いじめられっ子
演習を終え、(ルーマスを丸焦げにした)次の日。入学後最初の授業で、いじめを発見するラニカ。その子にはどうやら悩みがあるようで…。
あの後、本当は授業を見学することになっていたが、ルーマス・イクトが乱入したことにより、中止となった。彼が黒焦げになった後、アンナが魔法で直してあげたりと忙しくなったからだ。
黒焦げになっても後遺症なしに回復できるアンナってすごいなぁと思う。それとも、ルーマスの身体がすごいのかな。
次の日。見学すること無く授業に参加という形になった。最初はわからなかったのだが、教科書をある程度読み進め、教師の話を注意深く聞いていくとなんとか理解できた。このまま行けば教科書に載っていることくらいは簡単に覚えられるだろう。今教師が説明しているところは覚えたからある程度進むまで回復魔法が書いてあるページでも読んでいよう。
「えぇ、魔法は現在3つの方法で使用可能と言われており、どの方法も才能が無ければ扱うことは出来ないと言われています。その3つを…クレイ・グエス。答えてください」
返事と同時に勢い良く立ち上がった少女は、茶髪に茶色いクリクリっとした目の可愛らしい少女だ。獣耳を付けたら似合うかもしれない。
「はい! 詠唱・召喚・刻印の3つです!」
「良く言えました。座ってください」
「はい!」
魔法の授業は、聞いていて意外と楽しい。知識だけを詰め込むとかきっと苦痛だろうと思っていたがそうでもなかった。
そしてどうやら、私が使った詠唱以外にも精霊等を召喚したり、魔法陣を地面や紙等に書いても魔法が発動するらしい。
そして、授業中に嫌な光景を見た。一人の女生徒に、周囲の生徒が寄って集っていたずらをしていたのだ。
教師側からは見えず、気付いていないのかもしれないが、中には靴を踏んだり足を蹴ったりする等ひどいものもあった。
気が付いたのが授業終了前で、その次の授業が実技だったこともあり、言えるタイミングが無かったのが残念だ。実技の授業が終わったら、教師に言いに行こう。
実技の授業は現在覚えている魔法の知識を深め、知識の有無で魔法の扱いやすさや威力の違いが出ることを確認する授業だった。
このクラスでは全員が魔法を覚えているらしく、一人一人順に先生についてもらって覚えている魔法の中から一つだけ解説してもらっていた。
その間、先生は勿論周囲を見ることを出来ない。そして、先生は教えた魔法の練習をするように生徒に言っていた。
案の定、女生徒へのいじめが始まった。今度は魔法で。
水の魔法で、ビショビショにされる。風の魔法で、スカートを捲られそうになる。土の魔法で、生み出された突起に地面に足をとられて転び、顔を地面にぶつける。雷の精霊に追いかけられて、雷を落とされ服が焦げる。
「ラニカ様」
「……うん」
イフリートも同じことを思っていたらしい。これで授業が普通に続いているのも理解できないし、この授業に先生が一人なのもおかしいと思った。
「イフリート。お願い」
「畏まりました。ラニカ様」
肩から飛び降りたイフリートが、逃げる少女を守るように人の姿で立ち塞がる。少女に向かうはずだった魔法は全てイフリートに降り掛かった。
「こんな事をして喜ぶなんて、精霊の風上にも置けませんね。猛省なさい」
イフリートの炎で軽く撫でただけで雷の精霊は消えた。そして熱気で風はあらぬ方向へ、水は一瞬で蒸発し、土の魔法の突起は踏み潰した。
「え?」
こちらに手招きすると、いじめられていた少女は、戸惑いながらも来てくれた。
「大丈夫? 直してあげる。<光よ>」
授業中に読み進めていた教科書に書いてあった。回復魔法を詠唱する。あっという間に傷は治り、服すら元通りになった。
「お前、何してんの?」
「こんな落ちこぼれを助けるなんて、貴方も物好きね」
「こいつ編入生じゃん。知らないんじゃね?」
「それでも助けるなんて、馬鹿のすることよ」
「でも、この精霊さん強そうだよ?やめようよぉ……」
人間失格者がこんなにいるとは思わなかった。他の生徒に止められても止めないのだから、確実に故意と断言できる。
人と仲良くなるのに一番効率が言いのは、他人の悪口を言うこと……だっけ。そこまでして仲良くなりたい人なんて居ないけど。
「イフリート。私加減するの苦手だから任せる」
「ラニカ様。私も苦手なのはご存知でしょう?昨日、演習の時に生徒の一人を黒焦げにしたのを忘れましたか?」
そう言うと、いじめていた4人は逃げていった。しかし、こちらを睨んでいる所からすると、まだ諦めていないらしい。
「どうして助けてくれたの? こんな私を助けたところで、なんの意味もないのに」
「意味がなくても、私が嫌だと思ったから助けた。それに意味が無いのは、いじめてきたあっちの方。」
「……ありがとう」
先生に言って次の授業を抜けてアンナに会いに行くことにした。何かあればすぐに来るようにと言われているのだから、今でも問題は無いはず。
その前にある程度、少女から話を聞くことにした。
「私は、クトラって……言います」
クトラは貧しい田舎から出てきたらしく。村の期待を背負っているプレッシャーと授業でなかなかいい成績を取れない焦りから自虐的になっていたらしい。
そこを先程の4人が徹底的に追い詰めた様で、心が折れてしまっていた。
「私は……その……水の魔法が使えるんですが、その……ただ水を出せるだけなんです。いっぱい練習して、勉強しても……他に何も出来なくて……」
ここは、戦える魔法使いを育成する場所。その場所で戦えない魔法使いがいる。確かに周りからは何か言われるかもしれない。
(でも、アンナが退学させていないってことは…。)
クトラを見ると、茶色い髪に可愛らしいうさぎの髪飾りが付いているのが見えた。
「可愛い髪飾り。木を削って作ったのかな?」
「これは、私が村にいる時に作ったの。」
髪飾りは丁寧に作られていて、これだけでも売れるのではと思える出来だった。目や口の部分は彫って凹凸を付けている。
「イフリート。炎で鳥とかって作れる?」
「フェニックスの召喚ですか?私には無理です」
「違う。炎で形だけ作るの。後、出来れば動かしてみて欲しい」
「それでしたら……これでどうでしょう?」
肩に乗っているイフリートが口から炎を吐き出すと、人の頭くらいの大きさの鳥の形になった。鳥は翼を動かして頭上をクルクルと回っている。
「流石」
「光栄でございます」
クトラは火の鳥に見惚れていた。可愛いものや綺麗な物が好きらしい。
「クトラ。水を出した後、こんな風に形を変えることって出来る?」
「えっ?やってみたことないけど……」
クトラは目を閉じ、手を前にかざす。<水よ>の一声でバケツ一杯分くらいの水が出てくると、水は急に集まりだし球体になった。
「そこから矢の形とかって出来る? 出来なくても、先を尖らせることが出来ればいいかも。」
すると水の球体は10程に別れ、それぞれ矢の形になった。
「結構……きつい……ね」
「でも、これを相手にぶつければ攻撃魔法だよ?」
「え? あ、そっか」
試しに近くの木の幹に狙いをつけさせると、同じところに10本の矢が全部命中した。最後の矢は木を貫通し、木には大きな穴が出来た。
「……出来た。攻撃魔法! 出来た!」
「良かったね。クトラ」
「うん! ありがと! ラニカちゃん!」
結構な時間、両手を繋いでクルクルと回るから少し気持ち悪くなってしまったけど。クトラが喜んでくれてよかった。
さて、本来の目的のアンナの所に行こう。
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