いつものお礼 中編
文字通り、お客が集まるお昼は地獄だった。次から次へとやってくるお客さんに料理を作っては運ぶ。途中から追加の料理人もやってきたので、後半からはラニカは料理を運んだり、テーブルを片付けたりとホールの仕事に専念していた。
「ふぅ、なんとかなったな。お前さんのお陰だ」
「ありがとうございました。今日はいつもより人が多かったので本当に助かりました」
店主と従業員の皆も山場を乗り切ってホッとしているようだった。
「そんじゃ、約束してた奴は厨房に置いてあるから持ってけ。お前さんには特别だからな。それと、また手伝いたくなったら来てくれ、歓迎するぞ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
厨房にあった、小さな壺を両手で抱えてラニカはお店を後にした。
「ラニカ様は何を考えているのでしょうか? アンナ様、知っているなら教えてください」
アンナに無理やり連れて行かれたイフリートは、目的もなく街をブラブラしていた。アンナも一緒に付いて来ている。
「ダメよぉ。ラニカちゃんに秘密にしてって言われてるからねぇ」
先程から何度聞いても似たような答えが帰ってくる。ラニカ様に何かあってからでは遅いというのに。
徐々に苛立ちを募らせるイフリートであったが、道に出来た人集りに目が止まった。
「あれは、何でしょう?」
「暇つぶしになるかもしれないし、覗いて見たら?」
近づいていくと、徐々に人が散っていった。見てみると、一人の男がボロボロになって倒れていた。その男は何の物か分からない腐敗臭を漂わせていた。
「くそぉ……。あいつさえいなければ」
男は、立ち上がると路地裏へと消えていく、その足取りはフラフラと覚束無い。
「イフリート、後をつけるわよ」
「わかりました」
アンナは何か感じ取ったようだ。イフリートも男の違和感には気付いていた。
何となく、人であって人でないようなその気配には見覚えがあったから。
暫く追跡すると、男はとある民家に入っていった。貧民街にあるごく普通の民家で、この辺りの家は所有者はいないはずだった。
何かあると確信したアンナは衛兵にその旨を伝え、イフリートと先行することにした。衛兵に伝えたのは念のためであって、アンナはイフリートと解決するつもりのようだった。
民家に入ると人の気配はなく、室内も掃除も何もされていなかった。
「臭うわね。しかも、これはアンデッドよ」
「やはりそうでしたか。前に似た臭いを嗅いだことがあった様な気がしておりました」
室内を見回すが、怪しい物何も無かった。あったのは、汚れたエプロンが一着のみ。至って普通の物で、特に変な臭いが付いているわけでもない。
「見つからないならしょうが無いわね」
アンナは魔法を唱えた。すると、室内であるはずなのに風を感じられるようになった。風を辿ると、少し広めの部屋の床から引き出しているようだった。
「地下室かしら? それとも……」
「何処かに繋がる通路でしょうか?」
床は四角く切込みが入っており、持ち上げると階段があった。二人は慎重に階段を降りていく。
階段を降りきった先には、4つの人が寝れるほどの大きさの台座が置かれた広い部屋があった。
部屋の奥では、二人の男が何やら言い合っている。片方は一般的な服だが、もう片方は怪しげなローブを着込んでいた。
「待ってくれ! まだ、何も得られていないんだ!」
「駄目だ。既に数年という長い時間を与えた。もう待つことは出来ん」
尚も食い下がろうとする男に、ローブの男は魔法を行使する。
「いい加減に諦めろ。我に従え」
その言葉を聞いた男は一切抵抗しなくなった。そして、ゆっくりと立ち上がる。
「客人を待たせて申し訳なく思うが、ここを見たからには生きては返せないのでな。奴らを殺せ」
先程まで抵抗していた男と、新たに現れた3人の男は、アンナとイフリートに襲いかかった。
「さっさと片付けるわよぉ。ラニカちゃんが待ってるからね」
「わかっています、アンナ様」
イフリートは燃える剣を、アンナは杖を構えた。