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伝えたい想いの行く末は  作者: 月宮ほのか
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4.笑顔の裏


「おはようございます、椿来ちゃん迎えに来たんですけど……」

「おはよう、薫ちゃん。行こ? 」

「椿来っ……」


新学期初日の朝、本当に迎えに来てくれた薫ちゃんは私がひょっこりとリビングから出てくると、大きな瞳を潤ませた。


「もう、大袈裟だよ」

「だって、椿来怒ってたからぁ……」

「急に彼が転校するだなんて話を聞いて、混乱しちゃっただけだよ。ごめんね? 」

「いいんだよ……良かった、本当に良かったぁ……」


安心した様に彼女が微笑むと、その拍子に一粒の雫が頬を伝っていく。相当に心配をかけてしまった事を改めて反省しつつ、玄関でローファーをしっかりと履いて、お母さんを振り返る。


「いってくるね」

「はい、いってらっしゃい」


温かなお見送りを受けて、二人で外へ出ればまだ夏らしい蒸し暑い空気が私達を包みこむ。


「あ、椿来! 」

「蒼君も来てくれてたんだね、ありがと」


外の扉にだるそうに寄りかかっていた蒼君が、私の姿を見ると声を弾ませて嬉しそうに笑う。

彼は思ってる事がすぐにわかるから、喜んでくれてるのがよくわかって、私まで嬉しくなる。


「ほら、俺の言った通りだったろ? そんな心配しなくてもいいって言ったじゃん」

「あんたの言う事の大抵は外れるって事忘れたのね、そうなのね」

「えぇーそうかぁー? 」


自慢気な彼の顔を鷲掴み、さっきとは打って変わって冷ややかな声で突っ込んでいる彼女を見るのは、なんだか久々だ。

……そうだ。少し前はこの光景に、もう一人いたから。二人が喧嘩になりそうになるのをやんわりと止める、翼君が……


「ん? 大丈夫か椿来? 」

「こいつがなんかしたのなら、殴っておくよ……? 」

「大丈夫、大丈夫だから! 心配しないで二人共。ほら学校行こ、遅れちゃうよ? 」


二人して不安気な視線を向けてくるのを作り笑いで誤魔化して、先を急ぐ。

堪えきれなかった一粒の涙がばれないように。




*****




「さて皆、夏休み終わってダラけたくなる気持ちはわかるが二週間後には文化祭だからな。しゃきっとしろよー」


朝一のホームルームの時間。担任の濱田先生がだるそうにあくびをかみ殺しながら言った言葉にハッとする。

そっか、もうそろそろ文化祭なのか。すっかり忘れてた。


「で、文化祭実行委員を決めるぞ。公平に男女別にくじ引きでいいか? 」

「「はーい」」

「じゃあ男子は教卓側、女子はロッカー側に固まれー」


やはり覇気がない先生の掛け声と共にぞろぞろと男女別れて集まっていく。

私は立ち上がってロッカー側に進みながら、ネガティブ思考に走りまくっていた。

なんだか嫌な予感がする……悪い事は続くって言うし、引き当てちゃうかもしれない。人の前になんて立てないから、絶対避けないと。


「じゃ、好きなの選んで! 」


クラス委員を務める茜さんが、筒に乱暴に入れられた割り箸の束を私達の前に出す。

適当に皆引いていくので、その波に乗るように手を伸ばして一本引く。それは他の皆のものとは違い、先端は赤く染まっていた。


「おっ、椿来ちゃん当たりだね。文化祭実行委員は椿来ちゃんに決定! よろしく! 」

「……よ、宜しく、お願いします……」


やっちゃった、引き当てちゃった……ネガティブな事なんて考えるんじゃなかった。男子の方に任せて、私は書類整理とかしてようかな……

これからの事を考えている内に、顔から血の気が引いていくのがわかる。でも、長めの前髪で隠れているので皆は気づいてなんていないだろう。


「女子決まったかー? 」

「うん、決まったよ。椿来ちゃん! 」

「こっちは翼になったぞ! と言うわけで、二人共宜しく! 」


暫くは聞きたくなかった名前を聞いて勢い良く顔を上げると、彼も目を見開いて、驚いているのが良くわかった。

偶然にしても神様は意地悪過ぎる。今となっては同じクラスなだけでも辛いのに、更に同じ委員会で一緒にいなくてはならないなんて。

クラスメイト達の暖かな拍手の中、私達は互いにどうする事も出来ずに文化祭実行委員に選ばれてしまったのだった。

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