似てるけど似てない
「え、えーと……里中さん? これはいったいどういうことなのでしょうか」
全ての攻撃が終わると、すぐに俺の後ろに隠れ身を震わせながら状況を訪ねてくる。その姿は一言で表せばうざき。茶色に染めた髪の毛が首筋を掠め胸がざわめく。
「説明するより見てもらった方が分かると思って説明しなかった。悪かったな。ビビらせて。ご覧の通り、ダメ人間なんだようちの妹」
「誰がダメ人間よ! 誰が! 散々待たせといて言うことはそれだけ!?」
対する妹は例えるならヘビ。常に瞳をギラつかせ近づくものなら誰彼攻撃しようとする困り者だ。来客者がいたにも関わらず物を投げつけてきたのがその証拠だ。
ただ、こうなった妹を責めることなどできない。責める対象は他にいる。けれどもうその相手はここにはいないのだが。
「あーそうだったな。ただいま」
「ちっがーう! ごめんなさいだろ! ごめんなさい!」
「謝罪を要求するとかなかなかだなお前。一応俺は兄なんだが」
ズンズンと俺に近づいてきて拳を振り上げたので、素早く手首を掴み攻撃を阻止する。ちなみにこの妹、かなりの低身長である。俺の胸付近にすら頭が届かないほどだ。
「放してよ! このゲテモノ! はなし……って何よ。お客さんいるんじゃん。それならそうと早く言ってよ」
「今さらかよ。それとゲテモノじゃなくてケダメノだ。あほ」
人を人外扱いし、再び戦闘モーションに入ろうとした妹だったが、俺に接近したこともあり背後に隠れていた藤宮を発見すると大人しくなった。さすがに人前で暴れる程に常識はずれではないということだろう。
もう手遅れだと思うんだが。
「つーか誰よその人。挂が悠人と青葉さん以外の人を連れてくるとか今までなかったじゃん」
「藤宮に俺がその二人以外友達少ないってバレるからやめろ」
「少ないんじゃなくていないんでしょ」
追い討ちをかけるように見下した笑みを浮かべて妹は後ろを向いてすぐ側の階段を上がっていく話しは終わりだとばかりに言いたいことだけ言えてスッキリしたらしい。
「おいちょっと待てよ。ユリカ。話があるんだ」
「聞かない。以前もそう言って無理難題押し付けて協力してあげたのに見返りも何もなかったし」
「あれはお前が『兄に礼を貰うほど私は落ちぶれていない』とか偉そうにいってたからじゃねんーか」
「後々、見返り欲しくなっちゃったんだから仕方ないでしょ! ばーか! ばーか!」
開き直りやがった。ありったけの力で俺に罵声を浴びせて涙目になるユリカに困り果て、藤宮に視線を移す。当然藤宮にはどうすることも出来ずに現状にアタフタしているだけだった。
「どうしてもっていうなら条件があるわ……。それを呑むなら話を聞いて引き受けてあげる」
「用は前に貸していた借りを返せってことか。別にいいぜ。俺に出来る範囲でなら呑んでやるよ」
「交渉成立だね。なら場所を変えましょう。近くファミレスあるし話しはそこってことで」
着替えるから、とだけ言って俺と藤宮を家から追い出して、しばらくすると何やらドクロが書かれたシャツと太股をさらけ出した短いジーンズを着て玄関から現れた。見るからにギャル。どうだとばかりにどや顔を繰り出す妹に飽きれ半分で「さすが俺の妹。かわいくてスタイル抜群だな」と言っておいた。
実際のところ、妹は根っからのギャルと言うわけではなく、演じているだけ。妹にとってそれは1種の復讐や反逆と言った意味を持っているのだと俺は思う。そうしないと自我を保っていられないのかもしれないけれど。
駅前のファミレスにて話しあうことになった。夕方だからか時おり制服姿の連中も見かけるが 幸い俺達の学校の生徒はいない。さすがに学校が終わってまで友達未満知り合い以上の奴らには会いたくないしな。そこまで社交的ではないのだ。
ユリカも同じだったらしく中学近くのファミレスではなく敢えて駅前を利用したのはそういうことなのだろう。
「ジンジャー」
「は?」
席に座るなり訳の分からん言葉を口にしたユリカに唖然とした表情を作るとユリカは眉を寄せ不満気に
「ドリンクバー早くもってきてよ」
「ああ、そういうことかよ……ってまだ注文してねーからダメだ」
「早いか遅いかの違いでしょ。そんなもん。めんどくさいなー。ドリンク持ってきた後にドリンクバー頼んだっていいと思わない?」
昆虫みたいなサングラスを外して不満たらたらな様子でメニューを開きながら俺に同意を求めてきた。いや、思わない? なんて言われても返す言葉がねえよ。
「ルールはルールだ。手順ってもんがある。それは出来ない」
「そんなんだからダメなのよ。あーあ、成人になったらアメリカで暮らそうかな」
こいつアメリカを自由の国と勘違いしてやがる。自由の女神があるからなんでもかんでもしていいって訳じゃねーぞ。
結局ドリンクバーを三つ頼んで俺はユリカの言いなりでジンジャーを持ってくる為に席を離れる。すると、俺が立つと同時に藤宮も後をついてきた。
「さすがにユリカと二人きりっていうのはキツいよな。あいつ無口だからさ相手をひたすら睨み付けるんだよ。兄の俺だって居心地悪くなったりもすることあるししょうがない」
「ごめんなさい……でもユリカさんってとても綺麗ですね。年下なのに私より大人びて見えますし。さすがは里中さんの家系って感じです」
グッと拳を握り上目遣いでユリカに使いっぱしりにされてる俺を元気付ける藤宮に笑ってみせた。あいつは全然大人びてなんかいない。ただ自分を大きく見せる努力をしているだけに過ぎない。
「幸せそうな顔ね」
「え?」
席に戻るとスマホを弄りながら平坦な声で藤宮にユリカが話しかけた。
ユリカが藤宮に話しかけたのはこの瞬間が、初めてだったから妙な沈黙が生まれた後に慌てて藤宮が言葉を返した。
「幸せそうなのにこれ以上何を求めてんの? その髪だって大した理由があって染めたんじゃないんでしょ?」
悠人に見てもらえるように染めた藤宮、かたや全く違った理由で髪を金髪に染め上げたユリカ。染めたという点では同じだが理由と心構えが違う。似ているというのがユリカを苛立たせたのかもしれない。
悠人と青葉がいなかったら恐らく俺もユリカのようになってしまっていた。ユリカにはなんの支えもなくただ一人で痛みを耐えてきて遂に没落してしまった。そして壊れた。
だが、誰かに当たるのは少し違うと思う。『あれ』は仕方がなかったことで当然俺達兄妹に罪はない。運命を呪うのは勝手だ。けど誰かにその痛みをぶつけさせるのは間違っている。
「そこまでにしとけユリカ。藤宮に罪はねーだろ。お前には同情するけど人に危害をくわえるのは別だ。ああいう痛みを味わうのは俺達だけで充分なんだよ」
「な、なによ。そんなに睨まないでよ。少しからかっただけよ。本気になっちゃって、ばっかじゃない」
フンと鼻を鳴らして俺から視線を反らすユリカ。分かってるよ。反撃には弱いもんなお前。少し前なんか俺の後ろに隠れるような藤宮のような女の子だったんだから。
あっ分かった。やたらと藤宮にユリカが冷たいのは昔の自分が藤宮そっくりだからだ。弱い自分やわ間近で見て更には普通の学校生活をおくっているなんて考えたらシャクでしょうがなかったのだろう。
もしかしたら俺が藤宮に協力してあげたいのは藤宮にユリカの昔の面影があるからなのだろうか。
「ポケッとしてないで真面目に聞きなさいよ」
「聞いてるっつーの? で……なんだっけ?」
「聞いてないじゃん! もー!恥ずかしことなんだから二度も言わせんな!」
流れてきにはユリカのお悩み相談だったらしい。かわいそうなことをしたと頭をかきながら前傾姿勢になって耳を傾ける。
「だから、友達がほしいのよ……」
目線を下に落としてゴニョゴニョとユリカが呟いた。ほっぺを紅くしながら告白するユリカはまだ黒髪の弱気なユリカを思い出す。あの頃に戻ることはできるのだろうか。と考えながら俺は再び妹のはなしに意識を集中させた。




