第四事件『【死神】の過去』
さて。物語もいよいよ中盤ですが、ここで無威の過去回です。
暇つぶしに読んで下されば幸いです。
無威は、某国で生まれ、そしてたった三歳で捨てられた。その時から、能力を持っていた無威は、親から不気味がられたのだ。
そして無威を拾ったのは、その某国最大の暗殺組織【シール】だった。
無威は物心ついた時には拳銃を持ち、引き金を躊躇い無く引いて、人を殺していた。
そして五歳くらいから能力を使って人を殺し始めた。
無威はただの人形だった。
命令されるままに動き、そして殺す。
自ら喋ることなど一切無かった。ただそれでも無威は強かった。
気づけば組織最強の幹部番号【ZERO】を与えられていた。
しかし無威にも欠点があった。それは子供が殺せない事。
それが原因で無威はある日、大きなヘマをやらかした。
結果、組織追放処分及び、殺害命令が下され、無威は殺されそうになった。
だが、無威は、無威を殺すために送られた部隊を返り討ちにし、いつしか日本という島国に上陸した。
思いっきり不法入国だった。
ここが日本だと気付いた、そんな時、昔、上司に言われた事を思い出した。
どうやらこの国は無威の故郷だったのだ。
だが、無威はそんな事で、喜びはしなかった、生きる意味もなく、ただの生きる屍であった無威は、まるで動物の様に生きるので、必死だった。
無威には人を殺した事のある人間から出る異臭を、嗅ぎ分ける素質を持っていた。
そして自分と同じ異臭がする人間を殺し、金と、食料を奪い隠蔽工作。これを繰り返した。
無威にとっては、異臭のしない人間が、多いこの国が好きだった。
自分が育った施設には、人を殺した事のある人間しかいなかった。
無威は異臭のする人は基本的に嫌いだった。
その悪臭、異臭が自分にこべりつき、落とせなくなっていく気がしたからだ。
そんな事をしながら、生きていると【シール】の新米幹部と偶々接触してしまった。
新米幹部の名は【SEVEN】。
どうやら【シール】は日本でも勢力的に活動しているらしい。
しかしソイツは襲ってこなかった。
話をすることになり、聞くとソイツは無威のファンらしい。自分の仕事ぶりを見てくれたら、見逃してくれるというソイツの話を間に受けて乗った。
そいつの殺し方は無威より残酷だった。
土に彫った落とし穴にマグマを流し込み、そのまま埋葬したり、相手を燃やし尽くすまで、首をしめたり、と無威はその光景を見て言った。
『君は俺より暗殺者だ』
無威の言葉を聞いた。ソイツは無威に言った。
『いえいえ。そんなの当たり前っすよ。あなたはだって暗殺者でも、人間でもありませんから』
そう何も気にせずに言った。
『じゃあ俺は何なんだ?』
聞くとソイツは笑う。
『そりゃあ。勿論。……【死神】っすよ』
『【死神】?』
『そう、うちじゃ。そう呼ばれてるっす。死を司り、あらゆるものに死を与え、神さえも殺す先輩にとっては、ぴったりの呼び名でしょ?』
そう言ったソイツは後に、こうも言った。
次に居場所が分かったその時は殺すと……。
無威は分かったと返した。
同時に【シール】が日本でも相当、活動している事が予測できた。
なぜならアイツは言ったのだ。
『次に会うのはそう遠くないでしょう』
無威はその時、悟った。
確かに日本では、無威と同じ異臭がする人間が少ない。
だが、それはあくまで表面の話なだけであって、裏で、自分で直接手を下さず、人を殺しているのだということが。
その瞬間、人間の醜さが伺い知れた。
だから、こんな世界に生きる意味を完全に見失った無威は、処理もドンドン雑になった。
そしてとうとう警察に捕まった。抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなったからだ。
だが、しばらくして、無威の運命は、ある二人によってガラリと変わる。
一人は美々。もう一人は警視監、葉尾龍郎。
この二人にであって、無威は仮初であっても人間性を手にいれた。
それからは記録通りだ。
無威は能力者が関わる事件だけ、捜査協力する様になった。
〓◆〓
「というわけです」
無威は自分の真っ白な牢獄に帰ると、しらっとそう語った。
「というわけです。じゃなくて! どうしてあの発火能力者が犯人でないと言えるのか、私には全然分かりません」
葵が無威にそう言って返す。
「えっと。さっきの発火能力者の火力って、実はそんなに高く無いんですよ。ああいう能力は、どちらかというと、爆破した勢いで、威力を出すタイプの能力で、さっきの焼死体ほど黒コゲに出来ません。やったとしても、死体がもっとグロくなるだけです。それに部屋の壁に傷は無かったし、窓ガラス割れてなかったですから。密集した部屋でさっきの発火能力を使ったら窓ガラスとか、吹き飛んでますからね」
無威は丁寧、説明する。
「でも、なら【SEVEN】だっけ? 何でその子の犯行って言えるの?」
美々がもう一つの疑問を投げかける。
「首の部分が異常に磨り減っていたでしょう? あれは首を絞めながら、相手を焼き殺したからですよ。能力って基本的、人間が体に力いれる場所に強く力が働きますからね。わかりやすい特徴の一つです。それにマグマで焼いたなら、あのコゲ具合は納得がいきますからね」
実際に見た無威だからこそ、言えることだった。
「なるほどね。でもさっきの彼はちゃんと留置させて貰うよ。器物損害に殺人未遂、傷害、とか、能力使うだけで、刑法違反のオンパレードなんだから」
美々は腕を組みながら当たり前の事を言う。
「その辺は美々姉さんにまかせるよ。まあ、話は聞かせて貰うけどね」
「まあ、それはまかせといてっと、ん? また電話だ。ちょっと待って?」
するとまた突然見計らった様なタイミングで美々の携帯端末がなる。
「え? ホントに? 留置区間で警備が甘かったとか、そんな言い訳どうでもいいの! それで……うん。うん。分かった」
美々はそして通話を切った。
「ムイ、不味い先手打たれちゃった。さっきの発火能力者、大文字大和が黒コゲの焼死体で発見された」
これはいよいよ、不味くなった。無威はそう思い、額に冷汗を流した。