3.日常の扉
家族って大事だなと改めて思いました。
二人が帰った後、そのまま泣き寝入りをしていたようで、目が覚めて時計を見れば短い針が8を指していた。少々寝すぎちゃったなぁと目を擦れば少しずつ目が冴えてくる。
まだ寝ぼけた状態の時に部屋を軽く叩く音が聞こえ返事をすれば、私に似ているけど少し低い声が扉越しに厳しい言葉を投げ入れた。
「……椿来? いい加減出てきなさい。いつまでも閉じこもったって何も問題は解決しないわよ? 」
「……っほっといてって言ってるじゃない! お母さんには何もわからないでしょ?! 」
「椿来! 」
今の私にとって現実を見ろとばかりに突きつけられるのが、ひどく辛くて叫ぶように声を出せば、それを覆うレベルの強い声が耳を貫いた。
普段、お母さんは叱りつける時すら大声を出さないのに。
「お母さん……? 」
「……何があったかはわからないわ。でもね、貴女は、貴女には家族がいるって事を忘れないで欲しいの。何があっても私達は貴女の味方だからね」
「……」
「夕飯、置いておくから食べてね」
激しい声の後の優しい台詞はズルいと思う。また涙腺が壊れてしまうから。
一しきり泣き、腫れ上がっている目元を擦りながらベッドから降りて、部屋のドアを開ければ私の大好きなオムライスが美味しそうな香りを漂わせている。
衝動のまま、お盆を持ち上げてそのまま階段を駆け下りて、下へ降りればお母さんはまだキッチンで洗い物をしていた。誰か来た事に足音で気付いたのか、洗い物から顔を上げると目を丸くし動きを止めた。
「……椿来」
「ねぇお母さん、私ばかり優先してたらまーくん拗ねちゃうよ? 」
軽く笑いながら言えば、お母さんの目にはみるみる涙が浮かび上がっていて。溢れ落ちる雫を拭いもせずに微笑んだ。
「大丈夫よ、真純の好きな物だってちょくちょく作ってるもの」
「そう? ここ3日私の好物しか並んで無いけど? 」
「気づいてるなら早く降りてきて欲しかったわねぇ」
「ごめんごめん」
謝りつつ移動してテーブルにお盆を置き、両手を合わせる。
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
久しぶりに明るい所で食べるご飯は、とても美味しかった。僅か10分で食べ終わってしまうくらいに。
「ご馳走さまでした」
「お粗末様でした」
お母さんの穏やかな声を聞きながら私は、1人じゃ無いとちゃんと思えた。このまま親友がいなくなってしまったとしても、家族がいると。
食べ終わったお盆をキッチンに持っていくと、流れる様に食器だけ奪い、さっさと洗い始める辺りお母さんはプロの主婦だと尊敬する。
「お母さん、ありがとう。でも今日は流石に自分のは自分で……」
「いいの。代わりに明日からの学校、しっかりね? ダメだったら、相談してちょうだい」
「……わかった。ありがとう」
苦笑しつつ、もう一度お礼を言って脇にお盆を片付けた。そのまま階段を登って自室へ戻り、電気を点ければ私らしくない散らかった有様。思いっきりため息を吐きながら、さっきまでとは違う考えを巡らせる。
きっちり支度をしよう。明日から始まってしまう新学期の準備をして、薫ちゃん達と学校に行こう。
……支えてくれる家族のために、頑張ろうと強く思った。