No.2
No.2
「ーーー―くん」
誰かが自分を呼ぶ。
「大丈夫ーーー」
心配し声を掛けてくる女性の声。その声に何処か聞いたことのある声だと理解してくると、自分の意識が深い眠りから覚醒しする。
(鳳先輩? 蛇神後輩か? それにしても居眠りなんてそれほど疲れていたかな……)
鈍くなっている思考で考えても答えは出ず。心配している誰かのために目を開き。ぼやけていた視界がゆっくりとクリアになると、空高くには雲が流れるのが見える。回りに建物らしきものはない。どうやら外のようだ。そして自分を心配して覗き込んでいる人物がいた。
さらさらのロングの髪に童顔丸顔にくりっとした瞳。鼻筋はスッと通り。艶やかで思わず触れたくなるような唇。コンパクトはボディのわりに存在感のある胸。抱き締めたら折れるんじゃないかと言うような細い腰。体全体から出てくる雰囲気から保護欲を掻き立てられる儚き美少女。ある意味男の理想の体現者と言わんばかりの人物が、俺を泣きそうな顔で心配そうに覗き込んでいた。
「よかった。辰巳くんだけ起きないから心配したんだよ」
起きた俺をホッとした表情になる美少女。
そんな彼女に対して俺の第一声は。
「だれッ!?」
で、あった。
「あっはっはっはっ! ほら葵君が混乱してるから一旦離れたらどうだね?」
「あ、はい。鳳先輩」
黒髪三つ編みお下げに黒縁メガネ。見た目だけなら文学少女の鳳先輩がいた。
「転移の時に空間を越えるから意識を失うと。私達を見出だした神様が言っていたが、君だけなかなか起きないから皆心配していたぞ」
「神……様…」
ああ、そうか。さっきか? にあった蒼竜との出来事は夢じゃないんだな。……ハァ、帰れないって嘆いても仕方がないな。
「異世界に行くことを了解した人が鳳先輩とは、何となく納得できますね。他には? それと彼女は?」
「どう私だと納得できるのか問い詰めたいところだが。応じれば地球での紡いできた縁は切れるが、こちらに来れば可能な限りの願いを叶えると言うんだ。話を聞くだけ価値はあるだろう? それとこちらに来たのはあの時あの場所にいた我々四人だけのようだ。つまりそう言うことだよ」
はあ? 色々と突っ込みたいところはあるが、あの場にいた四人だけ? 俺。鳳先輩。白南風。蛇神後輩だけだったろう。で、彼女は女。鳳先輩ではないと言うことはーーー。
「蛇神後輩か!? 変わりすぎだろう!? あのロリッ娘ボディはどこへ消えた!?」
座敷童子のような子供体型だった蛇神後輩が、モデルも羨むナイスバディな娘さんに早変わりだと!? 可能な限りの願いを叶えてくれるって言うのは、人体の骨格どころか遺伝子すら変化させるのも許容範囲なのか!? と言うか蛇神後輩はそんなに自分の体型にコンプレックスを持っていたのか!? あれはあれで可愛いとは思う、あたっ!?
「人をロリッ娘とはなんですか。スレンダーボディと言ってください。じゃないと次はこれを差し込みますよ」
俺の後頭部を花の蕾が付いた木の枝のような物で叩いてきたのは蛇神後輩であった。もちろん姿はおかっぱ頭にツルペタストーンボディのままの蛇神後輩がだ。
ってか、それをどこに差し込むって。怖えな。地面をつく方であろうと。そのドリルのように捻れた花の蕾のみたいな方であろうと。差し込まれる場所がどこであろうとも嫌だ!
「ちょっと待て! 四人が転移してきて二人じゃないと言うことは……」
残りは決まっている。だがそんなことあり得るのか(パート2)……。えっ、だって、この子どう見ても女の子だよ……。
俺は恐る恐る鳳先輩に言われ、一歩下がった位置で佇む美少女に問いかける。
「……し、白南風、なのか?」
「うん。僕は白南風虎徹だよ。辰巳くん」
頷く美少女改めて白南風。
鳳先輩はニヤニヤと面白そうな表情をして。
蛇神後輩は相も変わらず無表情だった。
そして俺は。
「なんで女になってんだあああああ!!」
盛大に突っ込みを入れる俺。。
曖昧な表情をする白南風。
俺の突っ込みに大笑いする鳳先輩。
我関せずと言った雰囲気で地面に『3』の文字を書き始め。右側の真ん中の部分を杖でつついて、ニタニタと笑い遊んでいる蛇神後輩。
もうどうしていいのか訳がわからない状態だった。
「はあ!? 願いで女にしてもらった!?」
一頻りに驚き突っ込みをしたあと、白南風がなぜ女になっているのかを聞いた。
「……うん」
「何で性転換なんぞを、いや、人それぞれの願いだし。それがダメだって言う訳じゃないんだが……」
「僕同姓の友達がほしくて、向こうじゃどんなに頑張っても男の友達ができなくて、女の子の友達は多くて…。ああでも最後に向こうで辰巳くんが友達になってくれて、すごく嬉しくて!」
「ああ、うん。わかった理解した」
若干涙目で語り。慌てて俺を友達だと言う白南風。
自分自身に問題があると理解をしても、それが何であるかはできなかったと。だから女になれば男の友達はできなくとも、女性の友達なら出来ると考えた訳なんだな。
どうせだったら同姓の友達ができるようにと願っておけばとか、言いたがったが、最早願ってしまったものは仕方がないと思い黙っておいた。
……しかしなんだなぁ。目の前の美少女が白南風だと分かっていても、涙目の美少女を見ていると、こう心にぐっと来るものがあるな。
「虎徹君、私は君の事を今でも友人だと思っているよ。今度は同じ性別になったのだ。我々は同姓の友達であり。葵君とは今度は異性の友達だ」
「私も後輩ですが、白南風先輩とは友達です」
「鳳先輩、蛇神さん……ありがとう」
鳳先輩と蛇神後輩が白南風の話を聞いて友達宣言する。しかし鳳先輩だけはその顔がどう贔屓目に見ても、これから楽しい出来事が起こると言う期待に満ちた顔をしていた。
こう言う顔つきはヤバイ。絶対に何か企んでいる。
「……何を企んでるんです」
「別に何も企んではいないよ。なに、虎徹君とは同姓の友達であった葵君が、今度は異性の友達になったと言うことのだけではないか」
うろんげな表情をして鳳先輩に聞くが、鳳先輩はニヤニヤとした表情のまま、さっき告げた言葉をそのまま言ってきた。
俺は鳳先輩のその言葉に意味が分からなかったが、後ろからこそっと蛇神後輩が呟いた。
「白南風先輩は無自覚で異性を魅了すると言う天然の力を持っています。私や鳳先輩、特定条件の女性なら問題はありませんでしたが、辰巳先輩はどうてすか?」
俺はその言葉にハッとする。
そうだ! こいつが地球で男子からハブられていたのは、その無自覚から来るモテッぷりだったのだ。それが今度は女性から男性にシフトチェンジすると言うことは……。
バッと白南風の方に振り返りまじまじと見る。白南風はどうかしたのかと言うように小首を傾げ見つめてくる。
俺はその表情に心の内から沸き上がってくる、なんとも言えぬ衝動があった。
「あれは男だあれは男だあれは男だあれは男だあれは男だあれは男だあれは男だあれは男だあれは男だ」
「辰巳くんッ!?」
地面に頭を思いっきり叩きつけ沸き上がってきたものを叩き潰すように追い払った。
俺の突然の奇行に慌てて止めに入る白南風。
俺は白南風の方を見ずに心配するなと告げる。
「ちょっと自分の中から悪魔を追い払っただけだ」
「え? そうなの? でも額から血が出てるよ」
俺の言葉に疑問も抱かず俺の額に手を当てようとする白南風。その時に男の時には無かった重量級のブツが俺の視界を埋め尽くす。
「パイ! レーツ!」
「海賊!? ここ草原だよ!? さっきから変だよ!?」
「大丈夫だ!」
「ブンッ!」っと首を振って目を反らす。首が「ゴキッ!」っと鳴って痛かったが、自分から戻れぬ道に行くよりはマシだ。
鳳先輩は俺の行動に大笑いして見ている。
くッ、この人、すべて見透かしていやがる。
「何をしてるんですか先輩は。治してあげますからじっとしてください」
ため息混じりの呆れ口調で、蛇神後輩が持っていた花の蕾が付いた木の枝をこちらに翳す。
そして軽く息を吸い、その口から慣れ親しんだモノのように言葉が紡がれる。
「ピンクルミラクルラブポップ❤ いたいの、いたいの~飛んでいけ~❤」
「……頭、大丈夫か?」
無表情の蛇神後輩が、変貌したかのようにもうそれはノリノリで杖を振り回して魔法の呪文を唱える姿に、俺は思わずそう聞かざる得なかった。
ついでに言えばどこの昭和の魔法少女だと突っ込みも入れたい。
蛇神後輩は俺の言葉に途端に無表情に戻り。無表情ながらもぶすっとした表情になると。
「仕方がないじゃないですか。この『癒しの杖』の発動条件が、こう言う風にやらなければならないと、玄帝様の二人に教えられたんですから」
「玄帝?」
「万亀子君のところには玄武が現れたのか」
玄武。その名前なら俺もわかる。そういや蒼竜が別れを告げるために四柱で降りてきたとか言っていた気がする。そうなるとこの四人に四神が別々に来たってことなのか。
「とりあえず傷を治します。【治癒】」
いつの間にか花開いていた杖を構え、呪文らしきものを唱えると、その花から光が溢れるように降り注ぐ。光が自分の体を覆うように当たると額の痛みがなくなっていった。
「サンキュー。痛みがなくなった。その杖が願った品物か?」
その杖が蛇神後輩が代償を経ても尚欲した物かと訪ねたが、蛇神後輩は首を横に振り否定した。
「違います。この『癒しの杖』は今言った玄帝様の二柱から贈り物としてもらったものです」
「二柱? 俺達のところに四神が来たんだろう? 蛇神後輩のところに二柱来たら五柱じゃないか」
どう言うことだ? 俺は蒼竜。蛇神後輩が玄武ともう一柱なら、鳳先輩と白南風のところには行かなかったのか?
「僕のところには白帝様が来てくれたよ」
「私のところには炎帝様だ。うむ。万亀子君、玄帝様は蛇と亀の一体ではなく。別れた姿を持つ方だったのかな?」
「はい。亀に絡み付くような蛇の姿で、二柱で一柱の存在と言っていました」
「なるほど。文字通りに二神一柱と言う訳なのだな」
蛇神後輩がの言葉に納得している鳳先輩。
俺も玄武の姿を想像してみたが、確かに亀に蛇が絡み付いていた姿だったと思った。
と言うか人の姿で来てない? 蒼竜はなんで人の姿で来てたんだ?
「まあいいや。で、何を願ったんだ?」
考えて答えが出るとも思わないので、蛇神後輩に改めて俺がそう聞くと。渋るような仕草をする蛇神後輩。
「なんだ答えるのを躊躇うような願いをしたのか?」
「いえ、別に大したことはないのですが……。ただ私が願ったものは……。余命幾ばくもないこの体を治してもらうと言うものでした」
「たいしたことあるよなそれッ!? 余命幾ばくもないって、病気か何かだったのかッ!?」
軽い気持ちで聞いたらなんかヘビーな答えが出てきた。
「まあそうですね。私は生まれたときから体が弱く。医者から二十歳までは生きられないだろうと太鼓判を押されました」
「太鼓判の使い方がおかしい!?」
「まあそんな訳で、私は自分の体を治して貰うのと。今まで散々死ぬとわかっていた、私の体の治療ために使ってくれたお金を両親に返してほしいと願った訳です」
「もういいから! 話がだんだん重くなってきてるから!」
「先輩が聞きたいと言ったんじゃないてすか。ええ。どうぞ遠慮せずに聞いてください。私の残り少なかった人生の話を」
「やめろー! そんな重い話を無力な高校生の俺に聞かせるな!」
「神様にならこの体を治してもらえると思い願ったのですが、この世界の神様も私の体を治すのは完全には無理だと言われまして。お金の方はできると言われたので、そちらは何とかしてもらいました」
「……お前人がやめてと言ってるのに、何で話を続けるの? ってかそれなら蛇神後輩は体が完全に治ってないってことだろう? これからどうするんだよ!?」
この世界の医療がどれだけ進んでいるか知らないが、このままだったら死んじまうって事だろうどうすんだよ!?
「ああそれならご心配なく。その補填のために玄帝様からこの『癒しの杖』をもらったのです。自分の体は自分で治しなさいと言った感じに」
杖を掲げて見せる蛇神後輩。よく目を凝らして見てみると、杖から蛇神後輩に向かって何かが流れている。聞けば杖を持つ者には、常に自分を治療する力が働いているらしく。その力を外側に向ければ他人も治療ができると。
「それって生命装置みたいなもんじゃないのか!?」
「よくわかりましたね。これがなければ私は生きられなくーーーごふっ!」
「蛇神ッ!?」
口許を押さえ。苦しむように前屈みになる蛇神後輩。
俺が慌てて体を支えようとすると。
「…………冗談です。ああ、痛い痛い痛い。先輩、こめかみをグリグリするのは止めてください」
このヤロウが。ホントこのヤロウがあ!
「葵君その辺で止めてあげてくれないかな。神様の力で病気が緩和されているとは言え、万亀子君は本当に体が弱いんだ」
鳳先輩がこめかみグリグリをしている俺を止めにはいる。
俺はあれ? っと思ってグリグリを止める。その隙を逃さず蛇神後輩は俺から逃げていく。
「もしかして鳳先輩は知ってたんですか?」
「当たり前であろう。私の生徒会に加えるのだ。各個人の諸事情は把握していたよ。最も万亀子君の場合は、諸先生方からもよろしくと言われていたからね」
「お陰で私は都合の良い時に生徒会の仕事だと言って、悠々と嫌な授業をボイコットすることができました」
「だから言葉が変じゃねえ!?」
鳳先輩の言葉に続くように蛇神後輩が(ない)胸を張って言う。イッて!? 何すんだこのやろう!
「言ったじゃないですか。不穏なことを考えたら次は差すと」
「言ってねえよな!? 考えただけでそれなのかよ!?」
「あっはっはっはっ! さっきから万亀子君ばかりと遊んでいて、そろそろ私も構ってくれないと寂しくて泣いてしまうぞ」
「遊んでませんよ! 何処をどう見たら遊んで…………」
「ん? どうかしたのかね葵君」
「……あれ、皆さんには何に見えます?」
俺が突っ込みの途中で止まったのを訝しむ鳳先輩。
そんな俺は鳳先輩達の背の後ろ。すげえ遠くの方から、何かが駆けてくるのが見えた。
皆が揃って後ろを振り向き、確認する。
「……いぬ、ですかね?」
「この場合だと野犬なのでは?」
「まあ何にしても、四足歩行の動物だと言うのは分かるね」
「いやそうじゃねえだろう!? 数だよ! 数が明らかに多いよな!? 十や二十じゃ利かねぇだろう!」
のんびりとした受け答えに俺が盛大に突っ込むが、そののんびりが変わらない三人。
「まずいまずいますい!! 早く逃げないと!!」
明らかにこちらを向かってくる獣。鳳先輩達を急がせ逃げようとするも。
「よし。では今度私の願いや炎帝様から戴いたものについてーーー」
「いや! そんなの良いから! 早く逃げないと!」
もうかなりの距離まで近付いてきた獣に対して鳳先輩は「残念だ」と言いながら、何故かスカート裾に手を入れる。すると、チラリと生足が見えた。
そしてこちらに蠱惑的な表情をして。
「見たいかね?」
ブンブンと首を振って答えるとガッカリした表情を見せる。
見せたかったんかい!? と突っ込んだら喜びそうなので、なんとか言葉を飲み込んだ。
そしてスカートの中から出てきたのは全長三十センチは優に在りそうな。ゴツいオートマチック(だと思う)拳銃だった。
しかもこの拳銃どう贔屓目に見ても、アニメか何かでしかお目にかかれないようなデザインをしている。
銃身部分は幅五センチは在るマニ車ぽい構造をしている。ほら銃身部分になんか文字っぽいのが装飾として施されているし。
そして文庫サイズの弾倉。銃把がハンドタイプなのに、あの大きさから考えるとライフルサイズじゃないかと疑いたくなる。ってか撃てねえだろうあんなの。反動がデカ過ぎて鳳先輩が撃ったら肩抜けるか。あらぬ方向に当たるしかしないだろう。
そんな俺の心の声が(蛇神後輩のように)聞こえたわけではないだろう。銃口をこちらに向ける鳳先輩。
「アホかあんた!? こんな近くでこっちに銃口向けんな!」
俺がそう言うと鳳先輩はいつものニヤリではなく。ニタァとした笑みを浮かべ、銃口を完全に俺の方へと向ける。
俺は条件反射で両手を上げ降参ポーズを取る。
しかし鳳先輩は拳銃を構え、問答無用で引金を引いた。
「ーーーッ!?」
顔を手で覆い目を閉じる。これで死んだと頭に過った。ついでに死んだら必ず化けて出てやると誓って。
しかし自分の耳に聞こえてきたのは大きな銃声音ではなく。カチッっと金属を打ち鳴らしたような音が聞こえてきた。
恐る恐る目を開けてみると鳳先輩が持っていた拳銃の銃口からは小さな炎がチラチラと出ていただけだった。
「ライターかよ!?」
「びっくりしたかね?」
「ビックリしたわ! って言うかそんなゴツいライターを持ってる意味がわからんわ!」
「カッコいいではないか」
「知るかー!」
「鳳先輩、あと六十秒ほどで接敵します」
「むぅ、仕方がない。葵君との嬉戯はあとにしよう」
白南風の言葉に獣の方に改めて向く鳳先輩。
クッ、完全に鳳先輩に遊ばれてる。
「ちょ、ちょっとまって!? 鳳先輩! そんなライターでなにしようと言うんだ!?」
鳳先輩はゴツいライターを向かってくる獣に向かって構えた。
そしていつものニヤリとした笑みを浮かべて。
「見ていたまえ。これが私の全力全開だッ!」
どこぞのアニメのキャラクターのセリフを吐く鳳先輩。思わず「白い悪魔かアンタは!」と突っ込みそうになったが、それより先に。鳳先輩が持っていたゴツいライターの銃身部分の文字が、鳳先輩の言葉で赤く輝き出した。
「『炎陣全開』」
銃身の部分のマニ車の様なところが独りでにくるくると回り出す。
「『方炎陣設置』」
獣達を中心に地面から赤い色をした光の柱が出現した。突然出現した光の柱に驚く獣達。
そして鳳先輩は軽く息を吸い。獣達を見据え。
「『炎式収束爆炎陣』!」
カチリッと、引金を引く。
先程と同じように火がポッと出るだけである筈だった。
しかし出た火はまるで導火線に導かれるように物凄い速度で光の柱に向かって突き進む。
そしてーーー
ドッカアアアアアアアアアア!!!!!
と、地や空間を割れんばかりの大きな音と振動が鳴り響く。少し遅れて爆風と熱風が肌を焼かんと吹き荒れた。
「きゃあ!」
爆風で吹っ飛びそうになった蛇神後輩を後ろから支え、自ら盾となるように前へと出て庇うようにする。
数分。いや実際は数秒だろう。爆風や熱風が過ぎ去ったあと。
「すみません。助かりました」
「無事なら良い。白南風お前も無事か?」
「うん、なんとか……」
庇われたことに礼を言う蛇神後輩の無事を確認してから。白南風の方を確認すると。地に体を伏せ、なんとかやり過ごしていたようだった。
俺はいまの爆弾でも落としたかのような威力を放った人物に文句を言う。
「鳳先輩! なんなんですか!? その馬鹿げた威力のライターは!? 下手をすればこっちに被害がーーー鳳先輩?」
撃った直後から硬直したような状態の鳳先輩。
鳳先輩なら撃ったあとにうざったいほどに自慢してくると思ったんだが、それがない。俺は不思議に思い。鳳先輩の前に出る。
「鳳先輩ちょっと聞いてますか? 鳳……せん、ぱい? こいつは……!?」
鳳先輩は白目を剥いて茫然自失。いや。鳳先輩の場合はこう言った方が良いだろう。
「燃え尽きだぜ……真っ白にな……」
と言うように。鳳先輩から色が消えていた。
だから俺はこう言うほ他なかった。
「立て、立つんだ鳳先輩!」
「……くっ、それだと別の場面だ……葵君……」
バタンッと前のめりで倒れる鳳先輩。
よし。突っ込みが出来ると言うことは命に別状はないな。
「……乙女に対して……ひどい仕打ちだ……」
「頭のおかしな爆裂少女みたいな真似をした鳳先輩には丁度良い薬です」
「ハァ、ハァ、ハァ、これが世に優放置プレイ。私にとってはご褒美です」
なあ、この先輩に効く薬ってなんだと思う。毒薬って言われたら、無理矢理にでも飲ます覚悟があるんだけど。
息絶えた絶えのいつもの変わらぬ態度が取れるこの人に、尊敬すれば良いのか。はたまた呆れ果てれば良いのかわからなかった。
「……笑えばいいと思うよ」
「……鳳先輩、今の文脈でそのセリフだと、自分を馬鹿にしろと言っていますよ」
真似出来んわ、ホントこの人の生き方は真似出来んわ。