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第二事件『無威の知り合い』

さあ、珍しい日常回です。多分この回しかありません。

「ムイ。【面会】だよ」


 珍しくマジメモードの美々が端末で予定表をいじりながら、無威にそう連絡する。


「面会? 【死神】に外から面会が来るんですか?」


 デスクに向かって座っていた葵が、興味があるのか、回転する椅子を回してこちらを向く。まあ、葵の疑問も当然である。無期懲役をくらった狂った殺人鬼に普通の人が面会に来るわけがない。


「ああ。それは違いますよ。それに外からの面会、その物がこの【アメノイワト】では出来ませんから」


 葵の問いに無威が、器用に足でパソコンを操作しながら答える。【アメノイワト】に投獄されている人間は、特異犯罪者という括りにされていて、一般人には面会謝絶すると、【アメノイワト】が建てられた時に、そういう刑法が制定されたのだ。


「それは知っています。じゃあ、一体誰が……」


 葵は首を傾げる。その問いには美々が答えた。


「この【アメノイワト】だけだけど。ここでは、捕まってる犯罪者同士が交流するために【面会】ってシステムがあるんだよ」


 美々が自分の端末を葵に見せながら説明する。


「え、でも、それって……」


「確かに、いい事では無いよ? でも人間何かしないと腐っちゃう物だから。まあ、大抵牢獄なんて、禄でもない人間を、禄でもない体験をさせて反省させる場所なんだけど。でもここに投獄されてる奴には無駄だから」


 もう仕方ないと、諦めたと言わんばかりに美々はそう嘆息する。


「もう手遅れだと?」


 葵がそれを確認する。


「そういう事です」


 無威が自虐的にそう返事する。


「身も蓋もありませんね」


 無駄である事を認めた無威を見てそう呟いてしまう葵だった。


「犯罪者に対する社会認識なんてそんな物です。まあ、実際は詰まりすぎて、蓋が閉まらないほど、実が詰まっているのが、【アメノイワト】の囚人なんですけど」


 まるで他人行儀の様に、自分の事を語る無威らしい考えだった。


「そう! 囚人!」


 唐突に美々が、無威に向けて指をビシッと指す。


「! どうしたんですか? 急に」


 その突然さに葵が驚く。


「さっき分からなくて、言えなかったけど、私は囚人と言いたかったの!」


 どうでもいい事だった。葵はそんな美々の姿を見てため息を吐く。


「はいはい。分かりましたから、仕事に戻って下さい」


 口を尖らせて美々は反抗の態度を示すが、本題を思い出し無威に聞く。


「むぅ。あ! そうだ! で、ムイ。【面会】はどうする?」


 それを聞いて無威は憂鬱になりながら再度聞く。


「どうせ。断っても無駄でしょう?」


「うん。多分ね。また何回も【面会】届けが届けられると思う」


 流石の美々も、その囚人を相手にする無威を哀れに思った。


「はぁ。分かりました。会います」


 無威は乗り気ではなかったがそう言うしかなった。


「そんなに会いたくないの?」


 葵がヒョコっと顔を向け聞く。


「ええ。まあ。面倒な奴なんで」


 無威は脱力しながらそう答えた。


「先輩より?」


「……はい」


「それは……ご愁傷様」


 それを聞いた美々がまた、抗議する。


「むむ! ナナちゃん! それはどういう意味かな!」


 熱い美々に対して、葵は冷たかった。


「そのままの意味です」


 それを聞いて美々は涙目になる。


「ひど――い」


 その反応を葵は、まるで子供をあやすように対処する。


「はいはい。遊びは仕事が終わったらしましょうね」


「むぅ。ナナちゃんが、子供扱いする」


 美々はその対応に不満を漏らす。


「事実子供でしょう?」


「むき――い!」


 葵の心無い言葉についつい猿かしてしまう美々だった。


「はぁ。なんでもいいから仕事してください。美々姉さん」


 無謀な争いだな――と、無威は思った。



〓◆〓



「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」


 無威が【面会室】に行くと一人の銀髪の幼女がいた。

 髪は短めで、見た目は一〇歳前後、瞳は金色、身長はあって一二〇センチあるかないかくらいだ。


「別に呼んでないし、それに呼んだのはあなたです」


 銀髪の幼女の言葉に無威はなんとなく、ツッコミをいれる。


「おお? ムイムイ。あんまり元気ないね? どうした? ともあれ久しぶり!」


「相変わらず話をする気も、聞く気も、まるで無いですね。慙愧残座(ざんきざんざ)さん」


 そう、この銀髪ロリの名は慙愧残座。かつて、自分家族を脅かしたヤクザや、借金取りを、(ことごと)く殺して家族を守った幼い殺人鬼である。


「おやおや。相変わらず他人行儀だな。チミは。僕のことはザンザンと呼んでくれといつも言ってるじゃないか」


 まだ幼いせいか、非常に馴れ馴れしい幼女だった。少なくとも無威はそう思っていた。


「そんなのお断りです」


「ムイムイは相変わらず恥ずかしがりやだな――」


「で、なんの用です?」


 無威は本題に入ろうとするが、話題をあっさり逸らされる。


「用も何も世間話をしにきただけだよ。ねぇねぇ。ムイムイは僕の事嫌い?」


 いくらせがんでも仕方ないので、話に乗ってやる。


「嫌いですよ?」


「こんなにカワユイ女の子なのに? 美少女なのに?」


 慙愧は自分の右手の人差し指を頬に当てて聞く。

 確かに可愛いポーズだが、無威は素っ気無かった。


「慙愧さんがどれだけ可愛くても、美少女でも、嫌いなものは嫌いです。それに加えて言うなら苦手です」


 その無威の対応を聞いて反論する慙愧。


「ええ? 僕って結構可愛いと思うんだけどな――。こんな純粋無垢で世間知らずな。ロリペタ美幼女なのに……」


 今度は両手の人差し指を、自分の両頬に立ててポーズをとる。


「美少女でも美幼女でも関係ないです。それに勝手に造語を作らないで下さい。何ですか美幼女って!」


「そりゃあ。美しくて可愛い幼女だよ! アニメに例えるなら、銀髪で聖剣のエ〇トとか、潜水艦のメンタルモデルのイ〇ナちゃんとか……後は……」



 慙愧が造語の意味を説明して、例を出すが、無威に止められる。


「それ以上はやめましょう。作者の趣味が露見します。それより、よくもまああなたの口から純粋無垢なんて言葉がでますね。【アメノイワト(こんなとこ)】に入っておいてよく言います」


「あははは。確かに純粋無垢は、僕には程遠い言葉だったね。でも僕はこんなに可愛いよ? 可愛いよ?」


「二回言っても関係ないです。大事な事でもないし」


「嫌よ、嫌よも?」


「嫌いです」


「そこは〝好きの内〟だろう? 全く、頑固だな――。ムイムイは」


 慙愧は無威の言葉を聞いてケタケタ笑う。


「こんな無駄話をしに来たなら帰りますよ?」


 無威は呆れて帰ろうとするが、慙愧がとんでも無いことを口走る。


「あ、ムイムイはこんなか弱い幼女を放置プレイしようとするなんて、鬼畜だ――! 鬼畜だよ――――!」


 いい加減疲れた無威は、肩を竦ませ席に着いた。


「……、もうツッコムのも疲れました。いい加減本題に入ってください」


 慙愧はまだまだ不満げだった。


「ええ――? もっと遊ぼうよ――――」


「お断りします。疲れました。話す気が無いなら帰ります」


「あははは。ゴメンゴメン。冗談だって」


「なら、本題に入ってください」


 無威の疲れた顔を見て、慙愧は仕方ないな――と言葉を漏らして、本題を話始めた。


「えっと、ムイムイは僕の〝趣味〟でやってる占いが、よく当たるは知ってるよね?」


「ええ。まあ。それが慙愧さんの〝力〟でないのは、知っています。占いが、よく当たるのも」


「それでね。この前暇つぶしにムイムイを占ったら、とんでもなく悪い運勢が出たんだよ。それも飛び切りの奴。周りにまで危害が及ぶとんでもないのだから気をつけて。原因はムイムイの過去にあるみたい」


 慙愧の忠告を聞き、無威は頷く。


「……そうですか。ご忠告ありがとうございます」


「困ったことがあったら頼ってね――」


 慙愧はそう言って自分の牢獄に帰って行った。



〓◆〓



「お疲れ様です」


 葵は無威が帰るなり、そう言った。慙愧とのやり取りを別室で見ていたからだ。見ている方は面白かったが、やれている側が大変だったのは分かった。


「いえいえ。あれは慙愧さんなりの気の使い方です。疲れはしましたが、楽しかったですよ。もうちょっと真面目に話して欲しいところですが」


 肯定の言葉が返ってこなかった事に葵は驚く。


「え、でもさっき、あの子の事嫌いって言ったわよね」


 葵はそう確認する。


「七霧さんもまだまだですね。言ったでしょう?」


「?」


 無威の返答はとても意外な物だった。


「〝嫌よ、嫌よも、好きの内〟ってね」


「言ってないよ」


 そのまま格好つけられているのは、癪だったので、葵はそう言い返した。


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