第三事件『能力者と暴走』
さあ、ここからが本番です。とうとう事件が発生し、物語が大きく動き始めます。
というわけで、楽しんで読んで頂けるなら幸いです。
「ムイ。仕事だよ」
「……今回は結構間があったね。葵さんが来てから始めてだっけ」
あれから、しばらくの間、葵はいくら無威の殺意を放たれても、同じ態度を取り続けた。
その甲斐あり、今は無威から葵さんと呼ばれ、葵は無威と呼んでいる。
「そうですね。初めてです」
「じゃあ。〝あれ〟は、葵さん、知らないの? 美々姉さん」
「あれ?」
「うん。知らないよ」
「あの、あれってなんですか?」
葵は二人から流れた不穏な空気を感じ取って聞くが、二人は首を捻って言った。
「知らないなら、実際に見たほうがいいかな?」
「そうね――? 信じられないだろうし」
「え? 先輩、教えてくれないんですか?」
「うん。ごめんね……。ちょっと待ってね」
突然、美々の携帯が鳴り出る。
「はいはい。え!? 分かりました。すぐ向かいます」
「ムイ。不味いことになった。急いで向かうよ!」
「あ? マジかよ。分かった。急ぐぞ」
無威の雰囲気が突然変わる。無威は何があったか予測したようだ。
「え? え?」
「とにかく急ぐ!」
「は、はい!」
そう言って三人はすぐに部屋をでた。
〓◆〓
「な、なにこれ?」
現場に着くとそこは、ありえない状態だった。
なんと手から火を出している、つまり発火させている男がいた。
「どけ! 邪魔だ!」
ドカン!
男が手から火を放つ。すると当たった場所が爆発する。幸いにも着火地点に人がいなかったから良かった者の一つ間違えれば大災害ものだ。
「なんですか? あれ?」
ふと美々が並んだので聞く。
「あの人は超能力を扱える【能力者】。世間一般には、隠されている異様な存在。時には本人の意思や行動にすら逆らう。明らかに危険な存在。しかし、故に強大でやろうと思えば、どんな不可能犯罪だってこなせてしまう。それ解決するのが、ムイの仕事なの。普段は隠し通しにくるんだけど、暴走しちゃったみたいだね。能力者の能力は必ず暴走する瞬間が来る。能力者の唯一の欠点ってとこだね」
美々はそうタンタンと語る。
「なんで、私達じゃ無理なのに無威ならなんで解決出来るんですか?」
感づいていても聞いてしまう。
「そりゃあ。天才的な頭脳ってのもあるけど、真実はいたって簡単」
無威自身がどういった存在なのか。
「それって……」
やはり人では無いというのは本当の事だった。
「ナナちゃんだって予想ついてるでしょ?」
出来るなら知りたくなかった。全てが偽者であれ、彼はそれでも仮初の自分で頑張っていたから。
背負う影が深く。本当は一番気にしている事を、気にしていないと言い、気にしてない事を、気にしていると言う。そんな嘘まみれでも彼は、嘘の中で生きていた。だからその嘘を持った、ただの鬼でいて欲しかった。
「…………つまり無威は」
「そうムイは……」
人間では無く、
「「【能力者】」」
無威は美々や葵が気づく前に発火【能力者】の前に立っていた。
もちろん、両手を縛られた拘束衣姿で。
〓◆〓
「なんだ? テメェは?」
発火【能力者】は無威に気がついて警戒する。
「知る必要は無いな。【能力】一つ完全に制御出来ない無能には」
無威はいつもより辛辣だ。
「あ? なめてんのか?」
「ああ。なめてるね。自分の力に酔ってる奴なんて、見ていて吐き気がする」
「拘束衣着てるドM野郎が、どうやら死にたいらしいな」
「……分かってないな。俺は両手を使わなくてもお前を倒せるって事だよ」
「……爆死しろ」
無威の言葉を聞くと、発火能力者は無威に向かって火球を放つ。
しかし火球は無威に当たる前に霧散した。
「断る」
そう言った無威は、漆黒の鎌の上に乗っていた。
「なんだ? それは? どこから出した?」
発火能力者は無威の鎌を見るなり、突然怯え出した。
「ひょっとして俺が誰か分かったか?」
「お前まさか、【死神】!?」
発火能力者はそう驚いた隙に、無威に斬られていた。
〓◆〓
「ムイ。終わったみたいだね」
美々がそう言って無威に近づく。
「ええ」
「殺したんですか?」
美々と無威が話しているところに葵が突然、声を低くして言った。
「被疑者をよく見て、ナナちゃん」
美々に言われてみると、発火能力者の体には切り傷どころか、血が一滴も出ていなかった。
「これは……? ……一体?」
葵が不思議そうに見ていると、無威が説明してくれる。
「僕の能力は【絶死】。漆黒の武器を想像で象り、現実にその武器を召還する。僕は、能力つまり異常な力を持つ人間。能力者だ。でも僕はその能力者の中でもイレギュラーな扱いなんだよ。そして【絶死】はただ武器を呼び出すだけの力じゃなくて、この世の全てを殺す力があるんですよ。例えそれが、無機物であろうと、有機物であろうと、事象であろうと、神様であってもね。まあ、とはいえ、殺すには、武器の形状によって制限があって、刃物なら切る、鈍器なら勢いをつけて殴る、とか色々ね。さっき、その能力者を切った時に殺したのは、〝暴走する能力だけ〟を殺した。つまり、これで、この人の能力が暴走する事は無い。それに【絶死】に〝何か〟を殺されると、しばらく意識を失うんだ。体の内にあるものを〝強制的に消される〟衝撃ってのは、それほどの事なんだよ」
「つまり、これで、この【能力者】の能力は、自分で、能力を制御できる。でも、暴走するという能力にあるリスクが消えたから、気絶してるって事?」
葵が無威の言葉の意味を理解する。
「そうそう。そういう事。ところで美々姉さん。この騒動の前にもこの被疑者、何かしたんだよね?」
「えっと……。うん」
美々が無威の問いに頷く。
「何したの?」
「殺人だけど? どうしたの?」
無威が何故か執拗にこの事件を気にし始める。美々にしてみれば、この無威の反応はかなり珍しいものだった。
「簡単すぎる。……何か違和感を感じる。それにあれほどの能力の暴走が今、起きたならタイミング的に、かなりおかしい」
「というと?」
葵がそう聞くと、無威は答える。
「この事件、何かある。……とりあえずその現場見せて」
「うん。分かった」
美々は頷いて、葵と共に事件現場に向かった。
〓◆〓
事件現場にあったのは、まるで、炭かと思わせるほど、真っ黒に焦げた焼死体だった。首の部分は磨り減り、ギリギリ人と分かるレベルといえるぐらい死体は傷ついていた。
「被害者は角界の名手、伸樹厚志。四十三歳。死亡推定時刻は立ち過ぎていて、現在、科捜研に調査してもらっているわ。それから……」
すると、無威が美々の言葉を遮る。
「美々姉さん。ストップ。この事件、やっぱりおかしい。分かった事が三つある。一つは、この被害者を殺したのは、さっきの発火能力者じゃない。二つ、被害者はここで、殺された訳じゃないって事、そして最後この被害者の死体を見て分かった事がある。それは……この犯行を行ったのは、某国にある最悪の暗殺組織【シール】の七人の幹部の一人【SEVEN】。【燃溶】の能力を使う。僕の後輩だ」