SACRIFICE その6
ゆっくりと慎重に踏み出し、手に持った棍棒のグリップに巻かれたゴムに染み込まない汗がぬるぬるとする。
怖い?そうかもしれない。
なんとかなるっていつも思って行動している、今回だってきっとうまくいくはずだ。
私に比べれば二人は熟練者でタイミングを合わせることも問題ないだろう。
大丈夫、行こう。
レンシー達の補助魔法の範囲外に出る、いつ向かってきても心の準備はしてある。
さぁ、こっちからか?それともあっちか?
辺りを見回す不審者の如くエモは一歩ずつ進む。
空気を破裂させたような鞭のしなる音が聞こえる前にエモの持つ棍棒に絡みついてきた。
エ「釣れた!大物だ!」
両手で引っ張り続ける、濡れた地面の方へ連れださなければ失敗に終わってしまう。
負けるものか、ここで気を抜いたら、気を・・・ふんぬぅ。
雲の切れ間から星が覗きこみ、浮かび上がったぼやけたシルエット、エモの踏ん張る表情がなんとも頼もしく見える。
よし、悪魔の足元は確認できないがこれ以上は限界だろう、ヒュドラは溜めこんだ力を解き放とうとした。
レ「悪魔は浮いてます!まずいですよ」
浮いているということは雷を落としても触れていないので無意味という事だ。
考えていた作戦は失敗だ、打開策はもう残っていない。
エ「いくぞぉぉー、せーのー!」
エモの腕の筋が切れんばかりに悲鳴を上げて震える、更に勢いをつけて引っ張ると耐えられなくなった悪魔の倒れる音が聞こえた。
ヒュ「流石だぜ、好機だ、いくぞ」
ヒュドラの渾身の一撃が地面に降り注ぐ、と、よく見たらエモが尻餅ついてるじゃないか?
このままだとエモも感電してしまう、まずくない?
レンシーは止めさせようとしたがもう遅かった。
エモは感電してしまい真っ黒焦げに、なってない。
ヒュ「大丈夫だ、ギリギリで気づいて良かったよ」
ヒュドラのフライの魔法でエモは浮かび上がっていた。
フライは「第二章 宝石の真偽 その2」と「第三章 真夜中の逃亡者 その1」で登場していて「他人まで浮かせることは出来ない」とあるが、対岸まで浮かせて移動させることは出来ないということで、重さにより移動させられる距離は限られている。
自らが被る場合は例外である。
それで悪魔はどうなったんだ?
白い煙を上げた塊がここから見える。
レ「終わったんですかね?」
ヒュ「分からん、見てくる」
その時、「あ!」と悲鳴が聞こえた。
レ「どうしました?」
レンシーは振り返るとニアスが泣きながら、
二「カニが・・・真っ赤に!」
それは見事に良い香りを振りまいているカニが一杯、瀕死のじょうた・・・食べ頃だ。
二「うわあああああああああん」
ヒュ「・・・・・・」
ニ「う、うぅ・・・」
悲しむニアス、昨日の昼はカニチャーハン食ったくせに何故そこまで悲しい顔をするのだ。
なんだかいたたまれない気分になる。
ヒュ「レンシー、リザレクション頼めるか?」
レ「え?カニにですか?」
ヒュ「頼んだ」
レ「分かりました、善処しましょう」
ヒュドラはエモの元へ行くと手を差し伸べる。
ヒュ「お疲れさん、流石に尻餅ついたのを見た時冷や汗が出たぞ。まぁ俺にかかればどうってことないがな。
さて、お前も来てくれ」
エ「疲れたよ、本当」
エモを立たせ悪魔がいたであろう場所へ向かう。
目を覆いたくなるような光景があるだろう、しかし見届けなければならない使命がある。
煙を上げているものは小さく、人の形をしていたが明らかに悪魔でも人でもない姿だった。
ヒュ「これは、なんだ?」
エ「焦げてるけど人じゃ・・・ないよね?」
それはただの焼け焦げた木であった。
もしかして身代わりか?だったらまずい。
ヒュ「まだ終わってないぞ!」
身構えるヒュドラだったが、エモは木に埋もれている何かを指差した。
エ「もしかしてこれ、宝石の欠片じゃない?」




