会議
叙勲式から一週間。王城では貴族達と王達での会議が開かれていた。こうして定期的に話し合うことで課題を明確にし、解決の糸口を見つけるのだ。
「して、あの少女は何者なのでしょう? 明らかに常軌を逸している」
「あの化物をたった一つの魔法で一瞬で倒してしまうとは、それこそ化物ですな」
一週間前の叙勲式で現れた4つの影についての議論の途中。ラニカの名前に反応した貴族達が戦場に出ていた私兵達から聞いたことを話し出してしまったことから発展して、ラニカという少女がどういう人物なのかという話にすり替わってしまった。
「叙勲式での襲撃の時に我々も魔法を見ましたが、見たことのないものでしたな」
「うむ。あのような変な球体の武器は初めてみました」
「彼女は……本当に我らと同じ人間なのか?」
ドアが勢い良く開く、現れたのはレイアだった。
「私の友人のことを悪く言うのは許しませんよ! 今すぐ訂正なさい!」
「しかしですな、レイア王女。この国に何の前触れもなく現れた強大な力を持つ存在を、無視できるわけがないのです。あれ程の力を見せられて、恐れずにはいられないでしょう」
「ラニカさんは私と約束してくださいました! 私が助けを求めれば必ず助けてくれると! 必ず……駆けつけて、救ってくれると……。それの様な優しい方なのに……」
王女はその場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。
「いくら、レイア王女がそう言っても覆らないこともあるのですよ」
「そうです。下手をすればこの国の民も巻き込まれる可能性もあるのです。しっかりと対策をせねばなりません」
貴族達が思い思いにラニカのことを話していると、部屋の入り口が黒い渦を巻き、中からアンナが出てきた。
「私のお気に入りに対してそんなことを言うなんてぇ。いい度胸してるわね? 安全な場所で踏ん反り返って文句を言うだけの腑抜けの皆様?」
会話をすべて聞いていたのか、アンナの瞳は怒りに満ちていた。これ以上ラニカを侮辱するならこのまま殺してもいいんだぞと言っているようにも見える。
発する魔力のオーラは、魔法を使わない貴族達ですら見えるほどに濃い。
「アンナよ。それくらいにしておけ、例えお主でも城での荒事は罰せねばならん」
「わかってるわよ。でも、ラニカちゃんのことを悪く言う人は許さないわよ」
アンナは、先程までラニカの悪口を言っていた貴族達数人を睨みつける。
貴族達が畏縮したのを見ると、王女を抱き起こしてメイドに連れて行かせた。
「さて、話が逸れてしまったが影について何かわかったことはあるか?」
「いえ、それについては何も。ビルゲッツ子爵もどうやら本当に何も知らないようです。知らずに利用されていただけかもしれないですが、楽観は出来ません」
他の貴族達もどうやら何も情報は得られなかったようだ。
「して、アンナ。お主はどうだ?」
「王に反発している奴等、他国の工作、後は王が亡くなった後に政権を握る誰かかそれを利用しようとしている人ってとこかしらねぇ」
「そうか……。死ぬのは構わんが、この国と民が不幸になるのは防がねばならん。他国からの工作等の対策には一層力を入れよ」
「わかりました。すぐに対策を立てます」
「では、私が反国王派の調査を致します」
次々とすべき事と分担が決まっていく。こういう有能な貴族がまだ国王に付いているからこそこの国はなんとかやっていけているのだ。
「アンナ。お主の方でも少し調べてはくれないか?」
「わかってるわぁ。ラニカちゃんの為だもの、しっかりと調べておくわ」
「それでは、お先に失礼するわ」と優雅に一礼すると、再び現れた黒い渦に消えていった。アンナが本気を出せば、他国の工作なのか自国の中の連中の仕業なのかはわかるだろう。