落光
無事課題は達成し、後は時間になり次第帰るだけとなった。しかし、そう簡単にはいかなかった。
あの後も何体かゾンビやスケルトンを倒した。ミルーフもそろそろ限界のようで肩で息をしている。クトラは余り動かなかったが、魔法行使による精神疲労で疲れているようだ。
(正面にあったあの山ってもっと遠くにあったような気がする。それに流れてくる雲も黒っぽいような……。)
遠いからかもしれないが、森の向こうにあった山が今は森の真ん中辺りにあるように見える。雲は先程とは明らかに色が黒くなっている。
「おいおい、ありゃぁ拙いんじゃねぇか?」
よく見てみると、雲は小さな虫の集まりだった。そして、近づいてくる山からは長い首と頭が見えた。それらは、先日アンナから手渡された資料に書いてあった『不死の大亀』と『冥虫』だった。
「奴等だ! 奴等が来たぞ! 学生をすぐに下がらせろ! 直ぐに応援を呼び、討伐軍前線を再構築! なんとしても守りきるんだ!」
「前より倍くらいデカイぞ! 虫も前とは比較にならん数だ! 動けるやつ全員駆り出せ!」
各パーティに付いている討伐軍の兵士達が殿となり、各自撤退を始めた。ラニカのパーティは周りが撤退を完了するのを確認してから動き出す。
「早く逃げましょう! 私達が逃げなければその分討伐軍の方々の負担になる!」
「ラニカちゃん、早くい、きゃぁ!」
クトラの前方の地面が不自然に盛り上がったことで転んでしまう。
「これは……。足をやられたな。」
「すみません」
「今はいい。それよりミルーフ君、手を貸してやってくれ。ラニカちゃんは申し訳ないが、私と敵を食い止めてもらう」
ミルーフは先程までの戦いでかなり消耗している。それに手を貸すのであれば力のあるミルーフの方がいいだろう。殲滅力ならラニカの方が上だし、前衛はマーベラスがやってくれる。
「わかりました! 行くよ!」
「はい。ラニカちゃん、無事に帰ってきてね。」
二人が歩き始めたことを確認すると、ラニカとマーベラスは前に出て敵との距離を詰める。二人との距離を稼ぎ、少しでも遠くへ逃げれるようにするためだ。
「はあぁぁぁぁ!」
マーベラスの剣技でゾンビ三体の首が立て続けに飛ぶ。そのまま勢いを殺さないようにスケルトンの足を払って転倒させる。この調子であればアンデッド達がクトラ達の元に行くことはないだろう。
それでも、『不死の大亀』と『冥虫』に兵士達を割いた為、前線には所々に穴が出来ていた。そこからアンデッド達が流れ込み、前線が崩壊するのも時間の問題だ。
「これで、どう?」
ラニカは魔装球を操り、レーザーで一気にアンデッド達を薙ぎ払う。足と頭を狙って扇状にレーザーを照射したことで、範囲内のアンデッドは全て動けなくなった。それでも怯むこともなく続々とアンデッドは迫ってくる。
「ここは私が食い止めます! 中隊長は崩壊した前線の修復をお願いします!」
「すまないが、任せる!」
マーベラスは周囲を一度見渡すと、一番被害の大きい西側へと走っていった。
「一気に片付ける!」
指輪のせいで制限された魔力を限界まで使ってその後もアンデッドを倒し続け、辺りはアンデッドの死体で埋め尽くされた。
「ぐああああ!」
「回復! 早くしろ!」
「もう魔力がない! 負傷者を連れて撤退する!」
「増援が来るまでなんとしても食い止めろ!」
『不死の大亀』が一歩進む度にその大きな足に吹き飛ばされ、踏み潰されて、兵士達が倒れていく。
「アンタ達! ココデ踏ン張ラナクテドウスルノ! 討伐軍ノ本気ヲ見セナサイ!」
フロナは、『不死の大亀』が前に進もうと左前足を持ち上げた時に、右前足に強化魔法で強化した拳を叩き込み転倒させる。
「フロナ親衛隊長!」
「これでなんとかなる!」
兵士達の安堵した声が聞こえる。
しかし、前回の『不死の大亀』に同じ技を使った時は、片足が吹き飛んだのだ。今回は転倒こそしたが、ダメージそのものはそれ程与えられていないように見える。
どうすればあの硬い鱗を破壊できるか思考を巡らせるが、自分の持つどの技でも恐らく無理だろうという結論に至った。
(コレハ、カナリマズイカモ……)
そんな時だ。
突然、空から光が落ちて『不死の大亀』の首が溶断された。
「エ……?」
「は……?」
何が起きたのかわからず、『不死の大亀』と戦っていた兵士達とフロナは呆然と倒れゆくそれを見届けた。
読んで下さってありがとうございます!総合評価も三桁が見え始めていて驚いています。これからも頑張って書いていきますので、お付き合いくださると嬉しいです。年末年始は私も忙しくなってしまうため、中々時間が取れないとは思いますが、どんなに遅くても週一を守れるように努力していきます。