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失われた宝石  作者: 田貫うどん
第十章
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月下麗人 その4

数時間前に遡る。

エモとニアスは子供の狼の後を追って歩いていた。

エモ達の対象Eを直接探すわけでもなく。

狼は立ち止まりながら進んでいく、進んで行くのだがだんだんと町から離れていっている。

ちょっと心配になったエモはニアスに話しかける。


エ「こっちで合ってる?」


ニ「たぶん合ってる」


本当かよ、とエモは思うのであるが、狼の嗅覚は人間よりも優れているので信用しようと思った。

犬の嗅覚は人間の100万倍あると言われている、野生で育っている狼はその犬よりも鋭いらしい。

ヒュドラの酒臭いにおいや、レンシーのおっさんくさいにおいも敏感に感じているだろう。

しかし、眠っている時や気を抜いている時はその嗅覚は殆ど機能しないのだ。

ここにいる狼は子供であるので集中力が途切れると鋭い嗅覚も失われてしまうといってもいいだろう。


町を外れ数分後、狼は疲れたのか木陰で座り込んでしまった。

辺りは何もない、あるとしたら大きな木が一つ。


エ「少し休もうか」


ニ「まだ行けるよ。ほら、頑張って」


エ「スパルタだなぁ・・・」


狼は数歩進んだがすぐに止まってしまった。


エ「酷使しちゃだめだよ」


ニ「仕方ないなぁ。少しだけだよ」



思い返せばニアスとエモが二人きりになったのは久しぶりだ。

長く旅をしていれば不安や不満は生まれるもので、特にヒュドラとレンシーに対しては口には出さないが持っている。

同性であるエモとニアスはつかの間の休憩であるが悪口に花を咲かせていた。


エ「確かにヒュドラは頼りになるけど、精神的には子供なんだよね。融通が利かないとか。レンシーは何考えてるか分からない時あるし」


ニ「分かる。でもレンシーは猫たちにご飯あげてくれるからありがたいよ。たまにヒュドラもあげてるけどちょっと危なそう」


エ「お酒でも飲ませてたら大変だよね」


ニ「え?そうならないように注意しなきゃ」


エ「そろそろ行こうか。もう一度におい嗅がせなきゃ」


ニ「頑張って追跡しよう」



再び狼の後に続いて歩き出す。

ここは町の外れ、家は少なくなって林の中を進んでいる。

この先に何かある?

もうちょっと行ったら分かるかもしれない。

でも道は途切れ獣道を歩いているようだった。

引き返した方がいいだろうか、それとも。

狼が足を止め辺りを見回している。

よく見ると足跡が複数あるのを発見できた。


ニ「この足跡なんか不自然だよね」


エ「本当だ、あっちの方に何かありそうだね」


ニ「行ってみる?」


エ「うーん、まだ日暮れには時間あるし行ってみようか?」


ニ「そうだね。慎重にいってみよう」


エ「この先に対象のEいると思う?」


ニ「え?分からない。そもそもにおいを追跡してるだけだから」


エ「Eの家って町の方だよね。ここからかなり離れてるし」


Eの追跡よりもにおいを追跡してるエモ達、狼を信用してここまで来てしまった。

本来ならEを真っ先に調べた方がいいのだが、すっかり忘れてしまっていた。

急に襲い来る不安感、もしかしたら間違いを犯しているのかもしれない。


エ「ねぇ、一回戻ろうか」


ニ「ここまで来たのに?」


エ「場所は覚えたし、ヒュドラ達連れてきてもいいんじゃないかな?」


ニ「うーん、そう言うなら戻ろうか」


何か分からない恐怖がそこにあった。

もう少し進んでいたらどうにかなってしまいそうで。

ニアスがいるからそんな不安はなかったが、直感って奴は時として危険を回避する。

しかし、それが遅かったと知るのは後のことである。


来た道は分かっている、だがその道が一向に見当たらなくなってしまった。


ニ「この道で合ってた?」


エ「ここ、さっきいた場所じゃなかった?」


ニ「狼ちゃん帰り道教えて」


問いかけても狼の子供は立ち止まったまま。

完全に迷ってしまった。

迷うような道ではないのに、まるで何かの力が働いているような。

気が付くと辺りは暗くなり月はエモ達のことを笑うかのように照らしていた。

右にあった月は左にあったり真上にあったり、ここはどこなのだろう。

心細い感情が生まれる。

ニアスの手を握りながら大丈夫だと言い聞かせるエモであった。


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