アンデッド討伐軍見学&討伐経験課題
クトラが攻撃魔法を習得した後。アンナの元へ向かう。クトラへのいじめをなくしてくれるようにお願いするために。話を聞いたアンナの返答は…。
ノックしてアンナのいる学長室は、本校舎の最上階の4階にあるらしい。廊下を歩いているメイドさんに学長はどこかと聞いた所、「4階の学長室におられます。4階には他に部屋がありませんので迷うこともないはずですよ。」と、丁寧に教えてくれた。
ノックをして返事を待ったが、いつまで待っても帰ってこないので勝手に入る。
正面の机には本や書類が山積みで、アンナが座っているかどうかはわからない。他にも床には沢山の紙が散乱し、汚部屋と化していた。
「あらぁ? 今は授業中でしょ? 二人してどうしたの?」
正面にあった机ではなく、開けたドアのすぐ側にあった大量の紙の山からアンナは現れた。
「ひゃぁ!? 学長! 驚かさないでくださいぃ……」
クトラは私の後ろに隠れる。しかし、私のほうが圧倒的に小さいので、殆ど見えてしまっている。顔だけは必死に隠しているようだけど。
「ごめんねぇ。書類整理してたら書類が襲い掛かってきて埋まっちゃってぇ……そのまま寝ちゃってたわぁ」
「そこで寝ちゃうの、なんかアンナらしい気がする」
会って数日しか経っていないけど、アンナっぽい気がした。
「それでぇ? ここに来たのはどうしてなの?」
「クトラが他の生徒にいじめられてた。怪我もしてたから回復させた」
アンナは目を見開いて驚いた。それはそうかもしれない。自分の運営する学校でいじめが発覚したのだから。
教師陣にもしっかりと通達して二度と起こらないようにして欲しい。
「ラニカちゃん! 回復魔法使えるようになったのねぇ! 私も嬉しいわぁ!」
「そっちなの……」
詳しく聞いてみると、以前からいじめの件は知っていたようだった。何故助けないのか聞いた所。
「ここは一応実力主義なの。確かにいじめは問題だけど。それでもクトラちゃんが実力を付けて返り討ちにすればいいだけの話。命に危険が及びそうなら勿論止めるし、いじめた人たちは退学処理するけどね」
とのことだった。
「でも、これからは返り討ちにできる。クトラも攻撃魔法使えるようになったから」
「うぅ……。確かに攻撃魔法を使えるようになったけど……まだ一回しかやってないし、相手が多いし……それに怖いし……。」
「クトラちゃんも攻撃魔法を使えるようになったのねぇ。それなら課題もクリアできそうね」
アンナは山になっている書類の中に手を突っ込み、その中から一枚を取り出してこちらに見えるように差し出す。
そこに書かれていたのは『アンデッド討伐軍見学&討伐経験課題』と書かれていた。
この国の東側には、不死の大地と呼ばれる漆黒の土地があり、アンデッド系のモンスターが大量にいるらしい。城塞都市と言われるこの街に定期的に大軍で攻めてくるらしく、それを討伐軍が必死に食い止めているのである。
今回の見学&討伐経験課題と言うのは、その討伐軍の戦闘を見学すること、そしてアンデッドを生徒達で討伐することだった。
「生徒達でアンデッドを討伐なんて無理ですよぉ……」
クトラは既に怯えている。いくら将来に討伐軍や冒険者になる人が多いとは言え、流石に入学して一年目の生徒達に討伐させるのは無理があると思えた。
「そうねぇ。でも、気付かせてあげたいのよねぇ。他人を誹謗中傷したりとかしてる場合じゃないって」
アンナは本気だった。普段優しい穏やかな顔が険しいものになっていたから。
「近々ね。今までより大きな大軍が来るって予想が出ているの。今の討伐軍では倒しきれないだろうっていう大軍が、数年のうちに攻めてくるって。それなのに、戦う準備もせず死んでいくのは嫌でしょう?」
アンナは二人が反論しようと口を開くのを手で制止し、紙の山から二枚の紙を取り出す。
「一枚は軍や冒険者の死亡した人を年齢で分けたもの。もう一枚は、去年討伐された新種のアンデッド『不死の大亀』と『冥虫』の詳細な記録」
二枚の紙を丁寧に読んでいく。クトラは途中で手が震えて、紙を持っていられなくなった。それを拾って読んでみると恐ろしいことが書いてあった。
「そう、死んでいった討伐軍の殆どが、30歳以下の若者。そして、前回戦った大亀は、実はまだ幼体で、冥虫が産卵した卵がそろそろ孵るそうよ」
『不死の大亀』は去年に新たに発見された新種だ。名前通り大きな亀なのだが、硬い甲羅で攻撃が全く通らず、首や手足を狙っても鱗があるらしく有効打を与えられないほどの防御力がある。
前回の戦いでは、もう少しで城塞都市にたどり着かれそうな所で、なんとか討伐された。
その時の死者は、大亀だけで千人以上に及んだらしい。しかもそれがまだ幼体だというのだ。成体だったら、街は既に滅んでいたかもしれない。
そして、『冥虫』は小さな虫で、一見弱そうに見えるのだが、数万匹単位で群れを作り、群れで協力して魔法陣を形成し、強力な魔法を放つという恐ろしい虫だ。
幸い、魔法が発動する前に虫を散らせば、魔法は成功せずに済むのだが、もう一つ注意すべき点がある。
それは、人の体内に入り込み、操ることだ。
人の体内に入ると、麻痺毒をだし動きを封じる。そして強力な鎮痛物質を分泌し、痛みを感じなくした後に人の脳を食い尽くす。そして、食い尽くした後に脳があった場所に留まり、人を操って次の人を襲う。鎮痛作用によって、虫が入り込んでいるのに気付かずに、そのまま脳を食い尽くされて動く屍になってしまうのだ。
去年。冥虫によって英雄と呼ばれた人が殺され、操られた際に数十人が犠牲となった。
そんな虫の卵が孵化するのだという。
そして近年中にこれ以上の奴らが現れかもしれないと言われたら……。アンナの考えも理解できなくはない。
「ラニカちゃん。貴方を勧誘したのも、この街を守るには貴方が必要だと思ったからよ。今日の午後から準備を始めるよう一年生の全クラスに通達するわ。貴方達もしっかりと準備をすること」
「アンナ……」
アンナは大事な会議があるからと告げると部屋を出ていく。私達も早く準備をしなければ。
まずはクトラの正気を取り戻す所から……。
「えー。以上の通り、学長の通達により『アンデッド討伐軍見学&討伐経験課題』を行います。各自武具を揃え、これまで以上に魔法と身体の鍛錬に力を入れてください。実行日は軍の防衛戦が起こるであろう一ヶ月後。敵の進行具合によって前後するため。その日の早朝には参加するか否かの通達を行います。これからは各自、課題が始まるまで自習としておきます。教師への質問は常に受け付けます。命がかかっているのです。遠慮はいりませんよ。では、解散」
担任が教室から出た後。クラスメイトが私の元に殺到した。今日はイフリートも別件で居ないから尚更だろう。
「ラニカちゃん。パーティ組もうよ。こっちには前衛二人いるし守ってあげられるよ」
「執事さんは用事? ラニカちゃんと執事さんをパーティに誘いたかったんだけど」
「ちょっと! ラニカちゃん迷惑してるでしょ! こっちに来なよ。女の子だけだから気が楽だと思うわ」
等と勧誘の嵐が巻き起こったが、すぐにイフリートが教室に入ってきたので殆どが帰っていく。そのタイミングを待っていたのか一人の男子生徒がこちらにやってきた。
「精霊も来たな。お前、俺のパーティに入れ!」
「嫌です」
「貴族の俺の誘いを断るというのか。いい度胸だな」
いきなり話しかけてきたこの男。貴族だと言うけど、見る目がない。私なんかより魅力的な女性はクラスに沢山いる。そして何より、クトラをいじめていたメンバーの一人であるこの人のパーティに入るわけがない。
「私に貴族かどうかは関係ない。私はクトラとイフリートの三人で、パーティを組む。仲がいい人と組んだほうが、チームワークが取れる」
現在私が交流を持っているのは、クトラ一人だけだ。他のクラスメイトは様子見をしているのか、友達になろうと寄ってくる人はいなかった。パーティの勧誘も貴族らしい先程の男子生徒が去った後は一人も来なかった。
「ほう。では後悔しないことだな」
そう残して教室から去っていった。振り返る時、笑っている気がした。
読んで下さってありがとうございます。これからも気長にお付き合いくださいませ!