爺さんの話は長い、そして大事なこといつも最後…
「それで、何か用か爺さん」
俺は調理器具を片付けながら爺さん、もとい族長に話しかける。
「話は片付けが終わってからじゃ」
なら投げてくるなよ……。そう思ったのは当然のことだと思う。とは言っても、片付けながら話してくれない 内容とは、仕事の話か何かだろうか。
仕事、俺たちに仕事を出せるのは王宮くらいのもの、それ以外に繋がりがないからだ。それに俺たちは必要ないと判断した依頼は決して受けない。俺たちの集落は特殊な集落で、他の人間よりも強い人間の集まり。強大すぎる力を持ってしまったものの集まりだ。
まぁでも、国どころか世界のバランスを崩しかねない俺たちを黙認してもらってるって意味で、国には恩があるらしい。よく分かんないけど。
「で、仕事?」
「まぁ座れ、話はそれからじゃ」
「へいへい」
俺は短く返事をして、爺さんの向かいに座る。
「まず断っておくが、仕事の話などではない」
「あっそ」
正直、仕事は嫌いだ。なんで知らない奴を守る任務に就かなきゃいけないのか、未だに疑問は晴れない。てか、仕事じゃないのに俺の睡眠時間削るとかふざけんな爺。
「お前は今何歳じゃ?」
「15 だけど……?」
「その通りじゃ、お前もアリアやクレア同様、学園に通ってもらう」
「マジで? いやでもめんどくさい…」
さっき名前が出て来たアリア、それとクレアという二人の女子が既にこの集落から学園に通っている。アリア は二つ上、クレアは一つ上。
「お前は特に表の世界との関わりが薄い、この機会に集落外の人間のことも知っておくべきじゃ」
「別に良くないか? だってどうせ俺この先もここから離れる気ないし……」
「お前の世界は狭い、狭い世界で一生を過ごすのはお主の為にならん」
「はぁ……」
いや確かに楽しみだなって思う面もあるけど、あるけどだろ…。やっぱり俺はこの集落好きだし、ここにずっといられればいいと思ってる。
「お前がこの集落を好いておるのは知っとる。だからこそ、お前は外の世界を見てみる必要がある。どんな人間がいて、どんな争いがあって、どんな楽しみがあるのか、知っておく必要があるんじゃ」
「ふーん……そういうもんか……」
納得できない気がしたけど、とりあえず頷いておいた。だって話長いんだもん! 眠いんだよ俺は! 忘れてない? 徹夜で見張りしたあとなんだけど今!!!
「無理に納得しろとは言わん、しかし学校には行ってもらうぞ。きっと色んなものを見てくることが出来るじゃろう」
こうなったら拒否権もあったもんじゃない。決定事項ってやつで、絶対連行される。俺は半ば諦めて、小さく頷いた。
「ま、面倒だけど行ってくるよ。折角の機会だもんな」
「そこでじゃ、お前は「分かってるって。異能者だってばれるなって事だろ?」
「分かっておるなら良い。決してバレてはならんぞ、世界規模の問題になり兼ねん」
「あいよー」
俺の言葉は空返事だった。今まで何度も口を酸っぱくして言われてきた。俺たちは異能者。特殊な力を持ち、世界を相手に戦争が出来る存在。まぁ俺たちもバカじゃないから、そんなことはしないんだけど。
「ただし、例外もある。一人の意向は全員の意向。お前が信じた者に話すことは止めはせん」
この集落の決まりは、たった一つ。「一人の意向は全員の意向」。それぞれがそれぞれの絶対的味方であることだけは忘れるなってことらしい。意志を持っての行動は止めないし、全面的に賛同の構えを取る。
まぁ、「世界相手に戦争するぞ!」とか言ったらボコボコにされるんだけどね、集落総出で。流石にそんなにバカじゃない。
「異能者であるがゆえに苦労する事、少なからずあるじゃろう。同時に、お前は魔法使いでもある。苦労する事もより多かろう。しかし、外の世界で見るものがお前の為になることを集落全員が願っておる」
再び俺は小さく頷く。
「長くなってすまんかったの、今日はゆっくり休め。明日の早朝、学校に出向き面接を受けて貰うからな」
「あいよ……? は? 面接?」
「当たり前じゃろ、タダで入れると思っとったんか?」
「いやそういうのって爺さんが手回しやらなんやらして行けるようにしといてくれるもんじゃねぇの!?」
「甘えるでない!」
「ええ……」