いつものお礼 前編
ソースがないよおおお(´・ω・`)
レイア王女との約束から一ヶ月。今日は学校はお休みである。今日は日々尽くしてくれるイフリートやアンナ、ここを掃除しに来てくれるメイド達等にお礼をするべくラニカは街に来ていた。
脇にはいつもいるはずのイフリートはいない。アンナに頼み込んでイフリートを連れ出してもらったのだ。「私はラニカ様のお側についていなければならないんです!」と抵抗したが、アンナの魔法で拘束され連れて行かれた。
「んー。トマトにキノコにお肉と人参に玉ねぎ……バターと小麦粉は買ったから、後はソースがあればいいんだけど……あるのかな?」
ラニカは手料理を振る舞おうとしていた。作るのはハヤシライス。理由は……昔自分が得意にしていた気がするから。その辺は曖昧である。
「出来ればコンソメも欲しいけど、ないものはしょうが無いよねぇ」
コンソメは鳥等から取るダシで代用することにした。メイドさん達から聞いた所ではダシを取るための材料は寮の冷蔵庫に保管されているらしい。
市場や露店を見て回り、必要な物はほぼ全て揃ったので最後の一つであるソースを探している。それが中々見つからない。見つからなさ過ぎて、一度購入したものを寮に預けてきている。
ラニカが立ち止まって思案していると、露店の間にあった細い路地の奥から声が聞こえた。怒鳴り声の様で、路地の大分奥の方からのようだ。
気になって路地を進んでみると、建物の裏側辺りで二人の男が言い合っていた。裏側といっても、この位置では露店のある通りではなく、一つ隣にあるお店が立ち並ぶ通りの方だ。
「お前はクビだ! こんな匂い付けて厨房に入ってくるやつは店の評判を落とすだけだ! 二度と顔を見せるな!」
「勘弁して下さいよ! たかが匂いだけでクビなんて酷すぎますよ!」
口論は暫くすると終わり、若い男のほうが捨て台詞を吐いて去っていった。中年の男は溜息を付いて座り込んでいる。
「なんで、あれくらいのことがわからねぇかなぁ?」
「どうかしたんですか?」
「うぉっ! びっくりさせんな!」
近づいてくるラニカのことに全く気付いていなかったようで、声をかけると男はすごく驚いていた。尻もちつきそうなくらい。
話を聞くと、どうやら先程の男はここの料理人で、仕入れ先から食材を持ち帰ってきた際に酷い匂いがしたらしい。匂いを消してから厨房に来いと釘を差したのにもかかわらず、それを無視して料理を作ろうとしたので店から蹴り出したらしい。
「あんな何かが腐った様な匂いを付けたまま厨房に入ってくるなんぞ信じられん。匂いが料理に付いたり客に気付かれたりしたら店が腐った食材使ってるんじゃないかって疑われちまう。料理以前の問題だ」
「流石に同情する」
「そんでもってこれからが山場でな。あいつが抜けたから人が足りん」
もうすぐお昼時。お店に客が入るピーク帯に突入するのに、本来いるはずの従業員が一人掛けてしまったら、仕事も回らなくなってしまうだろう。
「私が、手伝おうか?」
幸いなことに、ラニカの約束の時間は夜なのだ。ソースが見つからない以上、ソース無しで作るしかない。であれば、残った時間を有効に使ったほうがいいだろう。
「いいのか?」
「うん。私は時間あるから、夕方くらいまでなら」
「すまねぇ。夕方になればもう一人従業員がくるからそれまで頼む」
「ういさ」
ズビシッと敬礼して答えた。
まだ少しだけ時間に余裕があったので、ラニカがどのくらい料理が出来るのか確認することになった。
「ん! 上出来だ。これなら厨房でも任せられそうだ。流石に凝ったやつは教えられないが、簡単なやつは一通り教えたから注文が来たら作ってくれ。一応俺が側で見てるから、何かあったら言ってくれ」
肉の口に入れ、満足そうに頷く。中年の男は店の主人で、先程まで10品程のレシピを教わり、試しに作って試食してもらっている。
「もうすぐ忙しくなるからな。これでも食っとけ」
出されたのはハンバーグらしき肉の塊だった。ナイフで切って中を見るとハンバーグ。味もハンバーグだった。
(あっ。これ……)
ラニカはハンバーグにかかっているソースの味が気になった。これは確実にラニカが先程まで探していたソースを使っている。
「うまいか? 看板メニューなんだ」
ラニカは、自慢気に話す店主に一つお願いをするのだった。