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失われた宝石  作者: 田貫うどん
第七章
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空蝉 その2

疲れていた身体は船の心地よい揺れで深い眠りへと導いた。

夜は当たり前のように訪れる、そして船の外は暗闇に包まれ月明かりが微かに重なる雲から見え隠れしている。

このまま何も起こらなければいい、いつかくる果ての事は今知る必要はない。

ヒュドラはレンシーと一緒にエモ達の居る船室に戻ったのだが、眠れず甲板まで出ていた。

今ここから逃げ出す事はできるだろうか。

周りは海、移動する手段が無ければただ死ぬだけ。

船があればどうだろう、それでも方角は分からず同じ場所を彷徨うだけ。

あと数時間もすれば陸地に到着する、そこは自由だ何も行動を遮るものは無い。

船はある意味密室と同じだ。

船長のさじ加減で行先が決まる、その気になればこのまま留まる事も出来る。

あの時と同じ、私の居た小さな部屋と。



生まれた時は幸せだった。

皆に愛され幼少時代を過ごしたはずだ。

箱に入れられる前、私は近くに住んでいた子供と喧嘩をした。

私は一方的に殴られ、泣いて家に帰った。

その後一日もしないうちに殴った子供は死んでしまったのだ。

私の怪我をみて「男なら強くなりなさい」と言って生まれて初めて手当てをしてくれた父。

彼もまた死んでしまった。

二人の体は紫色に変色し、何か強い毒を与えられたようだと推測され調べられた。

しかしどこにもそのようなものは無く、私はずっと母にしがみつき様子を見ていた。

「大丈夫よ」と母は言うが、私はとても恐怖を感じていた。

「君も調べさせてくれ」調査員は私の手を掴む、嫌だと抵抗したのだが大人の力には逆らえず押さえつけられた。

何も持っていないことが分かると解放したのだが、調査員の手には私の傷口に巻かれた包帯に染み出た血が付着していた。

しばらくすると調査員の気分が悪くなり、血の付いた場所がみるみる変色していくのが見えた。

そしてそのまま調査員は死んでしまったのだ。

この事実を目の当たりにした別の調査員は一大事だと上官に報告、すぐさま私は母親と共に町の医療機関へ連れて行かれた。

私は母親に言われた通り素直に医者と対峙した。

医者は手袋をし私の包帯をほどくと驚いた様子だった。

私自身も不思議だと思った、傷口はふさがり血は流れていない。

ただ包帯には痕跡が見えるだけ、傷は綺麗に無くなっているのだ。

子供の治癒力は凄まじいとはいえ数時間だ、不可能と言える。

どうして?それから私は検査された。


何日も続く検査が終わり、結論が出された。

私の血に触れると様々なものが腐食してしまい、体は超再生能力で傷はすぐ治ってしまうという。

私が怪我をした時に母は血に触れた事があったが、耐性があった為気づかなかったのだろう。

この結果については私と母親には告げられず、私はそのまま箱の中へ入れらた。

このまま放っておけば更に死者がでるから?それは上辺だけの理由だろう。

何かに利用できるから?おそらくそれが一番だろう。

どれくらい過ごしたのか思い出せないくらい長い時間が通り抜ける。


外から声が聞こえる。

私と同じ子供の声だ。

「誰か助けて!」

叫びは部屋の張り巡らされた魔法の壁に吸収される。

中の音は一切外部に漏れないのだ。

そうとは知らず誰かの声がする度助けを求めていた。

「どうして僕はここに・・・」

まだ私は幼かった、ここにいる理由など知ることさえできなかった。


窓から差し込む月の光、それだけが私に許された安息の時間だった。

いつからここにいたのだろう、四方壁に囲まれた箱の中に私は鉄格子のはめられた小さな窓を見上げていた。

簡易ベッドに座り、黒くくすんだ扉から差し込まれる食事を食べている。

毎日何も無い繰り返し、夜でも電灯などの光は無く、朝が来て窓から射す太陽は私を焼いた。

それが苦痛で仕方なく隠れるように布団にもぐった。

自由に出る事など出来ない、ただひたすらにこの場所に存在していた。


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