魔石を売りに…
馬車で街まで連れてきてもらった後。魔石を売るために、冒険者ギルドへ向かいます。
あれから、体感で2時間位は歩いたはず……。それなのに景色が変わらず平原が広がるのみ。道もなく、人が通った形跡もない。近くに街はないかな。
(もしかして、黒い草原の方を進めば人がいたのかな)
かなり長い間歩いてきたけど疲れる気配が全くない。それより誰にも会えてないせいで気疲れの方が酷い。しかし、この体はそんなに体力があるのだろうか。見るからに普通の女の子の体なのだが。
(もしかして、気付かないうちに魔法使っちゃってたのかな)
どうやら身体能力の強化ではなく、スタミナと体力の自動回復の魔法だったみたいで魔力の消費が意外と大きく、気疲れと勘違いしていたようだった。
魔法は既に切ったので、これで魔力は消費しないはず。他にも無意識に魔法使ってないか心配だけど。
(魔法の強さの加減もそうだけど、もっとうまく扱えるように練習しないと……)
そんなことを考えていた頃、ようやく何かが見えてきた。近づいてみると馬が馬車を引いていた。馬車はボロボロで、何時壊れてもおかしくないような見た目だった。
御者さんらしき人は白いお髭の生えたおじいさんで、多分年齢は60歳くらい。馬も馬車を引くための馬ではないのだと思う。体も小さい上に大分年をとっているみたいだった。
どんな目的でこんな平原を走っているのかは知らないが、モンスターが出る場所に護衛も無しではいずれ襲われて死んでしまう。馬車の中に護衛がいるのかもしれない。だが、護衛がいたとしてもこのボロボロの馬車と老馬では逃げ切れない。
この馬車が初めてこの場所を通ったのだろうことは容易に想像がついた。
「おや、こんな所で可愛いお嬢さんに会うとは。どうなされましたかな?」
優しそうなおじいさんで良かった。怖いおじいさんだったら、逃げ出してたと思う……多分。
「そのぉ……道に迷っちゃったんです」
「おぉ、そうじゃったか。であれば、街まで乗っていきますかな? お嬢さんが良ければ」
「お……お願いします」
「歩き疲れたじゃろう? 中で着くまで寝とるといい」
「ありがとうございます」
馬車の中には少女が一人寝ていた。身なりはそれ程良くはなく。村から街に出てきたと言われればなるほどと思うだろう。少女の隣には小さな皮袋が一つ置いてあり、それが彼女の持ち物なのだろうが、街に出てくるのであれば荷物が少なすぎる。手ぶらの私が言えるものではないけど。
魔法を使って殆どの距離を歩いていたためあまり疲れてはいなかったが、街についてから色々やることもある。しかし、街に着くまでにモンスターに襲われることを考えると眠れるわけがなかった。
(今日魔法を使った感じだと、魔力の調整が出来ていないみたいだった。魔力をコントロールできるようになるまでは、使える魔力を制限しておきたいなぁ)
これからは、暫くの間魔力をコントロールしたり、魔法の勉強をしなきゃいけない。魔法の学校とかに入れたら申し分ないけど……でもお金がない。
街についてからのことや魔法の事を考えていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。
(あれ、寝てた!? 危ない危ない…)
今度は寝ないようにと頭を振って眠気を少しでも飛ばそうとしたら、小さな宝箱が置いてあった。先程は置いてなかった所を見ると、どうやら神様ショップの宝箱のようだ。
中を開けると、小さな指輪とお香の様なものが入っていた。
レシートを確認すると、
リミッターリング ──100,000
魔除けの香 ──50,000
合計 ──150,000
と書かれていたので間違いないだろう。
(魔除けというくらいだからモンスターが近寄ってこなくなるお香のはず。この指輪も使える魔力を制限するためにリミッター……。欲しいと思ったものが送られてくるのかな)
お香には丁寧に説明書がついており、案の定モンスターよけのお香だった。使い切りタイプらしく、効果は五時間程で、街に着くまでは問題無さそうなので使っておくことにする。
(見た目が棒状なのを除けば、完全に蚊取り線香だこれ……)
街についてからやらなきゃいけないことが多いことを思い出し、今は体を休めることにした。寝る前にしっかりと、リングも指に嵌めて。
目が覚めて外を見ると既に街の中だった。強固な壁に囲まれた要塞のような街は、活気にあふれていた。露店やそこを行き交う人々の声がこの街が栄えていると教えてくれる。
「さぁ、いらっしゃい! 虚対栗の季節だよ! 見とっとくれ!」
「魚のことなら何でもお任ろ! 安くしとくぜ!」
「新鮮な野菜ならウチの店で決まりだ!」
「冒険に役立つ小物なら是非当店で!」
店員が客引きのために張り上げる声。それに引き止められる主婦っぽい人や冒険者達。この街は退屈し無さそうだ。
おじいさんにお礼を言って、馬車から降りる。馬車は更に街の奥へと向かっていった。最後に少しだけ聞いたのだが、どうやら魔法学校という所に行くらしい。
「私はお金が無いし。この石とか売れないのかな。こういうのに詳しいのは……」
人に聞こうかとも思ったが、冒険者ギルドと書かれた看板が目に入ったのでそこに入ることにする。ギルドの職員とかならこの石が何なのか知っていると思うし、買い取りの場所も教えてくれるだろう。もしかしたらギルドで買い取ってくれるかもしれない。
「こ……こんにちわぁ」
扉についていた鈴が鳴り、扉が開く。中をちらっと覗くと、ものすごいオーラのスキンヘッドでムキムキの人が睨んできた。
「ひっ!?」
慌てて顔を引っ込める。確かに冒険者は荒くれ者が多いのかもしれないけど。あんなに怖い人がギルドの職員なんてありえないよぉ。
(で……でも、お金を手に入れなきゃいけないんだから……。うぅ……)
再び扉を開けると、先程の怖い人はいなくなっていて、女の人に変わっていた。
(……うー。助かった。女の人ならまだ大丈夫。……大丈夫)
受付までがすごく遠い気がする。それに左右からの視線がすごい。視線が体にチクチクと刺さってくるみたい。
「いらっしゃいませ。ご依頼の方ですか?それとも冒険者の方で?」
「えっと……その……。相談があってきたんですけど」
内ポケットにしまっていた二種類の石と見せる。
「この石が狼さん倒したら出てきたから、お金になるのなら売りたいなと思って……」
受付の人は了承すると、青い石には目もくれず、赤い石を手に取った。傷がないのか見ているのかくるくると石と回したり、光を当てたりしている。
「青い方は魔石なので、隣のカウンターで買い取りますが……。赤い方は見たことないですね。今すぐにというのは難しいかもしれません」
「でしたら、魔石の買い取りをお願いします」
受付の人は、少し考えてから何かが書かれた本を取り出した。
「この本は冒険者になると貰える本で規則とかが書かれています。そして魔石の買い取りの際には、冒険者であることが規則として定められていて、冒険者以外の方からの買い取りは行っていないのです。もしよろしければ登録させていただきますが、どうされますか?」
「登録しないと売れないならお願いします」
「では、登録料として500ルルク頂きます」
「え……えっと、その……今お金がなくて……」
「そうですか……。うーん。あ、そうだ!」
何かを思い出したらしい受付の人は近くの冒険者の人に声をかけた。顔に傷のある40歳くらいの男の人で、とても親しげに受付の人と話している。
「というわけで、お願いしたいんですけど。」
「そういうことならいいぜ。さて、あんたの魔石を代わりに売ってきてやるから渡してくれ」
どうやらこの人に魔石を売って貰ってお金にするらしい。これなら登録をしなくても魔石を売れるけど、知らない人に頼むのは怖いので登録もすることにする。
「じゃぁ、そのお金で登録もお願いします」
冒険者の登録には、名前と職業が必要で、その後に簡単にできるステータス測定なるものがあるらしい。
測定は簡単で、この世界の生きるものなら誰でもある紋章を、魔導具にかざすだけだという。その間に登録証の作成を行って、測定が終わったらすぐに受け取れる。
測定用の魔導具が、白い煙を上げ始めた時は測定担当の人も私も驚いたけど、なんとか終わった。
測定が終わってステータスが表示される。
体力 1
力 1
素早さ 1
器用さ 10
魔力 50
魔力だけ高いかなり偏ったステータスだけど、これは転生前にいじっていたものなのでなんとも思わなかった。強いて言うなら指輪のお陰で魔力の数値が大分抑えられていることに驚いたくらい。
「最初の測定で魔力50ってアンナ様以来じゃないの!」
しかし、周囲の反応はもっとすごかった。周りにいた10人ほどの冒険者も見に来る。その殆どの人が男で結構怖い顔で、もう泣きそう。多分涙出てる。
「すげぇな!」
「こりゃぁ、すぐに抜かれちまうかな! はっはっは!」
「うちに招いてもいいですかね?」
「だめに決まってんだろ! うちに来いよ!」
「あんた達! 怖がってるじゃんか! うちに来なよ。全員女だし、怖くないよ!」
そして、この歓迎と勧誘の嵐だ。逃げ出したいけど、退路は冒険者で塞がれていて逃げられなかった。
「駄目ですよ。これほどの方はアンナ様に報告しないといけませんし。」
「だよなぁ。じゃぁ、卒業したらまた誘うわ!」
「何かあったら私に相談してね」
「これなら特待生で入学確定だな。頑張れよ!」
「まぁ、アンナ様相手じゃぁ勝てないわ。またな」
「ほれ、これ魔石の代金だ。なくすなよ?」
受付の人がアンナ様と言った途端。冒険者達は引っ込んだ。一体誰なんだろう。それに魔法学校とか特待生とか言ってたような。
「貴方の事は既に魔法でアンナ様に報告してあります。アンナ様が、いらっしゃったら説明してくださると思いますので、少しお待ちいただけますか?」
そして、奥の部屋へと案内されるのであった。
せめて怖い人でありませんように! と祈るしかなかった。
引き続き書いていきますので、宜しくお願い致します。
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