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失われた宝石  作者: 田貫うどん
第三章
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真夜中の逃亡者 その5

レンシーは違和感を覚えた。

それは何かしら腑に落ちないことだったが、それは見当がつかなかった。


エモ「それにしても臭いきつかったね」


ヒュドラ「確かにな」


何気ない会話の中でその片鱗を見る事は出来た。

正義感の強いエモが人の死を目の前にした時、感情的になり見境が無くなってしまうこと(第一章「扉の先 その1」第二章「気づかないのは罪 その2」あたりを参照に)は明らかである。

それがレンシーによる鎮魂の儀式時に限っては冷静でいるし、死者をバカにしたような発言もしている。

いつもなら言うはずもない言葉を発している。

これがレンシーの覚えた違和感の正体だが、閉ざされた空間と立ち込める異様な臭いによってレンシーでさえも術中にはまっているのである。

知らず知らずに襲ってくる、小さな事でもやがては大きな綻びが現れる。


廊下はまだ長く伸びているようで、先へ行くほど不穏な気配が濃くなっていく。

慎重に開いた扉の中に何も無ければホッとするのだが、得体のしれない恐怖はより一層纏わりついている。

足取りは重くなり疲れが出始めた。

朝から動きっぱなしで夕食もとっていない、思考もおかしくなりそうである。


エ「ちょっと待ってよ、次の部屋に何も無かったら休憩しようよ」


レ「そうしましょう、中がこんなに広くて複雑になってるなんて思ってませんでしたからね。休憩取らないといけませんね」


ヒュ「この臭いの中でか?まぁレンシーがなんとかしてくれるだろうがな」


次の部屋の扉の中からは人の気配はない。

思い切って開けるとより酷い臭いが襲ってくる。

漂う虫たちが大勢引っ切り無しに羽を震わせ、手足をすりながら半分溶けている物体の上で動いている。

それはすぐに人だと分かるが、黒い液体が流れ出て潰れている。


レ「こ、これはっ・・・」


床に何重もの引きずった跡が残っている。

そして、すり減った足の裏が削れ、小さな肉片と共に転がっている。

人であった者の下半身は無残に裂かれたようになり、膝から下が無かった。


ヒュ「流石に、無理だこれ」


エ「目がっ、目がっ・・・」


レ「出ましょう」


すたこらと部屋を出て扉を閉める。

これでは休憩どころではない


レ「あの人は探していた人ではなかったですが、被害者の一人でしょう」


ヒュ「そうだろうな。どう見てもアンデッドになって動いてた形跡あったし」


あまりにも残酷な光景だ。

死にながら生きている時はアンデッドでも痛みを感じるのだろうか。

自我を失っているとはいえ、一時くらいは我に返る時があるのだろうか。

多くの情報が頭の中を駆け廻っている。

そして動揺を隠せないレンシー。ヒュドラもまた深く考え込んでいる様子だ。


ヒュ「レンシー、一旦戻らないか?」


エ「うん、なんだか先に進むのが怖い」


レ「そうですが、もうそろそろ全て見回れそうですよ。もうひと踏ん張りしましょう」


帰るにしても入り組んだ地下、戻るにも時間がかかる。

折角ここまで来たのだから最後まで調べて終わりにしたい気持ちがある。

でも戻って体制を整える事も必要なのは知っている。


ヒュ「分かったよ、ついていくさ」


一際目立つ扉の、そのドアノブに黒く湿ったものがこびり付いていた。

それはまだ新しいもので、最近も開けた形跡がある。

しかも中から音が聞こえているではないか。

また、いるのだろうか。

三人は顔を見合わせ息を飲んだ。

入る準備は出来ている。

大丈夫だ、知らずに震える手は汗ばんでいる。


ヒュ「開けるぞ」




闇の中いまも

手の届かない場所

溢れている

飛び込んだ奈落


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