MUCH OF MADNESS, MORE OF SIN(第九章完結)
後は任せたと、急いでニアスの元へ向かうヒュドラ。
相も変わらず眠りこけていて焦りと苛立ちを覚える。
ヒュ「おい!ニアス!起きてくれ!」
起きそうもないので激しく揺らしてみる。
それでも駄目なので軽く叩いてみた。
・・・起きない。
「狼が襲ってきてるんだ、起きてくれ!
狼と言う言葉に反応したニアスはまだ夢現のようだが目を覚ました。
ボーっとしていて状況が呑み込めていない。
ヒュ「ほら、手助けしてくれ」
二「う?うん、分かった・・・スヤァ・・・」
今にも二度寝しそうなニアスをもう一度揺する。
ヒュ「おいこら、起きろ!」
そうこうしていると、後方で嫌な気配を感じた。
振り向くと燃えている木のそばでエモとレンシーが何か叫んでいるのが見え、エモはこちらへ向かって走り出していた。
レンシーも対峙している狼を防ぎながらこちらへ向かってくる。
ヒュドラには見えていなかった、すぐ近くに大きな狼が近づいているのを。
この狼、一旦姿を消したがエモとレンシーを他の狼に任せ虎視眈々と止めをさそうと狙っていたのだ。
無防備にニアスの方に向かったヒュドラを追いかけていたが、エモが気づき阻止しようとしていた。
ヒュドラが狼に気づいた時にはわずか数メートルの所にいて今にも襲いかかろうとしていた。
牙を剥きだしにした狼、ヒュドラは咄嗟に防御態勢を取ったが間に合いそうにない。
ヒュ「くっ」
腕に痛みが走る、噛みついたまま頭を振り引きちぎろうとする狼、ニアスも流石に目を覚ました。
狼はニアスにも飛びかかろうとしていたが、ニアスと目が合い、その腕に抱きかかえた狼を見つけて攻撃を躊躇した。
一歩後ずさった狼との間にヒュドラが割って入る、そしてエモはやっとのことで狼を狙い撃てる射程距離に入ったので槍を投げつけた。
「どうして・・・」
エモの投げた槍は狼の横腹を貫いた。
エ「命中した!ヒュドラ、大丈夫?」
狼は槍が刺さったままゆっくりとニアスに近づいて行った。
ヒュドラはその様子から狼にもう敵意がない事を感じ取った。
追いついたエモが警戒し、攻撃に転じようとしていたがヒュドラは制した。
狼は少し歩きニアスの元で倒れた。
二「大丈夫?その傷・・・」
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忘れていた!あの時あの場所で見たあの笑顔を。
いつも優しくしてくれたあの人の事を。
私はそれを忘れて今まで殺戮を繰り返していたのだ。
旅人に殺された母親の事は忘れることは出来なかった。
そしてその後に死んでしまったあの人の事も忘れはしなかった。
死んでいった母親の恨みを晴らす為、旅人に対して非情な行動をとっていた。
あの人が優しくしてくれたことを忘れて、私は、私は!
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「あ、ああ・・・聞いてくれるか・・・?」
ヒュ「ん?この狼喋れるのか?」
狼は語り出す。
「私は昔猛獣使いにに連れられていた狼でした。
ある町を訪れた時に母親を旅人に殺され、その後あの人も失いました。
それから村長の所で過ごしていました、数年経ち私に特別な能力を持っていたことに気付いたのです。
私は人の姿になり村長の元で助手として働くことになったのです、それは村長に恩返しがしたかったという理由だったと思います。
狼は人を襲うことはありませんでしたが、ある時旅人が狼狩りをしている所を見てしまい、私はそこで初めて人を襲ってしまったのです。
私はあの時あの町で見た光景を思い出してしまい、そしてそれから旅人を襲うようになり、仲間を護ってきたのです」
狼は苦しそうに、淡々と話している。
その間周りを囲んでいた狼たちは心配そうに近づき様子を窺っている。
ニアスは子供の狼を抱きしめていたが力を緩める。
子供の狼は腕の中から飛び出し倒れている狼に近づき顔を舐めた。
エモもヒュドラもレンシーもその様子を静かに見守っていた。
「今日、仲間の子供狼が居ないことに気づき、探していました。
臭いを辿るとあなた方が居て、狼を捕まえて何かしようとしていると思い込んでしまったのです。
そしてまた殺そうと襲いました。
しかしあなた(ニアス)を見た時、全て理解しました。
私もあの人に着いていった狼ですから」
ニ「そうだよね、急に居なくなったら心配するのはあたりまえだよ。私そんなこと今まで考えた事なかったよ」
「その子も納得して着いていくのでしょう。
連れて行ってください。小さな世界だけではなくもっと大きな世界を見せてあげて欲しい。
私からの我がままなお願いです。
ああ、今まで沢山の旅人の命を奪ってきました。
助手と偽り生きてきました。
苦しかった。誰かに言いたかった、今、やっと終わることができる。
やっと母親の元へ行ける、やっとあの人の元へ行ける・・・
撫でてくれてありがとう、名も知らないあなた・・・」
ニアスに抱かれた狼は息を引き取った。
二「レンシー・・・」
レ「傷は塞げば間に合いますが・・・」
リザレクションを使えば狼を生き返らせられるかもしれないが、狼はそれを望まないだろう。
レンシーはヒュドラに何かを求めたがヒュドラは首を振った。
エモは槍を抜くと「ごめん」と小さくつぶやいた。
周りにいた狼たちは遠吠えをあげる、それは悲しみを隠すかのようにいつもより強く、そして離れていった。
ヒュ「この狼を手厚く葬ってあげよう」
ニ「あ、私が」
ニアスが亡骸を抱くと涙をこぼし俯いた。
空はいつの間にか明るくなり始めたが、滲んだ景色はしばらく元に戻りそうにない。
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それから狼の亡骸を持ち、村に引き返し聖堂で司祭に会う。
これまでにあった事、狼が語った事を司祭に話した。
司祭「そうですか、そんなことがあったのですね。村長をここに呼びましょう」
しばらくして村長が到着すると横たわっていた狼を撫でた。
村長「そうか、君はあの時の狼なんだね。君は急に姿を消してしまい村人には死んでしまったと隠していたけども、
今まで助手として働いていたなんて」
司祭「私から村人には話しておきましょう。
到底受け入れられる事ではないでしょうが、きっと理解してくれるはずです」
村長「頼みます」
レ「そろそろ葬ってあげましょう。できればその親狼か猛獣使いの元で」
村長「そうですね、あの丘の上に墓があります」
司祭「私もこの狼の旅路を祈らせてください」
村の外れの、住居と小麦畑が一望できる丘。
司祭とレンシーが祈ると空に大きな光の円が広がり、散っていった。
狼の亡骸から何かが飛び出し天にのぼっていったように見えた。
いつからそこにあったのだろうか、狼の傍らに光る石を見つけた。
ヒュ「これは宝石の欠片か?」
レ「そうみたいですね、この狼も赤い石の影響を受けていたのかもしれないです」
宝石の欠片は人を惑わし狂気を誘う、この狼は宝石の影響で人間に変身できたのだろう。
エモは拾い上げると袋に仕舞った。
ヒュ「さて、一段落したことだし行こうか」
レ「そうですね、あとは二人に任せましょう」
エ「ニアス、そろそろ行こう」
エモ、ヒュドラ、レンシーは歩きだしたが、ニアスは消えていく狼の残像を追いかけるように天を仰いだ。
二「ありがとう、この子には悲しい思いはさせないからね」
そう呟くと子供の狼を連れてエモたちの後を追った。




