!?


 「(先輩! 鳳先輩! どうすんですか!? これじゃ町に入れないですよ!)」


 小声で俺よりきちんとした形で来ている鳳先輩に聞く。すると鳳先輩は鷹揚に頷くと。


 「我々はこの町で冒険者となるためにやって来た。身分証もなければ金もない! 出来ればその辺を考慮して、町に入れて貰えると助かる!」


 大見得切ってそんなことを言う鳳先輩に、兵士の人は物凄い良い笑みを浮かべ。


 「出直してこい」


 手で追っ払うようにされ。「次の者。来なさい」と次の人を相手にし始めた。


 「お慈悲を~! お慈悲をお願いします兵士さん~!」


 すがり付いて懇願する様は男に捨てられた女のようであった。


 「はなせ! こら! ズボンに手を掛けるな! おちる! ズボンがずり落ちていく!」


 すがり付いて要るのか。それともズボンを引きずり落とそうとしているのか。最早どっちだか分からない鳳先輩に困惑な表情をし、迷惑そうな顔をして引き剥がそうとする兵士の人と。


 「ちょっと見て」

 「あら、なんですの?」

 「あそこの兵士さん。あんな若い女性を弄んで捨てようとしてる雰囲気じゃない」

 「あら? ホント!? まあ! ヒドイ兵士さんもいたものね!」

 「ち、ちがう、私は!?」


 少し離れていた入門するために待っていた人達にこのやり取りを見られた。

 しかし向こうはこちらの内容()は聞こえないようたが、向こうの内容()は聞こえた。

 兵士の人は誤解だと言おうとするが、そんな事をすれば鳳先輩の格好のからかいネタとして扱われる。


 「捨てないで! なんでも言うこと聞くから、捨てないでえええ!」


 ほら見ろ。あの先輩はこう言うことを喜んでやる人なんだよ。


 「まあ! あんな少女を捨てるだなんてヒドイ男ね!」

 「ここの兵士()はそんなことを平気でやるのかしら!」


 向こうの女性達の声が聞こえた鳳先輩はこれ見よがしに、自分達の関係を強調するかの様に、大きな声を上げた。


 「……くっ……き、君たち! こちらの詰め所に来ない!」


 兵士の人が他の人に仕事を任せると。この場から逃げるようにして、詰め所だろう。その場所へ駆け込んで行った。


 「うむ。我々の勝利だ!」

 「何の勝利もしてません。むしろあの兵士さんに悪印象を更に植え付けただけです」


 胸を張って事態は好転していると思っている鳳先輩。俺は寧ろ、最悪な方向へ転がっているんじゃないかと思う。見ろ白南風や蛇神後輩も微妙な顔をしてるじゃないか。


 「これから町へ入る手続きをしに行くぞ! 私に続け! 皆のものー!」


 意気揚々と行く鳳先輩。その姿は英雄の凱旋、と言った歩きであったが。俺にはどうも虎穴に知らずに入らんとしている、お調子者(バカ)にしか見えなかった。


 「……とりあえず行かないと話が進まないか」


 これから起こることを考えると、スゲェー気は進まないけどな。














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