アポリア その3
その納骨堂は本来死んだ者を供養するために建てられたのだが、とある取引所として使われてきた歴史を持っている。
教会のすぐ近くでそんなことが行われているなんて誰も知る良しも無かった。
取引材料、それは誰もが欲しがる悪魔の薬。
いわゆる麻薬というやつで、この世界では禁じられていて所持しているだけでも処罰対象になる。
エモが隠し扉を開けた時、そこに設置してあったアラームが作動したことに気付くはずもない。
音もない装置は侵入者を見定めるものではなく、客が現れた事を知らせる為のものだった。
本来なら入る前に仕掛けが無いか調べなければいけないのだが、あれよあれよという間に入ってしまった。
入ってこれる者はごく一部の常連のみで、一般の人間ではそう簡単に入ることは出来ない。
それはともかく、中は何も無く一本道がありここが本当に納骨堂なのかと疑いたかった。
元々ここにも壺やらミイラやらが安置されているべきところなのだが、この納骨堂を建てた時に隠し扉を設置し、非常時に使えるようにしたようだ。
非常時というのは戦争の勃発や内乱などのこと、しかしながら現在はその影さえ見ることは無い平和な時代なのだ。
そんな平和な時代に天変地異とは何の嫌がらせなのだろうか。
いつ全てが覆いつくされるかが分かっていればどうにか懸命に対応もできよう、でも該当部以外の場所では呑気に暮らしているという。
人間とは危機迫る時でしか行動しようとはせず、目の前に突き付けられた切っ先も無かったように行動するものである。
明日死ぬと分かっていれば抵抗などしない、いつ死ぬか分からないからこそ懸命に抗おうとしているのだ。
レンシー(以下:レ)「この先を行けばおばけの正体がわかるかもしれませんね。」
ヒュドラ(以下:ヒュ)「おばけなどいない」
エモ(以下:エ)「お?ヒュドラもしかして怖いの?そうなの?」
ヒュ「怖くはない」
ニアス(以下:ニ)「ニャンちゃん何?え?ヒュドラは臆病だって?はは、確かに」
ニアスは猫に話しかける、ニャンちゃんとはニアスが可愛がっている猫だ。
動物と話せるらしいが定かではない。
ヒュドラは無視して先を行く。
暗い足元を照らしながらの狭い道、ひんやりとした石の壁が余計に寒さを与えている。
その時、光が見えた、誰か居るのだろうか。
ヒュドラの持つ灯りと同じ様に動いている、いや同じだった。
何かに反射しているのだろうか、もっと近づくと大きな鏡が張ってあった。
ヒュ「おっ?何やらイケメンが立っているな。うむ、素晴らしいな」
エ「この鏡の下に隙間があるよ、持ち上がりそう」
ヒュドラ無視してエモは鏡を調べると案の定持ち上がる構造をしていた。
ここにも隠し扉があったのだ。
ヒュ「今回のエモは妙に冴えている。
きっとニアスに立場をとられないよう必死になって頭を働かせているに違いない。
仲間と言えど後から来たのだ、立ち位置は守らなければこの旅を続ける意味などないっ!」
エ「おいヒュドラ、変なナレーション入れるなよ。それと旅を続ける理由はそんなことで意味を無くさないからね」
レ「エモも成長しましたね」
ニ「しばらく見ないうちに凄い、それに比べて・・・」
ヒュ「おい、そんな目で俺を見るな・・・悲しくなるから」
迷路のような納骨堂、鏡の仕掛けに気付くことがなければ行く先は行き止まりになっていて引き返すことになる。
二重の安全対策、それは何を隠そうとしているのだろうか。
レンシーの心の中は大方の見当はついていた。
以前にもこのホワイトローズ(教会従事者の町)ではないが、古びた納骨堂を悪用した麻薬取引をしていた犯罪者がいた。
そこの納骨堂は今居る所とは違い、郊外にありかなり風化していて、隠し扉というものはあったが殆ど機能していなかったが、一般人が普段近寄る事のない場所では犯罪者が地下で蠢いているものなのだ。
きっとこの先にはある。
ふと、レンシーは嫌な予感がした。
もしこの先に誰かがいた場合どうしたらいいか考えてはいなかったのだ。
レ「ちょっと待ってください」
ヒュ「どうした?変な声出して」
レ「今まで何も考えて無かったんですけど、もしこの先に誰かがいた場合どうしますか?」
ニ「誰もいないよ、フヒヒヒ」
レ「いやいや、今はいませんけど、もし誰かが潜んでいて攻撃されたら、この場所では危険でしょ?」
エ「そりゃそうだけど、ここまで来たら引き下がれないでしょ?だってこの先に宝石があるかもしれないんだから」
エモの言うことは尤もだが、この発言は盗掘者の常套句であることに気付いてはいない。
宝石があれば正義の為だと持ち帰る、それが本当は悪いことなのでは・・・いやそんなはずはない。
とにかく今はこの先を見なくては後味が悪くて仕方がない。
ただでさえ宝石について情報がないのだからどんな暗い穴の中だって見た事のない様なお宝が眠っているはずだ。
エ「よし行こう、なんとかなるって」
腑に落ちないレンシーは今までより更に気を引き締めるのだった。




