No.3
No.3
異世界に転移してから神に願ったモノを聞いていたら、犬のような狼のような獣が近付いてきた。
その獣を鳳先輩がゴツい拳銃型ライターだと思っていた物を使って、爆風と熱風を巻き起こし。あとは草原であった場所に直径五十メートル程のクレーターを作り上げた。もちろん獣の『け』の字もないくらい相手も消し飛ばして。
過剰なまでの火力を撃ち放った鳳先輩はその場でぶっ倒れ。引きずってでも早く安全な場所に避難した方が良いと提案したのだが、白南風や蛇神後輩から鳳先輩が回復してから行こうと言われてしまった。
背負って行こうとも提案しようと思ったが、鳳先輩を誰が背負うと言うことになると、きっと俺しかいないだろう。はっきり言って鳳先輩を背負ったら何されるか分かったもんじゃない(主に性的な意味で)。
だからまあ、最悪の場合は見捨てて逃げると言うことも視野に入れようと思う。
あ? 非人? 普通ならそう思われるだろう。何より俺もそう思う。
だがな。いまの鳳先輩を見てると、それをしても良いんじゃないかと思うんだよ。
「ん~~♪ 芳しき香り~♪」
「あ、あの鳳先輩……出来れば仰向けになってもらえると嬉しいんですが……」
「嫌だ! こんな素敵な太ももで膝枕だよ、堪能しないなどもったいない!」
ヘロヘロになった鳳先輩は白南風の太もも、じゃなかった。膝枕を頼むと。仰向けにではなくうつ伏せで白南風の膝に顔を埋めている。
そしてスーハ―スーハ―と、その音が聞こえるくらいの深呼吸をしてる。
もう羨ましいを通り越して、どうしてそこまで自分の欲望をさらけ出せるのかと聞きたい。まあどうせ返ってくる答えは。
「私がしたいからそうするのだ。あっはっはっはっ!」
とか言うに決まっている。
「……なあ、その杖の力で回復とか出来ないのか?」
「先輩。この『癒しの杖』は怪我や病気は治せても。体力回復や魔力回復と言ったことは、まあ出来なくもありませんね」
「できんのかよ!?」
鳳先輩の痴態を見るに耐えなかった俺は、蛇神後輩の持っている杖でどうにか出来ないかと、半ば無理だろうなと思いながらも聞くと。出来ると言う返答が返ってきて思わず突っ込みを入れた。
「出来ますが、今度は私が倒れます。この杖は私の生命維持装置です。この『癒しの杖』からの発している【自己治癒力増加】の効果がなくなれば、私など即座に丘に上がった魚のようになるでしょう」
それでもやりますか? と聞いてくる。
イヤな聞き方をしてくる後輩だ。それならさっき俺の額を治したのは何だと言いたくなる。
「怪我でしたら骨折までの治療をすることは可能ですよ。最も先程のような怪我ならともかく。骨折の治療をしたらしばらくは熱を出して動けなくなるでしょうけど。ですので骨折以上の怪我はやめてください。それでも治して欲しい場合は、私の命が削れていきます」
ガリガリっと、擬音を口にしながら地面を杖の先で削る蛇神後輩。
まったく、斬新な脅しかただな。あと人の心の声に平然と返すな。
「先輩の表情が読みやすいだけです」
「そうかい。今度からポーカーフェイスを心掛けるよ」
やれやれと肩を竦めたい気持ちになったが、それをしたらまた何か言ってきそうな気がしたので我慢した。
「ところで鳳先輩に聞きたいことがあるんですが」
「ん? なんだね葵君。それと私の呼び名が変ではないかね? 別にもっと言ってくれても私は全然ウエルカムだが!」
くそッ。この人には何をやってもエサにしかならねえ。
「先程の拳銃が鳳先輩が願ったものですか?」
「いや。話の途中になってしまったが、この『術式陣装填砲』は炎帝様より授かったものだ」
……なんだろうな。物凄く内容を聞きたくないと言う気にさせられる。
何故かって? あの鳳先輩がわくわくしながら「早く聞いて! 聞いて!」って言う顔をしてるんだよ。これはもうダメな分類のやつだろう。鳳先輩に破壊兵器って感じに。いやさっきの威力を見る限りじゃあながち間違いじゃないな、これは。
「……聞きたくないので次いきましょうか。ああそれと鳳先輩は二度とその拳銃を使わないでくださいね」
「葵君は本当におわずけプレイが好きだね! そんな葵君に調教されてしまった私は、日に何度パンツを履き替えれば良いのやら。今はそれほど替えを持っていないから、無くなったらノーパンで過ごせと言うことかな? それはまた新たな境地だな!」
「よーしもう黙ろうか! そもそもプレイを強要した覚えはねえし! 調教した覚えもねえよ! 自重しろって言ってんだよ。この年長者!」
フルスロットル全開で変態言動しやがって。
「あっはっはっはっ。まだまだこんなものではないよ!」
「話し進まないからホント黙ってください……」
ガクリっと肩を落とし。何を言っても堪えることがない鳳先輩に気の無い声でそう言った。
それから鳳先輩の説明を挟んでいると(脱線)話がホント長くなるから割愛して話すと。先程の中二臭い、『術式陣装填砲』は、炎帝、四神の一柱。朱雀に貰ったそうだ。
何でも鳳先輩がこの世界の神に願ったものは、特定の条件を満たさなければ発動しないものだそうで。発動しなければチート的な強さを持たないだそうだ。
それだがどんな願い事かは、幾ら聞いても教えてくれなかった。
発動したら世界最強にでも成れるのかとも聞いたが。
「あっはっはっはっ! その時が来たら分かるだろう!」
んで、炎帝はそんな役に立つのか立たないのかわからんアホな願い事をした鳳先輩の為に、わざわざ武器を用意したそうだ。
この世界に在る誰しもが持つ、魔力と言うものを『術式陣装填砲』に込める事により。火水風土のあらゆる攻撃魔法から選択して撃ち放つことが出来るそうだ。
ただ選択した攻撃魔法によっては、バカみたいに魔力を消費するんだそうだ。
だったらあんな馬鹿げた力で使わなくともと言ったんだが。
「何を言ったいるのかね! 日本人なら大鑑巨砲主義……日本人なら大鑑巨《ピー》主義だろう!」
「言い直さなくても合ってんだよ!」
これだけの事を聞くのになぜか、二十分近くも掛けなきゃならんのだろうか。
「それで、私達ばかりに願い事を聞いている葵君は、一体どんな願い事をしたのかね?」
ついにこの質問が来たか。
「あぁ……俺はその何て言うか、人違いでこの世界に来た的なもので、この世界の神に願ったものはないですね」
出来るだけ軽く俺はそう言ったが。
「「「えええええええ!?!?」」」
三人の驚きの声が天高くに響き渡った。
☆★☆★☆
無造作とも言える手つきで乾燥させた野草の一つを手にし、薬研に入れ擦り漕ぐ。ある程度まで行ったら別のを入れまた擦り漕ぎ。最後粉にしたものをに瓶詰めにして、それを待っていた人物に渡す。
「ほらおっさん、湿布薬の薬だ。いいか、小匙で取った粉を少量の水で溶かすようにして、患部へすりこむ様に塗るんだぞ」
「わかっとるよアオイ。だてに薬付けの毎日じゃねぇんだ」
「やな例えの毎日だな…。しばらくは無理すんなよ」
「わかってるわかってる」
腕を捻挫したおっさんは俺の話など半分も聞いておらず、あちこちをキョロキョロと見回して。
「なあなあ、今日はコテツちゃんは居ないのか?」
その言葉にまたかと言うようにため息を吐き出し。
「居るけど奥で料理中だ。おら! 診察も薬の受け取りも終わったんだ。用の無い奴は帰れ!」
「ひでぇ!? 俺は怪我人だぞ!」
「そんなもん別の診療所で【治癒】を掛けて貰えば一発で治るだろうが! わざわざ薬治療専門のここへ来やがって! さっさと帰れ!」
「せめて! せめてコテツちゃんの顔を!」
「さっさと帰れー!」
蹴飛ばすようにしておっさんを追い払う。
「ったく。……はぁ、予想通りとは言え、忙しいったらありゃしないな」
今度は別の意味でもやはりため息が漏れた。
俺が人違いでこの世界に来たと、皆に告げてから約一月。少々のトラブルに見回れながらも、俺達は冒険者が集う『ヴァンガード』の町に、なんとか生活基盤を作り、腰を落ち着かせていた。
そしてその間にこの世界の神がなぜ鳳先輩達を選び、連れてきたのかと言うことも聞いた。
ファンタジー世界よろしく。この世界にも魔族や魔王等と言った存在も要るが、完全なる悪と言う立場ではない。一つの種族、国として存在する。
まあ善人も要れば悪人もいると言った感じだ。
だから彼らを倒しハッピーエンドと言う話ではない。
ではなにかと言うと、簡単に言えばこの世界には『迷宮』と言うのが存在する。
この辺は俺達が知る迷宮と何ら変わりがない。中には狂暴な『モンスター』がいて、倒したらアイテムを落としたりと言ったことがある。
この迷宮だが、神が世界を作った際に出来てしまったバグの様なもので、本来現れる筈の無いものであった。
しかも放っておけば迷宮から人々を襲うモンスターが溢れ返り、世界の危機となると言う話との事だ。
この世界の住人で何とかしろよと言いたいが、迷宮攻略が出来る者が少ないと言うことと、この世界の神が最早直接手出しをすることが出来ないと言うことでもあって、困った神は別世界の人間に頼ることにした。
もちろん別世界の人間を無理矢理連れてこようものなら、その世界の神から顰蹙を買う行為に成りかねない。
なので別世界の人間、特に世界との縁が切れ掛かっている人間を選びスカウトしていた。
ああ世界の縁と言うのは、要するに数年以来に何らかの事情で死ぬような人間の事らしい。これを聞いた時にあの三人が死ぬ!? と思えた。
マキコは二十歳まで生きられないと自分で言っていたから分からなくも無かったが、ベニオやコテツが死ぬと言うのは考えられなかった。
本人達もそれは思ったらしいが、この神から死因等を聞いた時に納得したと言っていた。どんな理由で死ぬのかは教えてくれなかったがな。
ああそれとちょっと横道に反れるが、俺が三人の名前を呼んでいるのは、この町に着いてすぐにベニオから。
「我らは一蓮托生! 苦楽を共にする仲間であるならば、最早他人行儀な呼び方はよそうではないか! あ、葵君は我々の事は呼び捨てで呼ぶように。これ厳命な!」
と、宣ってな。特にコテツは乗り気で、マキコもどちらでも良いと言うことになり。反対するのが俺しかいなくなると、民主主義と言う名の数の暴力を振るってきてな。やむなく名前で呼び始めたと言うことだ。いまだに自分で言ってても違和感しかないから、何とも言えない。
閑話休題だな。ええっとそれで話の続きは何だっけ? ああそうそう。別世界の人間を選んで連れてくるな。
この世界にはファンタジー世界お馴染みの『レベルの概念』や『スキル』と言ったものが存在する。
だがら別世界の戦いなんて無縁に生きてきた人間でも、神から願ったチート能力を駆使すれば、まあなんとか生きていける世界ではある。あとはこの世界に馴染めるかによって違ってくらだろうが、その辺も考えて選別してると言う話だ。
で、だ。そんな選別すらされず手違いでこの世界に来た俺が、馴染めるかと言えば、色々理不尽で、頭のおかしな状況に陥ったりもしているが、それなりに満喫しながらも、なんとかこの世界で暮らしている。
はぁ、こんな説明、第一話の冒頭部分で説明されるようなことだぞ。何で今さらになって俺が説明しなきゃ行けないんだって感じだよ……。きっとベニオのせいだろうな。あの人が絡むと話進まないから。
「アオイ先輩。午前中の診察はこれで終了です。他にも居ましたが、誰も彼もが放っておいても治るような軽症な上に仮病ばかりでしたので、他の診療所に行けと、追い払っておきました」
午前の患者の診察を終えたマキコが自室兼薬品庫兼調剤室兼薬局と、色々多くを兼ね揃えた俺の部屋にやって来た。
マキコは女医を意識してるのか、ダブダブの白衣を着ている。袖は垂れ。裾は引きずっているから直せと言っているんだが、一向に直そうとはしなかった。
「……そうか。うん。診断ありがとな、……マキコは、疲れはないのか?」
医者の真似事をしているとは言え、その対応はどうかと思うが、まあ何であれ。診察をしていたマキコを労う。そして体の調子の方はどうかと聞く。
今こいつにまで倒れられたら大変だからな。
「問題ありません。【診断】レベルの魔力量でしたら、【治癒】を使うより少ないですから。それより、まだ名前で呼び慣れないんですか?」
「しょうがねぇだろう。今まで後輩後輩って呼んでいたのが、いきなり呼び捨てだぞ。慣れるか!」
一月そこらで呼び慣れるお前らがお前らが可笑しいんじゃないかと言いたくなる。
「…まったく、これだからヘタレピュアボーイが…」
ぼそりと、マキコがそう呟いていたが、生憎と俺の耳には届くことはなかった。その代わりに。
「マキコちゃん。アオイくん。診療終わっちゃった? ごめんね。手伝うことできなくて」
透き通るような声を響かせ。奥の間から出てきたのは、サラッとして長かったロングの髪を頭を上で縛ってポニーテールにしている。
料理をしていたからであろう。ここ最近作ったメイド服の上からエプロンを付けている。
しかしながらエプロンと言う武装を付けていても、その隠しても隠しきれない存在は、自分は「ここにいるよ」と主張するかのようにアピールしている。
だがそれでも彼女の醸し出される妖艶さは止まるところを知らない。
全体的に丸みを帯びた体は、むちっとしている訳ではない。それどころか均整の取れた抜群のプロポーションだ。
男であれば思わずそれに手を伸ばしたくなる気持ちが生まれ。女であればそれに羨望と嫉妬の視線を向けること間違いがないであろう。
これが大袈裟に言っているかはどうかは、ここにいる平原娘と比べれば、それが分かっていただけるかと思う。なにしろマキコを見ていると心乱れた気持ちが波風たたぬ澄んだ泉の如き気持ちにーーーあたっ!?
「そろそろその心の妄想を止めてください。聞こえてこなくても不愉快です」
マキコが後ろから『癒しの杖』で殴ってきた。
「だからなんで顔も見てないのに何でわかんだよ!?」
「雰囲気で何を考えているか大体わかります」
振り向けば無表情ながらも、目だけは怒りの感情を見せていたマキコがそこにいた。
「俺は隠し事すらできない体質だったのかよ!? 違うよな!?」
俺は奥から出てきたぶっ飛んだ美貌の持ち主。現美少女。元美男子のコテツに聞くと、困ったような笑いをしているだけだった。
「アオイくんは裏表のない人で良いと思うよ」
素敵な笑顔でコテツがそう言ってきた。
……うん! コテツがかわいいから俺、気にしない、わけにいくかああああ!! コテツは元男だああああ!! 忘れんなああああ!!
「おおっ!? コテツ先輩の魅了にまんまと取り込まれ掛けておいて復活するとは、さすがひとつ屋根の下に肉親でもない女性が多く居るにも関わらず、手も出してこない、ヘタレピュアボーイです」
」
「誰・が・ヘタレピュアボーイだ!」
「いひゃいです。いひゃいです」
無表情で痛いと言うな。
俺がマキコの頬を引っ張っていると奥の部屋から食事はまだかと言う、子供の声が聞こえてきた。
「はーいソウさま。いまみんな揃いますから、待っててくださいね」
コテツ奥へと戻っていき、その子供に声を掛けると早くしろと言う声が返って来るのか聞こえた。
「アイツが一番無駄飯ぐらいなのに、何で一番偉そうなんだ?」
「実際に偉いからではないですか?」
「前ならともかく。今はただの子供だろう。敬うと言う気持ちも出てこんな」
「そんなこと言ってるとまた怒られますよ。ソウさまの事です。午後は暇だから迷宮に行くと言い出すと思いますから。アオイ先輩、その時は説得の方お願いしますね」
午後も診療があるからと、マキコはそう言って奥の間へと行こうとする。
「俺がか!? コテツやマキコの方が言うこと聞くだろう!?」
「それはきちんとアオイ先輩がソウさまを見ていない証拠ですよ。ソウさまは一番アオイ先輩を信頼してます」
俺がそう声を上げると一旦止まってからこちらを見て。マキコはそう言って奥の間へと行ってしまった。
そんなマキコを見送ったあと、俺はこの一月で起こったことを思い出す。
「そんな風には思えないけどな。コテツに餌付けされ。マキコと仲良く遊んでて。ベニオと一緒にバカやらかして。俺に罵詈雑言を宣う。ほら、俺を信頼している要素は皆無だよな」
首を捻り。マキコの言葉にそう返すが、今度は誰もその返事を返すことはなかった。