叙勲式典
式典当日。過ごしやすかった季節が過ぎ、徐々に肌寒さが目立つようになってきた。
アンナは学長室で、生徒達の仮成績表を眺めている。これは生徒達には公表されない教師達だけで用いる成績表である。学年前期の総合的なもので、これと後期につける成績で一年間の総合成績を出すのだ。
成績表の点数には上限がなく、頑張った者には追加で加点されていくシステムの為に教師達が一年間分の成績を出すのが大変なので作られた救済システムだ。
全員の成績表は一度全て目を通している。だが、アンナは一人の成績表から目を離せなかった。
「ラニカは本当に凄いのね。教師達からの評価は満点、テストもほぼ満点。そして今回の課題で更に点数が伸びたことで歴代トップの点数か……」
授業態度も真面目で成績優秀。あまり人付き合いが良くないことを除けば言うことがない。将来は安泰だろう。
これがごく一般的な生徒であれば。
(大変なのはこれからよ、ラニカ)
今回の式典で、ラニカの名前が知り渡る。それによって面倒事に巻き込まれたりもするだろう。しかし、ラニカであれば大丈夫だと信じることにする。
部屋のドアがノックされる。入ってきたのは、メイドに連れられたラニカとイフリートだ。
今日のラニカは綺麗なドレスを着ている。赤を基調とし、白のフリルで可愛さを出したドレスにアンナも満足した。
一着もドレスを持っていなかったラニカは、ドレスを買うお金すら持っていなかった。アンナが一着くらいお祝いにあげようとしたのだが、そこでイフリートが待ったをかけた。
「ドレスならば、私が仕立てます!」
といって、式典までの数日であっと言う間にドレスを仕立ててしまったのだ。材料費はアンナが出すことになったのだが。その間のイフリートの目は怖くて直視できないほどであった。
「どう? おかしい所はない?」
「綺麗よ? これなら今日はばっちりねぇ」
ラニカは先程からドレスを何度も見直していて落ち着きがなかったが、アンナの言葉で安心したのかようやく落ち着いた。
「あぁ……。やはり私の目に狂いはなかった。完璧な仕上がりです」
イフリートもご満悦な様子。これなら問題無さそうだ。
「じゃぁ、迎えが来るまでゆっくりしていましょうか」
三人はメイドが運んできた紅茶を飲みながら迎えの馬車が来るのを待った。
叙勲式典は会場に着く前から始まった。馬車で会場へ向かうまでにその通り道で人々に顔を見せなければならなかった。
「ラニカちゃ~ん!ありがとー!」
「おめでとう!これからも頑張れよ!」
ラニカは恥ずかしそうにしながらも、手を振りながら人々の声に応じなんとかこれを乗り切った。しかし、既に顔に疲れが出ていた。
会場は招待された人や貴族達が集まって来ていた。中にはクトラとアンナの姿もあった。クトラは並べられている料理を美味しそうに食べている。アンナもワインを飲みながら式典が始まるのを待っているようだ。
「これより、叙勲式を始めます!」
遂に式典が始まり、ラニカを含む叙勲者が王の前に並ぶ。今回はラニカ、フロナ親衛隊長、剣聖ジェイスの三人だ。
ジェイスは勲章のバッヂ、フロナは勲章を埋め込んだ盾を王から直接受け取る。受け取る際には拍手が送られた。
「では次、ラニカ・セフェル!」
「は、はい!」
緊張した面持ちで壇上に上がり、王の前に立つ。
「国王ガイウス・オル・アジェラーナの名において、ラニカ・セフェルに勲章を授ける。此度はこの国の為によく頑張ってくれた」
王が差し出す盾を受け取ろうと手を伸ばした時、貴族側から声が上がった。
「お待ち下さい! 私は反対ですぞ!」
一人の貴族が壇上に駆け上がった。
「ビルゲッツ子爵。王の前で何たる無礼か、すぐに戻れ」
「出来ませぬ! こんな女があのアンデッドを倒したなど嘘に決まっています! すぐに叙勲の取りやめを……」
そこに影が4つ現れた。影は黒いローブと仮面を来ていた。短刀を構え、王とその隣に座っていた王子と王女に襲いかかる。ジェイスとフロナも即座に反応したが、間に合いそうもない。
王達に短刀が刺さる直前。何かに阻まれるように短刀が弾かれる。見ると、スカートの中に隠していたのか魔装球を構えたラニカが魔法を発動させていた。
ジェイスとフロナはすぐに4つの影に拳を叩き込み沈黙させる。悲劇は回避されたのだ。
「子爵よ。これはお前の持ち物か?」
「違います! 私はこんなことは致しませぬ!」
「詳しいことは、この者達に直接聞くとしよう。そして、見事な働きを見せたこの少女には、叙勲の資格があると思うのだがどう思うか、子爵よ?」
ビルゲッツ子爵は小さく返事をすると、兵士に連行されていった。その背中は恐怖からなのか震えていた。
「ラニカ・セフェルよ。そなたはこの国に多大なる貢献をした。改めてこの勲章を授けよう」
「あ、ありがとうございます」
その後は何事もなく叙勲式は終了した。
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