魔装球
課題の為に準備を始める二人と一精霊。そんな時、アンナがラニカの武器にいい案があると言い出し……。
「ラニカ様。先程の男は、クトラさんにちょっかいを出してきた者では?」
「そうだよ。パーティへの勧誘だったみたい。あんなことして入ってくれると思ったのかな」
「たまにいらっしゃる、自分が貴族で偉いから好きなように振る舞ってもいいと勘違いしている御方のようですね」
「またいじめられるのは嫌だよぉ」
さっきの去り際の笑みから、いずれ何か仕掛けてくるのはわかっている。彼とその周辺は常に警戒しておいたほうがいいだろう。
アンデッド討伐の課題中にちょっかいを掛けてくるような暇人ではないと思うが、もしかするともしかするかもしれない。
「それよりも、ラニカ様。課題へ向けての準備をしましょう。見たところラニカ様は武器は持っていない様子。ラニカ様には私も居りますし、不要かもしれませんが、一応持っておくべきでしょう。」
「うーん、武器かぁ。私は杖だけど、ラニカちゃんはどうするの?」
そういえば、全く考えていなかった。武器がなくても魔法でやっていけると思っていたからだ。
ゲームでも魔法職は、杖なり魔導書なりを武器にしていた。魔法が扱いやすくなったりするのだろうか。
「それならぁ、私にいい案があるわぁ」
クトラの後ろからアンナがひょっこり顔を出した。人が教室に入ってくる気配は無かったから魔法かもしれない。
「学長!? いきなり出てくるのは止めて下さいよぉ」
「ご~め~ん。ラニカちゃんの武器の件でいい案があるんだけどぉ。付いて来てくれない?」
「「いい案?」」
アンナについていくと、街の大通りから何回も曲がり路地裏の奥へ奥へと進んでいく。道も細くなり、人が一人ようやく通れるくらいの道幅になってきた。
「ここよぉ。魔装具店ククラ」
細い道の先に少し広めの空間があり、そこには小さな看板の掛かったお店が建っていた。何故こんな誰も来ないような所にお店を構えているのだろうか。
店の中に入ると正面にはカウンターがあり、左右には様々な魔導具や杖等の武器、ローブや魔法の鎧等が壁が見えないくらいに並んでいる。
カウンターにある小さな呼び鈴を鳴らすと、奥から立派な髭を生やした老人が顔を出した。
「んん?アンナの嬢ちゃんか。久しいな。今日はどうした?」
「今日はこの子の武器を探してるの。ククラ爺の所ならあるかなーって思ったの」
「別に俺のとこじゃ無くてもいいだろうに。他にもそれなりの腕のやつが……おぉ?」
ククラ爺はラニカに気が付くと品定めするかのようにゆっくりと上から下へと視線を動かした。
「ほう。アンナの嬢ちゃん、この嬢ちゃんの魔力の数値はいくつだ?」
「一応、50って事になってるわぁ。」
「ってことは本当はもっと上かもしれねぇんだな? おもしれぇ」
ククラ爺は店の奥に引っ込み、何かを探しているようだ。
「そのくらいの数値ってことは飾ってあるやつは全部ダメだ。残るは、こいつだけだ。」
奥から持ってきたものは、金属の球体だった。白みの強い白銀で、一般的な金属ではないようだ。
「ただの金属のボールに見えますぅ。」
「魔法の気配がする……」
「ククラ爺。これって……」
「そうだ。アンナの嬢ちゃんは流石にわかるか。こいつぁ、魔力で操れる魔装球ってやつなんだが、使ってる金属の加工が難しくてな。頑張ってみたんだが、これが限界なんだ。だが、性能はそこら辺のより遥かに上だ。まずは魔力をこいつに流してみろ」
手渡された魔装球ラニカの掌くらいの大きさで、魔力を流すと浮かび上がった。魔力の流れや量を操作すると、自由に動かせるようだ。
「浮きましたぁ! すごいです!」
「いきなりそれだけ動かせるのはすげぇな。そいつは、魔力を流し込んでやると、思い通りに魔法を発動させれくれるのさ。金属の特性のお陰で、魔力を流す時は、直接触れていなくてもいいからな。複数使いこなせば、多方向同時攻撃とか複数の敵を同時に処理とかも出来るぜ。扱いはかなり難しくなるけどな」
これはすごい。アンデッドの討伐は量があまりにも多いが故に一対多数になることが頻繁にある。これなら素早く敵を倒せるし、強い敵が相手でも注意を引きつけ分散させることが出来る。
「ククラ爺、今この魔装球いくつあるの?」
「全部で4つだな」
「じゃぁ、全部頂戴」
「嘘だろ? これ一つでお前に最初に作った杖の倍はするんだぞ。」
「大丈夫。国が払ってくれるみたいだから」
学園全体で生徒が最初に買う武器は、国が全額支払ってくれることになっているらしい。最初の武器を買うのは大体入学して間もない頃の為、お金がない学生達の為の救済措置らしい。それでも上限があるらしく、今回は特待生の制度を利用して上限を大幅に引き上げている。
「アンナ、ありがと」
「払うのは国で、私じゃないんだけどね」
「でも、ここに連れてきてくれた。ありがと」
「そんで、支払いだが……全部で500万ルルクってとこか」
「「えぇぇぇええぇええぇええぇ!!!!!!!」」
高額すぎる値段に、二人は思わず声を上げたのだった。
「ラニカちゃん。随分魔装球の使い方上手くなったよねぇ」
あれから私は練習を重ねて、4つ同時に手足のように動かせるくらいになった。練習用の的に、4つの魔装球と自分自身からの5箇所同時攻撃を行ったり、複数の的に素早く攻撃を行って敵を処理する練習をした。
他にも、使える魔法の種類を幾つか増やした。範囲攻撃用に爆発系の魔法と、火力特化用に高出力レーザーを撃てる魔法を作った。
作ったというか、前世の知識から具体的にイメージをしたら出来てしまっただけなのだが。
そして、練習の途中で、魔法が別に詠唱をしなくてもイメージだけで発動できることに気付いてからは、攻撃までの時間だ大幅に短縮された。これで詠唱中に攻撃を受けることもなくなるだろう。
「そういうクトラこそ、水の魔法が前と比べたら遥かに上達してる」
一緒に練習をしていたクトラは、水の矢の数は倍以上に増え、他にも水で壁を作ったり、渦で広範囲を巻き込んだり出来るようになっていた。
「えへへ。あれから二週間も練習したからねぇ」
「そろそろ時間だし、終わりにしよっか」
「そうですね。お腹空いちゃいました」
「じゃぁ、マグロさんの所でお魚食べよう!」
「いいねぇ~」
「私もお魚食べたいです」
「じゃぁ、二人共行くよー」
マーグロイの魚屋に行くと、前より人が集まっていた。お客というわけではなくどうやらただのギャラリーのようだ。
「いくら女でも許さねぇぞ!」
「大ノ大人ガ、小サナ子ヲ殴ルノハ、モット許セナイト思ウンデスケド!」
どうやら男と女の人が言い争っている様だ。男は身体が大きく、そのせいで女の人が余計に細く見える。女の人は、二十歳くらいだろうか。あと、声がかなり可愛い。
他の人には見えていないのかもしれないが、女の人からは魔力のオーラが滲み出ている。このまま殴り合いになれば男の方が負けるだろう。
女の人の後ろ側には小さな男の子が倒れている。顔が腫れていて血も出ている。かなり危険な状態だ。
助けに入りたいが、ギャラリーが多すぎて男の子の所まで辿り着けない。
事態は急を要するので、魔装球を飛ばして男の子に回復魔法をかける。
「おぉ?」
「何コノ丸イノ……」
二人の言い合いも止まったし、こちらもギャラリーをどうにか抜けて男の子の所までこれた。回復魔法はちゃんと効いたようで、男の子の顔は綺麗に治っていた。
「言い合いしてる場合じゃないのに、何してるの?」
「うるせぇなぁ! 関係ないやつは引っ込んで……うっ……」
うるさい男は、魔装球を突き付けて黙らせる。血の気が多いだけなら問題ないが、理性まで失うのは流石にどうかと思う。
「そうだぞ。俺の店の前でこんなに騒ぎやがって。客じゃねぇならどっかいけ!」
店から出てきたマーグロイの一声で、ギャラリーは全員去った。
「助ケテクレテ、アリガトウ! 今ハ急イデルカラ! 次ニ会ッタ時ニ、オ礼ヲスルネ!」
そう言い残すと、女の人はものすごいスピードで走り去っていった。
リアルの方で色々ありまして、更に遅れています。それでも更新は続けていきますので、よろしくお願いします。